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ふと「自分宛」に企画書を書いてみたら、働き方が激変した

人生で、いくつ企画書を書きましたか?

僕は、だいたい年に50回ぐらい企画書をつくっています(広告会社につとめているので平均より多いかもしれません)。これまで17年ほど社会人をやってきているので、つまりは合計800~900回も企画書を書いてきた計算になります。

いくらなんでも書きすぎだ。

僕は企画書を書くために生まれてきたのでしょうか?いや違う。僕を現世に送り出すときに神は、「生を受けたら、立派な企画書を書くんだよ」と告げ、優しく天使(僕)の頭を撫でたのでしょうか。そんなわけない、断じて。

だけどビジネスシーンにおいては企画書は必須です。それは考え方を贈る行為だからです。働くとは、考えを共有し、ひとつにし、今よりもより良い未来へと進んでいく営みです。その際、考えを可視化したり体系化したりフレーム化するためには、やはり企画書という共通言語はあってしかるべきなのです。

そんなある日、ふと思いました。
「自分に企画書って書いたことがないな」。

僕はふだん、クライアントに向けて企画書を書いています。でも、自分をクライアントとし、自分で自分のクリエイティブディレクションをしてもいいのではないかと思ったのです。ちょうどキャリアについて悩んでいた時期だったので、自分自身に働き方の提案をしようと決めました。

「自分 御中」から始まる働き方発明

思い立ったが吉日。まずは表紙をつくってみました。

自分 御中。

なんともいえない字面です。「代打、俺」のような、いかんともしがたい感情が襲ってきます。

でも自分と向き合うことなんて、就活で自己分析をしたときくらいのもの。その自己分析だって、自分の「強み」ばかりを見て、企業にアピールできることを捻りだす、みたいなことだったはずです。

それだけじゃなくて、強みだけじゃなく、自分の「弱さ」も含め、全自分と向き合おうと思いました。

コンプレックスと向き合い、マイノリティ当事者としての自分を発見する。すると、自分の中に「クライアント」が生まるだろうと。結果、新しい働き方を発明することができるんじゃないか。

それから何度か更新を繰り返し、僕は7つの軸で自分の働き方を見つめ直すことにしました。では、始めます。

自分の感情を知る
——自分の「マイ・ベスト・喜怒哀楽」は?

まず、過去から今の自分を知り、そこから未来の働き方をつくります。

自分を知る一歩目として、「自分の感情を知る」ことから始める。自分に「なにができる・できない」「したい・したくない」という話の前に、自分は今までの人生で、「なにに対してどう感じてきたのか」を振り返ってみるんです。

で、どうやって自分の感情を振り返るか。おすすめしたいのが、「マイ・ベスト・喜怒哀楽」を整理することです。

つまり、自分の人生で、いちばん喜んだこと、怒ったこと、哀しかったこと、楽しかったことを、可視化してみる。僕は社会人になる直前にはじめて整理してみて、その後人生に変化が起こるたびに、表を更新しつづけています。

たとえば僕の場合、30歳まではこんな感じでした。

喜: 8000万人が観たCMをつくったこと
怒: フランスで転校の選択を間違ってしまったこと
哀: その結果、学校で孤独になって、1年に二言しかしゃべらなかったこと
楽: チームみんなでCMづくりに邁進したこと

けれども目が見えない息子が生まれ、仕事内容が変わってからは、「マイ・ベスト・喜怒哀楽」は一気にアップデートされました。

喜: 息子が二度の手術を無事に終え、家族みんなで買い物に行ったこと
怒: 息子の目を見えなくした神様を恨んだこと
哀: 息子に障害があると発覚したこと
楽: ゆるスポーツ発のイベント「ゆるスポーツランド」を開催したこと

興味深かったのは、「怒」や「哀」というネガティブな感情が変化すると「喜」や「楽」というポジティブな感情もつられて変化する、ということでした。

例えば、「喜」。入院・手術を2回し、息子がようやく退院したあとのある土曜日。「これでしばらくは入院しなくていいよね」なんて妻と話して、息子を抱っこしながら、スーパーで白菜とキュウリとミートボールなんかを買いました。

僕は、しみじみと幸せを感じました。あれほど穏やかな気持ちでいられるのは、久々のことだった。その喜びと比べたら、自分のつくった仕事を多くの人に見てもらえたことは重要ではなくなった。「なにがそんなにうれしかったんだろう?」。僕の価値観はすっかり変わってしまいました。

「マイ・ベスト・喜怒哀楽」は、1つひとつの出来事はだれかと被ることもありますが、喜怒哀楽の4つがすべて重なることはありません。4つの因子をかけ合わせることで、あなただけの人生が姿を現します。

「自分らしさがわからない」「自分なんて平凡な人間だ」と思っている人こそ、自分の感情を丸ごと振り返って、喜怒哀楽を可視化してみてください。

専門性を磨いて知識やスキルを身につけるのも、働くうえで大切なことではありますが、それ以上に重要なのは、これまであなたがどういう時間を過ごして、どう感じてきたか。そこに、あなたらしさが宿っています。

自分の役割を知る
——「貢献ポートフォリオ」をつくろう

自分の感情を理解できたら、次に見つめるのは自分の役割。

生きるとは、特に働くことは、だれかに貢献することにほかなりません。でも、なんとなく、なあなあで、流れるままに働いていると、「結局のところだれのために働いているんだっけ?」と現在地を見失うことになります。だからこそ、まずは今の自分が、だれに貢献して、どのくらい時間と労力を費やしているのか、その割合を可視化することが大切です。

それが、「貢献ポートフォリオ」です。

たとえば、僕の場合はこうです。

・ 会社に入社したばかりの頃
「会社=100%」

新人の頃は、きっと多くのビジネスマンと同じく、週末も深夜も休まず働きつづけていました。つまり「会社貢献」ばっかりだったんです。プライベートを充実させる余裕は、ほとんどありませんでした。

・ 入社3年目の頃
「会社:自分=50%:50%」

余裕ができはじめた頃には、読書にふけったり、仲間と集ったり、自分のための時間も増えていきました。つまり「自分貢献」の割合が増して、会社貢献と半々になりました。

・ 息子の障害がわかった頃
「会社:家族:自分=20%:70%:10%」

息子が生まれて、一気に会社の割合を20%まで減らし、家族の割合を70%まで上げました。それくらい家庭の比率を上げなければ、生活が成り立ちませんでした。

そこからさまざまなプロジェクトに関わるようになって、障害のある友人たちへの貢献度の割合が高くなり、今では会社と家庭と友人と自分の貢献度のバランスが、うまく取れるようになってきました。僕の場合は、貢献している他者が多様でバランスが取れていればいるほど、健全に働けている実感があります。

・ 現在
「会社:自分:家族:友人=25%:15%:30%:30%」

器用すぎる人ほど、
「自分貢献」という項目も加えよう

優秀な人ほど、はたから見ていて思うことがあります。「限りある時間を他人のために使いすぎている」「もうそれ以上、他人からの期待に応えなくてもいいんじゃない?」と。それ以上やると、いつまでも自分が後回しになってしまう。

自分の手を動かして、なんだってできてしまう人ほど、次々仕事が降ってきます。「この案件やっといて」「今これ担当できる?」。もちろん出されたお題を完璧に解いて、見事に返す美学もあります。オーダーに100%の力で応えてこそ、プロです。

でも、そればっかりで自分のことを考慮しない、ふわっとした「だれか」に尽くすばかりが人生ではありません。

自分の才能を、もっと具体的に自分自身のために使ってかまわないんです。

自分の得意技を知る
——仮にあなたが超人だったら

さて、自分の「感情」と「役割」を知ることができたら、いよいよ自分の「得意技」を見つめていきます。と言うと、「いやいやわたしにはそんなものありません」と言う方がかならずいます。

でも大丈夫。一度、仮に自分をスーパーマンだと見立ててください(バットマンでもアクアマンでもワンダーウーマンでも、好きなヒーローでいいんですが)。とにかく自分を、凡人ではなく超人だと思い込む。

僕が仮に「澤田マン(超澤田)」だとしたら、澤田マンの得意技ってなんだろう? と考えてみる。普段の、普通の自分ではなく、あくまで「だれかを救うときに発揮される自分のスーパーマン性」に想いを馳せます。

と同時に、最低でも「8つ」探してください。この数が大事です。途中でかならずネタが切れます。絞り出すしかありません。すると、「別に自分では大したことないと思ってるけど……」と思い込んでいる自分の特性をテーブルに乗せざるを得ません。

勝負はそこからです。

自分の会社で「当たり前の力」は、
他業種で「感謝される力」

以前、通信会社に10年以上勤めている友人が言っていました。

「ずっと通信一筋で、果たして自分の中でなにが積み上がっているか、わからなかったんだよね。でも、他業種の人から5Gの質問をされて、自分としては当たり前のことを伝えたらすごく感謝されたんだよ」。

そう、これが大事なポイントです。

「自分では当たり前だと思っている自分の力」は、他業種にスライドさせたときに「感謝される力」になるんです。

8つも得意技を書くとなると、「別に通信に詳しいなんて大したことないと思ってるけど……」も、リストに入れざるを得ない。そして、ほかの7つの得意技も含めて、客観的に総合的に見たときに、どう映るか。

僕が得意技に入れた「キャッチコピーが書ける」「企画が好き」。これ、広告のクリエイターからすると当たり前すぎます。超普通。

でも、この力が広告業界の外では感謝されることは福祉の仕事で実感しましたし、また、こうしてスライドにまとめると、自分の力がいつもより輝いて見えます。

つまり3つ目の分析は、自分が持つ力を、「今までにないぐらい祝福するためのパート」とも言えます。

自分の苦手を知る
——生まれ変わったときになくなっていてほしいものは?

さて、自分を知るための最後のスライドは「苦手」です。

このパートでは、普段自分がフタをしている、苦手意識を持っているモノや、嫌だなと思っている慣例・慣習、納得がいかない常識などを直視してみます。もっと言うと次、仮に自分が人間に生まれ変わったら、絶対に世界からなくなっていてほしい3つをピックアップする。100個ぐらいリストアップしてもいいんですが、ここではあえて3つに絞ります。

それから、自分が苦手なモノの金・銀・銅メダルを決めていく。順位づけをすると、それぞれを比較するときに自然と、なぜ苦手かを言語化することができるからです。

偏見や既得権益も苦手なのですが、僕の中で、子どもの頃からダントツ苦手なのは「スポーツ」です。大人になってからも、仕事ができる体育会系の人に理不尽な要求をされたとか、スポーツ業界の偉い人と会ったときに偉そうだったとか(偉いから仕方ないけど)、とにかくスポーツにはいい印象がないので圧倒的金メダルです。

これで自己分析は完了です。

「自分なんて普通」「なにもない」と思っていても、やっぱり人生には圧倒的な情報量とオリジナリティが詰まっています。

自分に企画書をしたためるとは、自分という冷蔵庫を開けて、どんな材料があるかを丁寧に見つめることでもあります。

あとはどう料理して「新しい働き方」をつくるか、です。

人生のコンセプトをつくる
——働く理由を「スタート地点」に置く

ここからの調理法は無限にあります(料理の可能性が無限にあるように)。

「マイ・ベスト・喜怒哀楽」から入って、過去の自分のどの感情を拠り所にするか考えてもよし。「貢献ポートフォリオ」を見ながら、「あれ、実は家族貢献が少ないな」とか「年々、会社貢献比率が上がりすぎているな」とか、改めてだれのために働くのかを定義をしてもいい。はたまた、倒したい「苦手」を定めて、自分のどの「得意技」をぶつけるかを想像してもいい。自分というクライアントのクリエイティブディレクターとして、提案をしていきましょう。

ある学生の子は、潔癖症な部分が、自分の「苦手」だと気づいたと言います。

外から持って帰ったものをベッドに置けない、何度も手を洗ってしまう。「来世は潔癖症じゃないといいな」と思っていたそうです。でも、マイノリティデザインを知って、「自分もいつか、この気持ちを持っている人が、どうにか救われるモノやコトをつくりたいなと感じました」と言ってくれました。

僕の場合、起点になったのは、やはり人生でいちばん哀しかった「息子の障害が発覚した」ときの感情です。

今なら、あのときの落ち込みは、僕の中に染みついていた「障害があるのは、かわいそうなことなんだ」という偏見によるものが大きいことがわかります。

その偏見を取り除くために、僕は自分の得意な言葉や企画を使って、息子や障害当事者である友人たちに貢献していこう。そう決めたんです。

そのとき生まれたのが「マイノリティデザイン」というコンセプト。この言葉も、自分への企画書をつくる中で出てきたんです。もう、圧倒的に、自分の中から生まれたコンセプトです。そしてこれは、今まで他者や他社のためにしか提案してこなかった僕が、生まれてはじめて自分にプレゼントしたコンセプトでした。

もっと、仕事で得た力を、みんなが自分の人生と接続できたなら。大切な人のために自分の才能を使えたなら。自分の弱さや苦手なことのために、もっと時間を使えたなら。働き方に、大変革が起きるんです。

自分をディレクションする
——人生に「立ち入り禁止ゾーン」を設定する

スタートラインが決まったら、次にクリエイティブディレクターとしてすべきは、チーム(自分)をディレクションすることです。つまり、「こっちに行こう」という方向性を示すこと。そのとき僕が決めたのは、この3つでした。

①  広告で得た力を、広告以外に生かす
②  マスではなく、ひとりのために
③  ファストアイデアから、持続可能なアイデアへ

そして、同じぐらい大切なのは「なにをやらないか」というディレクションでした。「こっちの道は絶対に歩くな」という警告。自分の中に立ち入り禁止ゾーンをつくっておかないと、せっかくいいスタートを切れても、迷子になったり、振り出しに戻ってしまうことがあります。

「なにをやらないか」は、人生のコンセプトに対して、その障害となってしまいそうな「過去にやってしまっていた行動」を振り返れば見えてきます。

僕の場合は、この3つでした。

① 納品思考に陥ること
② ビールの美味しさに惑わされること
③ 代案に頼ること

特にこの「なにをやらないか」については、3/3発売の新著で詳しく説明していますので、よければ手にとってみてください。②にドキッとします。

トンマナをつくる
——働き方のキャラや雰囲気を考える

では、いよいよ自分企画書の最後のパートです。「トンマナ」は広告や映像業界の専門用語なんですが、「トーン&マナー」の略です。たとえばCMをつくるとき、企画や演出も大事ですが、監督とトンマナについても話し合います。

一言で言ってしまうと「雰囲気」のことです。

カラッと明るい雰囲気にするか、バキバキに派手な雰囲気にするか、毒々しくてビビッドな雰囲気にするか。トンマナが決まれば、タレントさんのセリフの喋り方、音楽の選び方、映像の色味などの方向性が自ずと決まっていきます。「キャラ」みたいなものですね。そして、このトンマナが、広告表現における印象を大きく左右します。なので、自分の働き方をつくるときにも、この「トンマナ」は外せないなと思いました。

そこで僕は、「ユーモラス+チャーミング」を設定したんです。

マジメな話はマジメに伝えたほうがいいかというと、そんなことはありません。ほどよいユーモアと、とっつきやすいチャーミングさがあったほうが耳を傾けてもらえることがあります。テーマが難しくて、重くて、自分ごとじゃないときこそ、このやり方が必要だと、僕は広告の経験で知っています。

ということで、ついに「自分 御中」の企画書が完成しました。

悲喜こもごも3枚のカードを組み合わせる

最近よく「3つの強みをかけあわせて、100万分の一の人材になろう」ということを聞きます。どういうことかというと、「1/100人」ぐらいの希少性ある強みを3つ探して、かけあわせると「1/100万人」になれるよ、という話です。つまり「1/100」の(それなりの)レアカードを3枚揃えるといいよ、ということだと解釈しています。

おもしろい理論ですが、その「1/100」強みカードを3枚探すのがけっこう難しいなと思ってしまいます。なぜなら、強みはかぶるからです。『ガチガチの世界をゆるめる』でも書いたのですが、僕は「強さは一律、弱さは多様」だと確信しています。

だからこそ重要なのは、3枚のカードのうち1、2枚は、「弱さ」「苦手」カードを入れてみる、ということです。では、そのカードはどこにあるか?これまで書いてきた自分企画書の中です。

僕は今世界ゆるスポーツ協会の代表をつとめていますが、これは:

①スポーツが世界で一番苦手×②企画が好き×③コピーが書ける

という3枚のカードを組み合わせることで生まれた仕事です。もし①に強さカードを選んでいたら、ゆるスポーツは生まれていません。

つまり自分企画書とは、自分の手元にどんなカードがあるかを、「強さ」「得意」「好き」だけではなく、「弱さ」「苦手」「悲しさ」も含め、悲喜こもごも全てをテーブルに乗せてみる作業だったのです。

自分のマジョリティ性だけではなく、マイノリティ性にも目を向けて、一枚のカードとして堂々と切ってみる。このことに気づいてから、僕は自分の新しい働き方を発明することができました。「マイノリティデザイン」の誕生です。

「自分企画書」から具体的にどのような仕事やプロジェクトが生まれたかは、3/3発売の『マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう』でたっぷり語っていますので、よければ手にとってみてください。

自分をクライアントにするこの方法については、3月3日(水)の島田彩さんとの対談イベントでもたくさん話す予定です。

島田さんはタイムリーに、自分の弱さを生かして、今度NHK Eテレの番組にも出演されるみたいです。

みなさんも、ぜひ自分企画書を書いてみてください。自分と向き合うための、大事な筋肉がつきますよ。


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