見出し画像

バンプで生き延びたロスジェネ女

ベイビーアイラブユーな感じの新曲が出たらしい。MVは見た。まだ買ってない。移動中に音を聴く習慣がなくなって幾星霜、CDラジカセも引越しの時に処分してしまい、いつ、何の端末に音楽を入れたらいいかわからないまま、買っていない音源や、買ったまま放置されたCDがたくさんある。せめて買ったのはPCに取り込むなりなんなりしたまへよ。

私の人生を変えた音楽はそう多くない。なにせ、私はあまり耳がよくない。別に聴力は問題ないのだが、とにかく聞き取りができない。その上、身体的な特徴として、たまたま私は他人より極端に指が開かないので、ソプラノリコーダーすらまともに演奏できなかった。音楽の授業はいつも微妙な成績だった。しかも声が低いからと、いつも男子パートを歌わされた。

WEBで絶対音感テストを自信たっぷりに真剣に答えたら、奇跡の0点をはじき出して「適当にやっても0点はそうそう出せない」とか書かれた。相対音感は70点くらいだった。相対音感だけで今まで生きて来たのか。

そういうわけで、私の人生の中で音楽が占めているウェイトは恐らく普通の人よりもっずっと少なかったわけだが、それでもカラオケは好きだし、人生を変える曲にも出会ってきた。

1にCocco、2にボカロ、そしてBUMP OF CHICKENである。

その中でも、BUMP OF CHICKENは私を生き延びさせたといっても過言ではない。

私の世代でバンプ好きっていうと、大体『天体観測』から入っているわけだが、私はその1曲後の『ハルジオン』からファンになった。

恋愛系の歌に本当に興味がなかったので『天体観測』はよくある恋の歌でしょ?って思ってたんだな。全然ちゃんと聞いていなかった。反省。あと、正直、天体観測の頃は「あんまり好みの曲じゃないな」と思っていた。ファンになった後は、聴いているうちに何か好きになっていた。スルメか。

何故『ハルジオン』であったかと言えば、この曲が発表された当時、私が専門学校を卒業するも見事に就職に失敗し、かといって地元にも戻れず、人生の滑り出しを大コケしていた時期だったからだ。

一応成人していたが、何せ専門学校卒。しかも私3月末生まれ。成人したての女が泳ぎだすには就職超氷河期は厳しすぎた。しかも田舎から出てきて2年だから、バイト経験もろくにない。赤子のよちよち歩きかよ。

一応、就職が失敗した理由について自己弁護をしておくが、私は本当に直撃のロスジェネ世代なので、まず就職口がろくになかったのである。氷河期の中でもまさにどん底の世代。

しかも当時の札幌といえば、月給11万(※手取りではない)がマシな方で、新卒の月給9万(※手取りではない)なんてのもゴロゴロあった。

つまり、そんなんで正社員として就職しても、生活ができなかったのである。ましてや、私の実家は北海道でもほぼ横断した先(札幌からだと車で8時間くらい)であり「とりあえず実家に住んでいれば、少なくとも衣食住が確保できる」なんてこともなかった。

運よくまともなごく一部の会社に就職が決まらなければ、バイトでもした方がマシだった。

新卒の頃は「経験者しかいらん」と言われ、数年後には「新卒しかいらん」と言われるようになったのが、我々ロスジェネ世代である。

私は小説家になりたかった。ゲームのシナリオや企画をやれるようになりたかった。しかし、札幌にシナリオスクールはなく、2年で卒業できる道内の専門学校で、という条件付きで進学を許可されていたため、文系の大学に行く選択肢はなかった。私の地元は「女に進学させるなんてもったいない」みたいな世界観だったし、何せ当時は文系大学の就職率は、よほどの名門でないかぎり専門学校以下だったのだ……。

私は仕方なく、ゲーム会社に行けそうな美術系の専門学校に行ったが、まぁ当然だが大手ゲーム会社などは相当な画力がなければ専門学校生などは取ってくれず、それ以外となると零細のエロゲ会社とかが多く、お察しかもしれないが「出来高制」とか「月給10万以下」がごろごろあったのだ。やりたくても、そこに行ったら生活ができないのだ。

東京まで飛び出せば就職先も多少はあったのであろうが、面接に行く交通費が当時どれほど高かったことか。LCCなどない、札幌と東京を往復するのに6~10万円かかっていた当時のお話だ。

そんな私は、生活がヤバいまま職場を辞めたりクビになったり転々とした末に、契約社員で製版会社に入った。いわゆるDTPオペレーターである。

やったことがある人はわかると思うが、あれは地道かつ根気が必要で、しかも残業が多い。まだブラック企業なんて概念のなかったあの時代、ワークライフバランスなんて誰も考えない時代、とりあえず仕事はあるだけわんこそばの時代。もちろん残業代はない。

定時は8時からなのに、30分以上前について掃除をする義務があった。

定時は6時なのに、早く帰れる日で21時退社だった。

私は、ストレスで過敏性大腸炎になって、朝ご飯を食べると下すし、お金もないしで、毎朝板チョコレートを半分に割って、それを朝食にしていた。

油脂だからお腹を壊しやすくなるんじゃないか、と思われそうだが「一定量以上食べると下痢をするけど、カロリーがないとお昼まで持たない」というラインをギリギリ耐えられるのが板チョコ半分だった。

下っ端の私は毎日チラシの写真を切りぬいた。先輩たちは、自分たちが話す時は楽し気なのに、後輩の面倒を見る時は塩対応だった。

1回だけ、デザインをさせてもらったことがあり、それはとある店のポイントカードだったのだが、私のデザインを採用してもらえた。かといって、職場で私の地位が良くなるわけではなく、デザインを不採用にされた先輩の塩分濃度が上がった。私はますます下痢をするようになった。

BUMP OF  CHICKENの『ハルジオン』が出たのは、ちょうどその頃だ。職場で流れているラジオが、やたらとバンプを推していた。ことあるごとにバンプの曲が流れた。

死にそうな顔で写真のトリミングをしている間、ずっと後ろで流れているのだ。


生きてく意味をなくした時~♪

自分の価値を忘れた時~♪




………………………………。

※私の耳はポンコツなので、サビのここの部分しか聞き取れなかった。


ある日ついに根負けしたかのようにCDを買った。

だって、毎日生きていく意味と自分の価値をバンプに問われ続けるんですよ……。

ああ、でもあの時買って良かった。

暗い歌詞なんだと思っていた。辛い人の歌なんだと思っていた。

でも『ハルジオン』は立ち上がるための歌だった。

相変わらず、私の腹は毎朝急降下だった。私は『天体観測』とバンプのインディーズ時代のアルバム『THE LIVING DEAD』と『FLAME VEIN』を買った。

お腹は結局治らず、意欲もなくなっていた私は、会社を首になった。心底せいせいした。私は虹の作り方を思い出していた。そうだ、作家を目指そう。だって、バイトした方が生きていけるなら、無理して正社員を目指さなくなって、バイトで生活しながら作家目指せばいいじゃん。

かくして、3X歳まで正社員歴が1回もない奇跡のドブスキル女が爆誕した。

でも、あの日私が『ハルジオン』のCDを買わなければ、私はチョコレートをかじりながら胃に穴をあけて死んでいたのかもしれない。あのスケジュールで生きていれば、きっと作家になる夢など潰えていたに違いない。文章を書いて生きていきたかったのに、写真の切り抜きで生涯を終えていたかもしれぬ。

その後、製版会社で覚えたフォトショップで、居酒屋チェーンでメニューを作るバイトをして5年くらい生き延びた。

私もだいぶダメな社会人ではあったのだけど、お局様にネチネチいじめられるのを3年スルーし続けて勝利したり、すすきのの会社ゆえのゆるだるな空気に任せてネットをやりまくったり(やることをやっていれば、好きにしててもいいところがある職場だった)まぁまぁ、自由にさせてもらった。

その後、私は短編で賞をもらって、連載の仕事をもらった。作品の印税で、私は仕事をやめて前からやってみたかった本屋のバイトを始めた。本屋のバイトは10年続いた。

今にして思えば、印税をもらった時点で東京に出るのが正解だったと思うけれども、書店でコミック担当として10年過ごしたことは結果的に今の私を作っている。

『ハルジオン』が出たころ、バンプは当時流行っていた曲とはだいぶ違っていた。はっきりいって、当時の流行を考えると、よくぞ『天体観測』はあんなに大ヒットを飛ばせたものだと思う。

ロッキンオンジャパンが『何重にもフィルターをかけたみたいな音』という、Disってんのかとほめてるのかよくわからないコメントを書いていたくらいだ。一応注釈しておくけれど、当時ロキノンはバンプをめちゃくちゃ推していた。推しながらこの言いぐさである。

今となっては、バンプのような曲を作るバンドはそう珍しくないと思うけど、当時はなんというか、浮いていた。耳が大変なポンコツで、似たような曲調は全部同じに聴こえる私ですら、バンプの曲はイントロでわかった。

あと、バンプは演奏が上手くなかった。これまたロキノンがアルバム『Jupiter』をだした時に「あんなに下手だった彼らが成長した!」と、だからその落としてから上げるのはなんなんだよ!というコメントをしていた。
……重ねて言うが、ロキノンは当時バンプを激推ししている。めちゃくちゃ特集を組んでいた。だからDisってはいない。多分。

でもまぁ、本当にヘタだった。インディーズ時代のビデオクリップ集(まさにビデオテープのやつを持っている。今も多分引越し荷物の箱の中にいる)でライブ音源が収録されているが、ポンコツ耳の私ですら「お、おう?」となるくらいには。CDは収録した中で一番イケてる音源を、きちんとマスタリングしたやつだもんな!?

そういうわけで、流行の音も出さず、正直演奏もそんなにうまくなかったBUMP OF  CHICKENは、当時割と異端な売れ方をしていたと思う。

何となく、当時は意味深不可解な歌詞や、いかにも青春といった歌詞の曲が多かったように思う。ゼロ年代以降の日本のアーティストの傾向は、男性も女性も高音重視のイメージ。少し低めの声で歌う藤くんの声は、ちょっと当時のメインストリームからは外れていた。

バンプが何故そこまで売れたかと言えば、やっぱり歌詞がよかったからだと思う。あの独特の歌詞が、流行から少し外れたところにいるからこそ、逆に存在感を放ったメロディーにのって飛んでくる。

だって、曲のキモとも言えるサビの部分で「見えないものを見ようとして」とか「生きている意味をなくした時」とか、ストレートかつ人生観を刺すフレーズいれようと思います?

あと、バンプの歌詞で抑「物語がある」とか言われるんですけど、実は明確に「物語」が成立しているのって意外と少ないんですよね。

ラフ・メイカー

ダンデライオン

Ever lasting lie

ハンマーソングと痛みの塔

ぱっと思いつく「明らかに起承転結がある」のはこのあたり。『グングニル』も含めていいかな。

でも、バンプの曲って基本的に全部「オチがある」んですよね。

『天体観測』で見えないものを見ようとした彼は、隣に「君」がいなくなっても「二人」で「イマ」を生きている。

『ハルジオン』で虹を作っていた彼は、自分の中に雑草のように咲き続ける信念の花を見つける。

曲の中で問いかけられた哲学に、ラストフレーズでアンサーが来る。それがBUMP OF  CHICKENの作る曲なんだ。

別にイイこと言ってるわけじゃないこともある。『ホリデイ』なんて、寝坊して遅刻しそうなのにうだうだ布団と友達になってる歌だし。でもちゃんと答えをだすんだよ。寝坊したらもう辛くて布団から出たくないことへのアンサーを、ちゃんと出すんだよ。(それはそれとして布団からはでてないけど)

物語仕立てにすれば歌詞なんて誰でも書ける、なんて言っていた人を見たことがあるが、一度でも作文の宿題に苦戦をしたことがあるならそんな口はきけないと思う。歌詞は作文よりもはるかに難易度が高い。

長くてもせいぜい5~6分の曲がほとんどの中、自分で作詞作曲だから自由は利くにしても、その枠内で「歌詞の中で綺麗にクエスチョンとアンサーを出す」ことがどれほど難しいことか。

ボカロかじっていた頃に、作詞を結構やっていたけれど、ホントにオチが上手くつかない。似たフレーズを上手く繰り返して、最終的にオチにすることの難しさよ。本当にああでもない、こうでもない、ってやっているのに「歌詞なんて誰でもできる」と言われた回数の多さよ。それなら自分で書くかインストやってろ!(暴言)

まぁ、そんな私の個人的なムカっ腹エピソードは置いとくとして、バンプの書く歌詞に「答え」をもらった人は多いと思うんだよな、という話なのだった。

その答えが、決してきれいごとだけではなく、悲観的なわけでもなく、ただただ、この問いに関する俺たちのアンサーはこれだぞ、と歌うのだ。

バンプは別に暗くなりすぎず、底抜けに明るいわけでもなく、でもCDの隠しトラックには変な音源を仕込むバンドなんだよ。あとPVで半裸の腕立て伏せをしたり、PV集のオマケクリップで何故か崖の上でコマネチしてたりする。

※今のプレイヤーではできないのでなくなったけど、当初は「逆再生しなければ再生されないオマケトラック」などがあった。さすがに難易度が高すぎたのか(あとは多分、単純に実行できるプレイヤーが少なくなったので)無音状態から13分後に突如再生されるイカレた曲などが入るようになった

…………ダウンロード販売だと隠しトラックはないのかな……さすがに。

まぁ、だいぶ長話になったけれども、私はバンプの『ハルジオン』に命を救われて今日まで生きているという話である。

ハルジオンのほかには『ロストマン』『HAPPY』『才悩人応援歌』あたりが好きです。

特にHAPPYのね、『どうせいつか終わる旅』ってところが好きですね。

人生が素晴らしいものになるとは限らない。ダメかもしれない。でもこれはどうせいつか終わる旅だから、生きていればハッピーになることだってあるかもしれない。

私は人生が素晴らしいと思えたことはほとんどなくて(まぁ、オタクなんで萌えた時とかは瞬間最大風速的に最高!!とか言いますけど)、私の人生最高潮の幸せは、私の話をきちんと聞いてくれる祖母が生きていた7歳までで、それ以降は「何かかみ合わない人と何かかみ合わないままよろよろ生きてる」んだけども、優しく明るく朗らかに生きられないことは別に生きる意味がないってこととイコールじゃなくていいんだよ。

デビューしても全然売れなかったし、やっと決まった正社員の職がパワハラクソ上司のせいで台無しになったので上司を口でめちゃくちゃに言い負かして辞めてきてしまったし、派遣は時給制だから出勤日数少ない月はマジで生活の危機だからさっさとライター復帰したいけど仕事のアテがないし。

ああ、それでも生きているんだなー。思えば遠くにきたものだ。すっかり大人になりましたが、精神年齢の方はどうだろうな!

ロスジェネ女を1人この世に繋ぎ止めたんんだよバンプオブチキンさん。

すごいじゃん、ヒーローだよ。やっぱ新曲買います。ベイビーアイラブユーだぜ。



仕事のご依頼はいつでも募集してますご相談ください!!(必死)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?