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嫉妬虚無

1.

今時珍しい着流しの和装を身にまとった長身の男とヨレたTシャツを着ている男が都内のまだ古い建物と新しいマンションが交互に立ち並ぶ住宅街を二人で並んで歩いていた。
着流しの男は痩身ではあるが肩幅もしっかりして、彫りの深い顔と知性を感じる眼鏡、櫛を通してない少しだけ癖のある髪型が何だか教科書や映画で見たことある明治・大正の文豪の様な印象を見る人に与えていて、その隣の男はまだ中学生かと思うくらい童顔で足も短い。並ぶ姿はまるで主人と侍従のようにも見えた。
「なあアヤセ」
長身の和装の男が背の低い男に声を掛けた。
「どうしたブンゾ?」
「どうして人間は飯を作って食べなければいけないと思う?」
「なに急に?」
綾世の両手には沢山の食材がビニール袋に入れられていた。
今日は食材購入日で、朝食を食べて二人で少し歩いて業務用スーパーへと徒歩で買い物に行った帰りだった。
「飯食わなきゃ死んじゃう?」
「そんな事は当たり前だろ?」
質問しておきながらが答えを聞いて壬生野文蔵(みぶのぶんぞう)は綾世をバカにしたが、文蔵の言葉に慣れているのかビニール袋を持ってる綾世は溜息を付く。
「飯を食わずにただ家で横になっていれば一番エネルギーの消費も低いし環境にも優しい生き方だ、アヤセやってみたらどうだ?」
「食料たくさん買い込んだ日に言う? それに僕が飯作らなくなったら君はどうやってご飯を作る?」
両手に下げたビニール袋を持ち上げて志村綾世(しむらあやせ)は文蔵に見せつける。
「まあアヤセの代りに誰かお手伝いさんでも雇わなければいけないな」
文蔵は料理は出来るが自分からやろうとは思わない人間だった。それだったら外食するなり出前でも取る考え方の持ち主だった。
「飯くらい自分で作れば良いのに」
東京に出て来てからずっと貧乏で自炊している綾世にしてみれば、自分で飯を作る気が全くない文蔵の考えはなんとも余裕がある暮らしぶりに呆れた。
「今では完全食や点滴なんかでやろうと思えば食事の回数を減らして生きていけるのだろうが、何故か人間そこまで真剣に考えた事もない気がするな」
和装に雪駄と呼ばれる下がゴム張りの草履をシャッシャと引きずりなが歩く文蔵は何やら真剣に考えていて悩む青年のように見えるが、綾世は別に考えているのではなく、思いついただけですぐに自分の世界に入り込んでしまってるだけなのだろうなあと思った。この和装の青年は歩きながらぼんやりと考えるのが好きなのだ。
実際散歩は好きで、偶に一人でブラブラと散策に出かける。だから荷物を持って帰るということは嫌いなので綾世に任せていた。
「まあ毎日同じご飯を食べてた時も特に困らなかったが、ここ最近アヤセが作る飯が少し凝った物になって来たのは作るのが慣れて来たからか?」
「そう?」
綾世は嬉しそうに文蔵に顔を向けた。
「だからと言って毎日楽しみにするほど美味いわけではないがな」
「僕の飯が嫌いなのか?」
「好きとか嫌いとかではないのだろう食事というのは?」
笑いもせずに文蔵は隣に立つ綾世を見下ろす。
「まあ対した家賃も入れずに居候してるんだから飯でも作らないの肩身狭いだろ?」
「そうですね先生」
綾世の言葉に文蔵は眉間に皺を寄せる。
「僕は先生じゃない、壬生野文蔵だ!」
綾世が文蔵の事を先生と呼んだのは風貌が文豪の様な作家先生に見えるのを揶揄したからでは無い。文蔵は本当に作家先生だった。
高校生の時に既に文藝賞、そして大学在学中に芥川賞と文壇の大スターなのだ。
だが本人の人嫌いと、出版社やメディアとの喧嘩を経て現在は隠居に近い生活を送っていた。
「本当に君は先生と呼ばれるのが嫌いなんだね」
「文蔵って名前があるのに別の名前で呼ばれるのが嫌なだけなんだ」
春先の天気が良い休日に二人の男はたわいの無い会話をしながら歩く。
やがて二人が歩みを止めて真新しい白い壁と、手の行き届いた植栽に囲まれたマンションの入り口に立った。
エントランスがガラス張りのマンションは、山手線内という土地の中にあってそれこそ今では普通に会社勤めをして生きていたら殆ど手に入れることのできない住環境だった。
ヨレヨレのTシャツを着ている綾世がガラス張りのマンションのエントランスを見てため息をまたついた。
都内の山手線の内側、古い住宅街の中にあるオートロックの新築マンションで暮らせるのはこの和装の変わり者、文蔵のおかげだった。
山しかない県から東京に出て来て、まさかこんな所に住む事になるとは思わなかった。
「どうした?」
自動ドアを開けて先に進む文蔵から声を掛けられて綾世はゆっくりとその後ろをついて行く。
綾世は一瞬自分がここに住んでるのが夢の様に思えた。
綾世はまだ雑誌掲載デビュー出来てない売れないどころか、まだ売った事もない漫画家志望の青年だった。
このマンションの一階の奥にある一番日当たりが良い角部屋の3LDKを文蔵は親から与えられて暮らしていて、その一室を綾世が借り受けている。
借り受けていると言えばシェアハウスみたいに聞こえるが、バイトしている綾世が払える金額はたかが知れていて、相場より大分安い。
だから家の家事や洗濯、その一切を文蔵に変わって綾世は毎日こなしていてほぼ家事手伝いとして暮らしている。
ふとしたきっかけで文蔵と知り合い、綺麗なマンションに暮らさせてもらってなんだか恐縮する。
多分自分の力でこのマンションに入居しようとするにはどうすれば良いのか想像もつかなかった。
お金はある所にはあって自分の手元には無い。
当たり前の事ながら改めて思い知らされるたびに溜息が出る。
無邪気に自分が文蔵と知り合った事で綺麗なマンションに居候できる喜びを噛み締めれば良いのだろうが、他人の好意を素直に受け取るには歳をとったとは思う。
エントランスを抜けて駐車場に面した廊下の端が文蔵と綾世が暮らす部屋なのだが、ちょうど文蔵達の部屋の前に人が居た。
髪の長い女の子が大きなスーツケースに腰を掛けて足をぶらつかせて、スマートフォンを覗きこんでいた。
背中にまで掛かる髪の長い子で大きめのカットソーからは細長い手が真っ直ぐに伸びて、ティアードのスカートからも細い足首が見えた。
まるでファッション雑誌に載ってるモデルのような線が細いが健康的な若い女の子が引き篭もりの小説家の家の前で待っていた。
「あっ文蔵!」
スーツケースから腰を離して、スニーカーで廊下を踏み込むと女の子は一気に文蔵めがけて駆けて来た。
手を広げて抱きつく様に近づくと、文蔵が眉間に皺を寄せたのをチラリと見たのかつま先で急ブレーキした。
「よっと」
女の子は手を振ってバランスを取ってはみたが、勢いをつけすぎたのかそのまま前のめりに倒れそうになった。
「まずい!」
そう言って女の子は隣の綾世に腕を伸ばした。
綾世の両肩に手を置いて、ぶら下がる様に体を預けた。
「ごめんなさい」
女の子に寄り掛かられて綾世は声も出ずに、まるで死後硬直の様に直立不動で固まってしまった。
「大丈夫?」
手を離して女の子は綾世の真っ赤になった顔を見た。
「ふぁい」
ハイと返事しようと思ったのだが、綾世は力が抜けた。
「こんなところで何をしてるんだ七海(ななみ)?」
文蔵は綾世に飛びついた女の子を知っている様だった。
「ちょっと文蔵、私今日ここに来るって言ったじゃん!?」
腰に手を当てて怒りながら、女の子は文蔵と呼び捨てにして言い寄った。
「何の事だ?」
文蔵は全く見覚えがないのか、それともただ横柄なだけなのか動じない。
「もう昨日もメールしたでしょ?」
「ああ、そう言えばそうだったな」
「忘れてたの?」
「いや覚えていたが意識はしてなかった」
「私が来る事を覚えてるんだったら意識してよ」
「お前が勝手に親の反対押し切って来るというから呆れて考えることを止めたんだ」
二人がどういう仲なのかイマイチ理解しきれないのと、先ほど抱きつかれた衝撃でまだ綾世は固まっていた。
気にもせずに女の子は声のトーンを上げて話を続ける。
「だってせっかく文蔵のマンションが大学の近くにあるのに、そこで暮らしちゃダメなんて言うのよ学校の寮に入れって」
腕を組みながらまだ七海は怒っているようだった。
綾世は隣で女の子の話を聞きながらだんだんと笑ったり怒ったりする女の子の横顔に見惚れていた。
ずっと漫画ばかり描いていて、同年代くらいの若い女の子、しかもテレビでしか見た事ない小さな顔と輝いている黒髪、さっき抱きつかれた時の甘やかな香りと合わさって、田舎の男子校育ちで一度も女の子と付き合った事がない綾世には刺激が強すぎた。
「まあ七海をいきなり都会で一人暮らしさせるのは不安だろう」
「だから妥協点として文蔵の住んでる所だったらOKだって」
「ふむ、じゃあ僕が断れば七海はどこで暮らすんだ?」
「ちょっと、何でそういう事言うの?」
「僕の選択肢を防がれて、勝手に話を進められて不愉快だ」
「もう、相変わらずの捻くれ者ね」
七海は大きくため息をついた。
「お前のその勝手に話を進める所も相変わらずだ」
二人とも睨み合ったままどちらも腕を組んでいた。
「あっ」
七海が先に文蔵の隣に立っている綾世の事を思い出した。
「ごめんなさい、急に兄妹喧嘩始めちゃって」
「兄妹? ブンゾ、君に妹がいたのか?」
「ああその様だな」
「もう文蔵は本当に自分の事しか興味ないんだから、家族の事友達にも何も話してないんでしょ?」
「友達?」
「友達じゃないの?」
文蔵は綾世の方を見ると目が合った。
「アヤセは別に友達じゃない」
「えっじゃあ何だよ?」
綾世が驚いて声を上げる。
「ペット未満のルームシェアの同居人だ」
「どう言う意味だよ。ペット未満のルームシェアの同居人って?」
「言葉通りだろ? 相場の十分の一ほどの金額の家賃と食費は折半で暮らしてる君はあともう少しで僕の愛玩動物に近い存在じゃないか?まあ別に可愛くもないからペットと言うよりは家畜の方が近いが君はつまらない漫画しか生み出せてないから家畜ほど僕に貢献はできてないがな」
「人の事ペット呼ばわりするなよ!」
「ペット未満だと言った」
「家畜よりも価値が低いとも言うな」
「家畜は人間が生産するためにあえて囲いを作って野生から切り離して共生関係を気づくものだ。君は何も生み出せていないんだから牛舎の牛よりも僕に取って価値が低いのは明白だろ?」
綾世と文蔵はマンションの廊下でお互い睨み合っている。
その姿を見て七海はクスクスと笑い始める。
「本当にどんな関係なの文蔵?」
「拾った」
文蔵は堂々と言った。
「僕がアヤセをゴミ捨て場で拾ったんだ」
七海が呆れた顔をした後で確認しようと綾世の方を見ると恥ずかしそうに下を向いていた。
「それは間違えじゃない」
「本当に二人はどう言う関係なの?」
「まあ、立ち話も何だから今からアヤセが昼飯作るから、それでも食べながら状況の説明でもしよう」
そう言って文蔵は一人で歩いて自分の部屋のマンションの扉までひとりで歩いて行って、鍵を開けて中に入って行った。
「もう勝手なんだから」
七海はさっさと部屋の中に入って行ってしまった文蔵に文句があるのか、それとも何か懐かしいのか文蔵がそそくさと歩いて行ってしまった事に眉間に皺を寄せながらも口元は笑っていた。
綾世は目の前の女の子はとても表情が豊かで、いつもポーカーフェイスの文蔵と対照的だと思った。
「あなた名前は?」
「えっ?」
名前を聞かれてすぐに応えられなかった綾世を見て、七海は不思議そうに綾世を覗きこんだ。
「まさか本当に拾われて名前がないの?」
「いや僕の名前は志村綾世(しむらあやせ)、二十歳だ」
「やっぱり年上なのね、私は今年から大学生になる壬生野七海(みぶのななみ)、あの文蔵の妹です、よろしく!」
七海から差し出された手を綾世はマジマジと見入ってしまった。
どうしたのだろうと七海がはてなマークを浮かべていたので、綾世は手を伸ばして差し出された手を取ろうとする。
だが手にはまだ食材が入ったビニール袋を持ったままだったので、床にそのまま落として七海の手を取ろうとした。
「あっ」
手を取る前にTシャツに何度も掌を押し付けて、手汗が付いていないかを確認した。
「大丈夫?」
「もうちょっと待って」
心配そうに自分を見る七海に待ってもらって、ようやく綾世は七海の手を握ろうとする。
「どうしたの?」
綾世は七海の手を握るのを躊躇してしまった。七海の手は今まで見たことのない細い指が集まっていて、爪の先まで隙がない感じがした。ゴツゴツした自分の手と比べて同じ人間なのかと不思議になって来た。
「私の手なにか変?」
「いやそんなことないよ、きれいだよ」
つい本音を、気持ち悪いこと言ってしまったと手を握った瞬間綾世は後悔した。
「ふふ面白いこと言うのね、ありがと」
自然と七海は綾世の出した右手をアイドルの握手会の様に両手で握り返していた。
綾世はアイドルの握手会に行った事がないが、高いお金を払ってその瞬間の為に努力する人間の気持ちが分かった気がした。
この瞬間綾世は七海に全てを握られてしまったのだが、その事には本人はまだ気がついていなかった。
「本当にアヤセは文蔵に拾われてたのね」
「ああ朝散歩してたらゴミ捨て場にアヤセが落ちてた」
綾世が作った食事を食べ終わったあと、広々としたリビングのソファーで両端に座りながら文蔵と七海はお茶を飲んでいた。
「前住んでたアパートが取り壊しが決まってすぐに追い出されちゃって、途方に暮れて歩き回ってたら疲れてゴミの山の中に倒れちゃったんだ」
ソファー横のテーブルの床に綾世は座っていた。
ずっと田舎の実家も都内に来た時に借りたアパートも畳敷だったので、どうにも文蔵の家にある柔らかいソファーに慣れなくていつもカーペットが轢かれた床に座っている。
ソファーに座る文蔵と七海はソファーに座り慣れてる感じがした。
「ねえやっぱりアヤセもソファーに座ったら? なにか床に座ってる人に話しかけるの落ちつかないんだけど」
「いや、僕は床に腰を下ろした方が落ち着くんだ」
綾世が床でいいと言ったが七海は納得いかないみたいだった。
「アヤセの好きにすれば良いだろ?」
ソファーの背に身体を預けて文蔵は踏ん反り返っている。
綾世と文蔵の対比を見て、七海はなんだかご主人様と使用人みたいだと思った。
「じゃあ私も床に座る」
七海もソファーから降りて床に座った。
「文蔵も床に座ったら?」
「ソファーがあるのになんで床に座らなくちゃいけない?」
七海がソファーから降りたので、寝るように文蔵はソファーに足を上げて横になった。
「本当に文蔵はいつも偉そうなんだから……大変でしょ?一緒に暮らすの」
「いや、こんな綺麗なところに住まわせてもらって感謝してるよ」
「感謝してるならもう少し料理の腕を上げて欲しいところだ」
「ちょっと酷い事言わないでよ」
文蔵の言葉を七海が遮る。
「事実だろ? さっきのパスタはもう少し茹で時間をしっかりと管理すべきだと思わないか?」
「確かにちょっと茹で過ぎてたし、レトルトソースで付け合わせのサラダも彩なかったし微妙だなあと思ったけど作ってくれたアヤセに失礼でしょ?」
七海は文蔵の事を「お兄ちゃん」とか呼ばないのでイマイチ兄弟みたいに思えなかったが、言いたい事を包み隠さず言うところは強い血の繋がりを綾世は感じた。
「次からもう少しちゃんとしたもの作るように努力するよ」
「やれやれまだまだ試食は続くのか……」
「文蔵!酷い事言わない」
「まったく五月蝿い奴が来たもんだ」
文蔵は目を閉じてソファーに身体を預けた。
「ちょっとお昼食べてすぐ寝ちゃうの?」
「午睡だ、悪いか?」
「お父さんに文蔵が何してるのか見て来いって言われたんだけど、貴族みたいな自堕落な生活してるって言うからね?」
「毎日起きてご飯食べて寝てる生活を自堕落というのであれば勝手にしろ」
手を七海に簡単に振った後、すぐに文蔵は昼寝を始めてしまった。
「久しぶりに会ったのに……」
七海は不機嫌そうにマグカップを手にした。
「ねえ君はここに住むの?」
「そうよ、来週からこのマンションから大学に通うの」
顔を見て目線を合わせて話しを続ける。
「文蔵は頼りにしてないんだけど、お父さんが一人暮らしはだめって反対してて、文蔵と一緒のところだったらまあいいかって言われてそれでね」
「そうなんだ」
すぐに都内に住む場所が用意できる前提でやっぱりこの兄弟の家は凄い金持ちなんだなあと東京に出てくるのが一大決心だった綾世には住む世界が違いすぎると思った。
「アヤセは?」
「僕?」
「どうして東京に来たの?」
「僕は漫画家になろうと思って都内に出てきたんだ……」
「漫画家なの凄い!?」
「いや、まだ漫画家になるところで……」
「だって漫画描けるんでしょ? スゴイ」
「大した事ないよ、まだ商業誌デビューしてないし」
綾世は高校の時何十という雑誌に漫画投稿して努力賞を貰った事があった。何十万部売る大手出版社の雑誌に応募したがどれも引っ掛からず、なんとか中堅出版社の小さな賞に引っ掛かった。
大学受験も就職も考えていなかった綾世はその賞を頼りに海のない群馬県から上京して一年になるが未だにデビューは出来てないし、最近担当編集者からも連絡が途絶えがちだった。
将来性が無い。地元で就職しろと親に言われても漫画家になりたいと反対を押し切って上京してきた。ボロアパートに住みながらバイトしてなんとか生活してたが、ネームを提出してもボツばっかりで、一向にデビューできずに焦って、バイトを休んで漫画に打ち込んでたらアパートの取り壊しで住む場所を追われて、貯金も伝手もない綾世が路頭に迷ってたところを文蔵に拾われた。
「でも凄いわね漫画描けるなんて」
七海は漫画を描けると言う綾世の特技を褒めた。
「誰でも描けるよ、それよりも君のお兄さんの方が本当の天才だろ?」
「小説の事?」
「高校生で文藝賞、大学で芥川賞取った大天才だ」
「まあ何考えてるのかわからないお兄ちゃんなんだけど、そういう事の才能はあったって事だもんね」
「やっぱりお兄ちゃんって言うんだ。文蔵って名前で呼んでるからなんか変だなあって」
「ああ、小さい頃から私がお兄ちゃんって言うと凄く嫌がって、私の事も名前で呼ぶから自分の事も名前で呼べって強制されて、今は寝てるから良いよね?」
「ブンゾらしい」
「文蔵じゃなくて「ブンゾ」なの?」
「ああ、ブンゾの友達がそう呼んでた」
「えっお兄ちゃんにアヤセ以外に友達いるの!?」
そりゃあ居るだろうと綾世は思ったのだが、七海は不思議そうに寝ている文蔵を見た。
「やっぱり都会の生活は人を変えちゃうのね……」
恐ろしいものを見るように七海は真剣な顔で頷いていた。
「あの、ブンゾってどんな学生生活してたの?」
「無遅刻無欠席で毎日同じ時間に家を出て、同じ時間に帰ってきて、それを毎年繰り返してたわ」
「ロボットみたいだね」
「ロボットだったら壊れるから可愛いげもあるんだけど、風邪ひとつひかないで、私が風邪ひいたときずっと風邪なんかひくのは体調管理も予防も出来ないのか? ってずっと私の事バカにしてた」
文蔵はあまり自分の事を話さないので、数ヶ月ほど一緒に暮らしていて変な奴だなあと思っていたが本当に変な奴だったので綾世はなんだか安心した。
「あっ」
「どうしたの?」
「いや何でもないよ」
「今なんか小さくガッツポーズしなかった?」
綾世は話しながらすごい美少女と世間話している自分を褒め称えたかったのでここまで文蔵も居ないのに女の子と会話できた事に小さな達成感を得ていた。
その時マンション備え付けのインターホンから呼び出し音が鳴った。
そして溜め息ついてインターホンに向かって歩き始める。
「ちょうどそのロボットの友達が来たんじゃないかな?」
綾世が立ち上がって壁に備え付けのインターホンの解除ボタンを押す。
「誰?」
「僕たちの友達のムツとルウイだ」
程なく鍵の掛かってないドアを開けて二人の男が部屋に入って来た。
「おーい、新しいVRゴーグル届いたから持ってきたんで早速試そうぜ!」
「お邪魔します……」
VRゴーグルの写真の入った箱を抱えた背の低い男と、リュックを背負った長身の色白の男が入って来た。
背の低い男は派手なロゴ入りTシャツを着ていて、綾世よりも少しだけ背が低く、前髪を揃えている変な髪型も相まってコミカルか不気味かは意見が別れる風貌をしていた。
もう一人の背の高い茶髪にパーマを掛けている男は色白で鼻が高く、ちょっと日本人というよりはヨーロッパ系の人に見えて顔だけ見るとモテそうなのだが、紺の多きめのジャケットを羽織っていて少し服装に関してはセンス無さそうだった。
「どうも」
二人が部屋に入って来たので七海も立ち上がって挨拶する。
「おい、ウソだろ!?」
七海の顔を見ると背の低い男が段ボール箱を落として、驚きながらも早足で近づいて行った。
「二十万円の高解像度VRゴーグルに十五万のRTX2080のグラボが無くても目の前に美少女が現れるなんて……」
まるで彫像でも見るみたいに七海より背の低い男は見上げるように見る。
「ちょっとムツ、気持ちわるがられるよ」
背の高い男が慌てて背の低い男の行動を制止しようと後ろから肩に手を掛けるが、その背の低い男に態々隠れるように七海の事を後ろから覗き込んだ。
「何やってんだよ二人とも!」
七海と二人の間に綾世が入る。
「そんなジロジロ見るなよ、怖がってるじゃないか!」
「怖いというよりキモい」
七海の酷評は二人には聞こえなかった。
「なあその子誰なんだ? 本物なのか? 紹介しろよ」
「彼女はブンゾの妹で七海さんだ」
「あの偏屈野郎の妹? こんなウルトラスーパーハイダイナミックレンジ美少女が!?」
背の低い方、大泉陸夫は目を見開いて七海の方を見る。
「これから大学に通うのにこのマンションに越して来たんだ」
「どうもよろしく、壬生野七海です」
「どうもどうも、俺はブンゾの親友、大泉陸夫です。ムツと呼んでください」
陸夫は自分から腕を伸ばさないで肘を曲げて態とらしく近付きながら手を差し出して来たので、七海は一瞬躊躇したが渋々手を握った。
陸夫はわかりやすく少し高揚した顔で長めの握手をした。
「こっちの背が高い方がルウイ」
「ルウイです」
人見知りなのかまだ自分よりもずっと背の低い陸夫の後ろに隠れていた。
「握手はしなくていいの?」
今度は七海が手を出した。
「ほら、ルウイ握手しなきゃ」
綾世にも即されてルウイは大きな手を差し出した。
大きな手で小さな七海の手を握りつぶしてしまうのかと思ったが、ルウイは逆に繊細に七海の手を握った。
そしてそのまま七海の手をゆっくりと甲を上向きにするとマジマジと眺めた。
「お前何やってんだ?」
睦夫が手に顔を近づけようとするルウイを制止する。
「ごめん、なんて繊細で柔らかいカーブだったからついどうやればモデリングで表現できるかなあと思って……」
ルウイはCGを得意にするモデラーだったので、立体の素材があるといつもマジマジと見てしまい、あわよくばメジャーで実測したかった。
「おい初めてあった女の子に何してんだよ!」
「ごめん」
「スマフォで写真撮らせてもらってそれを素材に使えばいいだろ?」
「そうだね」
二人はズボンのポケットからスマフォを取り出して写真を取ろうとする。
「お前らいきなり写真撮ろうとするなよ!」
「なんだアヤセ、ちょっと俺たちよりも早く会ったからって交渉優先権主張するのか?」
睦夫の抗議に綾世もすぐに腕を組んで反論した。
「違うよ常識の話をしてるんだろ!?」
「高卒の人間が大学留年してる人間に常識を解くのか?」
睦夫は単位が足りなくて去年大学を留年していた。
「学歴以前の問題を指摘してるんだ!」
「ちょっと待って」
綾世と睦夫の口論が続くと間に七海が入って来た。
「とりあえず何だかわからないんだけど私のせいで口論してるの?」
「そうかな?」
「とりあえず私は貴方達のモデルになるつもりは無いからね、わかった?」
睦夫とルウイは少ししょんぼりしたが、スマフォをポケットにしまった。
「わかった写真は諦めるけど、そんなことより七海ちゃんどうだいこの最新のVR機器を体験してみる気はないかい?」
睦夫は気をとり直して床においた段ボール箱を持ってきた。
「何これ?」
「最新の高解像度VRゴーグルなんだよ、ブンゾの家にあるVRルームに設置しようと思って持ってきたんだ、どうだい付けて見ないか?」
ヘルメットの様なゴーグル型のVRヘッドセットの写真が写ってる段ボール箱を宝物を扱う様にムツは七海に見せた。
「うーん興味ない」
「いや、これは凄いっだよVRチャットとかこれで体験するとキャラクターになりきってチャットしたりめちゃくちゃ面白いんだぜ?」
「被るのめんどくさそう」
七海は睦夫が持ってきたVRヘッドセットに全く興味を示さなかった。
「まあまあちょっと設置するから試してみてよ、君を魅惑のバーチャルな世界を魅せてあげるぜ」
ルウイも嬉しそうに頷く。
「そのVRルームももうお終いだよ、片ずけなくちゃダメだ」
「おい、なんでだよ?」
「彼女の部屋を用意しなくちゃならないからな、ここに住むんだから」
「おいおい、この前せっかくモーションセンサー部屋の四隅に設置して3Dサウンド用スピーカー設置したんだぞ?」
文蔵のマンションは3LDKで文蔵の部屋と綾世の部屋、残りの一部屋をゲーム部屋として色々な人間が入り浸って作業したりゲームをする部屋にしていた。
贅沢な事だがすっかり溜まり場にしてた。
「うん、ちょっと待て」
睦夫は額に指を当てて、まるで念力でも使ってるかのように険しい顔をした。
「じゃあ何かアヤセはこの家でこんな美女と隣併せで暮らすって事か!?」
今気がついたと言わんばかりに睦夫は綾世に近づいて恫喝した。
「あのー僕もちょっと今の家よりも大学に近いここに住みたくなったんだけど」
ルウイも突然思いついたのか、文蔵のマンションに住みたいと言い始めた。
「なんなんだよ急に!」
「お前ら家主のいない所で勝手を言うなよ」
ソファーで横になっていた文蔵が上半身だけ起こして、騒ぐ睦夫とルウイに忠告した。
「なんだよそんな所に居たのか?」
「ああ、家主だからな」
睦夫はいきなり話に入ってきた文蔵に驚きながら、ソファーを跨いでその上に座った。
「ブンゾ、なんでお前こんな可愛い妹さんが居るって教えてくれなかったなんだよ?」
「なんでムツやルウイに七海の事をわざわざ教えなきゃいけないんだ?」
「君は兄妹が居るとも言ってなかっただろ?」
「ああ必要ないからな」
睦夫は手を上げながら話が伝わらない文蔵に対して怒りを覚えていたが、文蔵は涼しい顔をしていた。
「ねえ、私ちょっとアヤセの部屋見てみたいな」
「僕の部屋?」
「そう、漫画ってどうやって描くのか見てみたい」
「そんな事より、やっぱりこの最新VR装置でVRチャットしてみない?」
すぐにソファーから飛び出して、もう一度VRゴーグルの入った箱を掲げて睦夫は七海を誘った。
「ねえ見せてもらえる?」
「別に面白くないと思うけどみたいなら……」
「ありがと!」
そういって七海は睦夫の誘いには目もくれず、戸惑う綾世の手を引いて綾世の部屋に向かう。
あまりにも素早くリビングを出て行ったので、睦夫は付いて行く事ができずに見送ってしまった。
七海と綾世は部屋に入ってドアを閉めた。
「なんだ何が起こった?」
箱を持って立ち尽くす睦夫の前にルウイが近づく。
「とりあえず僕らはVRゴーグル試す?」
「隣の部屋に美少女が居るのにバーチャル美少女と遊んでどうするんだ!?」
「どっちも触れないからムツにはどっちでもいいんじゃない?」
睦夫は溜息をついてゲーム部屋に行く事にした。
「あの二人だいぶ気持ち悪い感じがしたんだけど」
少し怒っているのか、腕を組んで七海が嫌そうな顔をした。
「でもあの二人は凄い奴らなんだよ、君のお兄さんみたいに」
「どこが?」
「ムツはああ見えて大学在学中からアニメ会社の仕事を受けてるフリーのアニメーターで知る人ぞ知る天才アニメーターで有名な映画にもクレジットが入ってる、ルウイも3DCGで映画の仕事とかフィギュアの原型とかでもう既にたくさんの仕事してるんだ」
「ふーん、そう言ってくれれば少しは尊敬したのに」
いきなり自分の事を品定めし始めた睦夫とルウイの事を七海は警戒していた。
「まあ二人とも今キャラゲーの仕事してるから女の子見てると色々と刺激を受けるのかも」
「キャラゲーって?」
「あーざっくり言えば色んな女の子を集めるゲーム」
「どんなの?」
綾世は携帯電話を取り出して、インストールしてあるゲームの画面を見せる。
「こんなのだよ」
綾世はファンタジーRPGのパーティー編成画面を見せた。
「なんか露出の多い胸が大きい女の子ばっかりね」
「そっそうだね、こんなものばっかりアイツらは想像してるんだよ」
綾世は自分の好みで選んだ女の子達だということは言わずに黙っていた。
「ねえアヤセの描いた漫画は?」
「あーちゃんと完成させた漫画は殆どなくて……」
机の上には半完成の原稿と、山のように積まれたコピー紙の山があった。
「凄いたくさんある」
「殆ど落書きみたいなものだけだよ」
七海が手を伸ばそうとすると、綾世は待ってと手を伸ばした。
「えっ見てみたい」
「いや、そんな見せるようなものじゃないから……」
今更ながら綾世は自分の絵が七海に見られる事になんだか恥ずかしさを覚えた。
考えて見たら自分の部屋に女の子が、それもまるでテレビか漫画の中にしか居ないと思っていた綺麗な女の子が目の前に居る。
そんな子に自分の描いて来た妄想の女の子を見られるのは何だか恥ずかしかった。
恥ずかしいならなんで描くのか、人に見せるために描いてんだろ?っと睦夫とかだったら堂々と七海に自分の描いた絵を見せられるのだろうが、漫画を描き始めて殆ど他人に見せるという事をして来なかった綾世にはまだ堂々と見せられなかった。
「あっこれは見せられるかな……」
机の引き出しから封筒を取り出して七海に渡す。
「これが賞に応募した原稿なんだ……」
「見ていいの?」
「ああ」
嬉しそうに七海は封筒を開けて漫画の原稿を取り出す。
今では珍しいケント紙のアナログ原稿は、黒いベタ塗りや修正液の後などに塗れた原稿だった。
「凄いこれ全部自分で描いたの?」
「うん、まあ……」
手伝ってくれる友達も居ない綾世はひとりで漫画の嫌いな親にそんな事やってないで勉強しろと嫌味を言われながら描いてた事を思い出した。
「読んでいい?」
「ああ、これ使う?」
綾世は原稿机の椅子を進めた。
「ありがとう」
七海は椅子に座って綾世の描いた漫画を読み始めた。
「あっあの飲み物持ってくるよ」
「気にしなくていいよ」
「いや、すぐ用意できるから……」
綾世がドアを開けると、そこには聞き耳を立ててた睦夫とルウイが居た。
「君達何やってんだ?」
「いやあ、ちょっと隣でゲームしようと思ったんだけどやっぱりこっちが気になって……」
「そうそう、やっぱりVRより現実かなって」
睦夫とルウイは二人で笑いあっていた。
「あっそうだ」
七海は椅子から立ち上がって原稿を袋に戻してそれを持って部屋を出た。
「私、今日は文蔵に明日から来るよって挨拶しに来ただけで、まだホテルに荷物置きっ放しだからまた明日来るからこの原稿借りてくね、良い?」
「別に良いけど……」
「ありがと、じゃあ感想は明日ね」
そう言って七海は原稿を持ち出して綾世の部屋を出た。
「文蔵、アタッシュケース一個置いておくから預かっておいてね?」
「まだホテルに荷物あるんだろ?」
「うん今から送る準備してくる」
「全く、荷物が多い奴だ」
「せっかく東京出て来たんだから、受験終わった後で買い物ぐらい自由にして良いでしょ?」
文蔵は理解できないと溜息をつく。
「じゃあ明日から私こっち住むからね」
「ふん、勝手にすれば良いさ」
「じゃあね、また明日」
他の三人に手を振って七海はマンションを出て行った。
「行ってしまった」
「行っちゃったね」
睦夫とルウイは呆然と見送ってしまった。
「すごく可愛い子だったね」
「ああ、すごく可愛い」
「おいアヤセ! あんな可愛い子と一緒に暮らせるってどういう幸運なんだ、そんな漫画みたいな事が漫画描いてるからってあって良いと思ってるのか!?」
睦夫が怒りながら綾世に言い寄る。
「ねえ僕もいつも彼女と居る事ができてるよ」
「アイドル育てるソーシャルゲームの話を今するなよ」
睦夫は携帯電話を取り出そうとするルウイを制止した。
「ともかくこの羨ましいぞ、ただでさえこんなマンションに安い値段で暮らせるんだからアヤセは運が良いよな、今度は可愛い子と一つ屋根の下で暮らせる、エッチなハプニングも期待しちゃうな」
語尾が上がって同性でも綾世はキモいと思った。
「そんな事ないよ」
ネチネチと言ってくる睦夫に綾世はウンザリする。
「そんな事言って期待してるんだろ?」
睦夫はウザさに磨きを掛けて、綾世の脇腹を指で突いた。
「してない」
「彼女をモデルにエッチな漫画描こうって寸法だろ、なあ俺もコスプレ衣装買って来るから一緒に着てもらえるようにお願いしようぜ?」
「しないって!」
綾世が睦夫の言葉を遮る。
「買ってきてもそんなもの七海が着るわけないだろ?」
文蔵が綾世と睦夫に声を掛ける。
「おいブンゾ、本当にこんなムッツリ童貞の男の子とあんな可愛い妹を一緒のマンションに住まわせて良いのか!?」
「別にだからどうした? それにこのマンションに住むと決めたのは七海で僕じゃない」
「だからって赤の他人と一緒に自分の妹を住ませるのか?」
文蔵と睦夫は睨み合うが、背が高く眼鏡を掛けていても眼光鋭い文蔵に睨まれて睦夫は徐々に身体を後退させる。
「もうアヤセは赤の他人じゃない」
文蔵は胸を張って言った。
「アヤセは僕の居候だ」
「それが赤の他人って言うんじゃないのか?」
「居候が悪さをしたらどうなるかは居候が一番よく分かってる」
「どうなるんだよ?」
「居候から犯罪者になる」
文蔵が言い切ると、睦夫とルウイは虫にも殺されそうな綾世を見て、犯罪者になる度胸はないかと顔を見合わせて笑った。
「ちょっと僕だって彼女の事が……」
三人を見て一番彼女とつり合いが合わないのはフリーターで将来不透明な自分だと言う事を思い出して綾世はそれ以上は何も言わなかった。
結局睦夫とルウイと綾世は三人でゲーム部屋を片付け始めて、とりあえず荷物は綾世の部屋に移動させたりして部屋を開けた。
遊びに来たのに片付ける羽目になって睦夫とルウイはいつもは晩飯を食べてから帰るのだが直ぐに帰った。
キッチンに近いテーブルで綾世が作った晩御飯を食べなが文蔵は本を読んでいた。
「なあブンゾ」
声を掛けても文蔵は本か目線を外さなかった。
「どうした?」
「七海ちゃんの事だけど……」
七海の名前を聞いてやっと文蔵は顔を上げた。
「またアイツの話か?」
文蔵は物凄く面倒な顔をした。
「良い子だね」
「ムツみたいに外見の話か?」
「いや外見だけじゃないよ、明るい良い子だね」
「ふん、アイツはいつも人の言うこと聞かない理屈っぽいヤツだぞ?」
文蔵も大概人の事言う事聞かない理屈っぽいヤツだからやっぱり似た者兄妹なのかと思った。
「こっちに出てから殆ど会ってなかったが、何も変わってなかった」
食事の手を止めて文蔵は考え込んだ。
「あっ身長が伸びて、胸が大きくなってたな」
「あのさあそういう事言う?」
「事実を述べたまでだ」
二人はいつも大体一緒にご飯食べる。
大学生とフリターの二人が料理を作りいつも同じような時間で規則正しく生活してるのは、素晴らしい住環境と文蔵の几帳面な性格のおかげだった。
綾世も不規則な生活でダラダラせずに済んでるのも文蔵のおかげだった。
だから文蔵の気が少しでも変わればこの生活も終わるんだろうなあと思うと綾世は不安になる。
「本当に七海ちゃんはこのマンションに住むのか?」
「ああ大学が近いからな」
「僕は出てかなくて良いの?」
「なんでだ?」
「だって君の家族がここに住むんだよ、僕が居たら気まずいだろ?」
「別に君は漫画を描くために部屋に居る時間が長いだろ? 邪魔にならないだろ?」
「一日中ずっと部屋居るだけじゃないだろ? こうやって食事もするし家事もする」
「それ以外は漫画を描くのだろ?」
「そうだけど……」
「ハッキリ言っておく」
文蔵は本を閉じて綾世の方を見る。
「僕は君の描く漫画を読んで毎回思ってるんだ」
テーブルに手を置いて文蔵は真面目な顔をする。
「君の描く漫画は面白くない」
綾世は作品の持ち込みに行った時の編集さんの事を思い出す。大体の編集さんは色々な理由を説明してから綾世が描いてきた漫画のどこが面白くないかを説明するのだが、だいたい文蔵からはストレートに言われる。
「稚拙なストーリ、低い画力に退屈なレイアウト、全く感情移入や共感を得られないキャラクター郡などなどだ」
「いつの原稿の話?」
「ついこの間見せてもらったヤツの事だ。君の漫画はこの料理と一緒で初めて会った時から全く進歩してない」
「料理は少しは上手くなったと思ってた」
辛辣な文蔵の言葉に綾世は少しだけ漫画以外の所で抵抗してみた。
「まあ確かに漫画に比べれば料理の方が進歩してる。だが君は今目標にしてるのは漫画を描いて他者に認めてもらう事だろう? 毎日僕に料理を作って褒めてもらう様になるのが君の成したい事なのか?」
綾世は別に文蔵の専属の家政婦になりたいのではなく漫画で雑誌に載って商業作家としてデビューしたい、そう思って東京に出て来た。
だが現実はいつも自分の実力を否定され続ける。
「ブンゾは僕に親切なのか? それとも悪意でもあるの?」
「言っただろ僕は親の金があるし、小説は書けば賞を必ず取れるくらい周りに評価される才能がある」
傲慢な物言いだが、それは全て実績という結果に裏付けされた揺るぎない評価だった。
目の前の和服の男は綾世が持ってない全てを持っていた。
自信があって、それを裏付ける才能も持っていてさらには美人の妹も居る。
そして親は金持ちで変人だけど友達も居て家に遊びに来る。
「僕はたくさんの物を持ってるけどアヤセ、君は何も持って無い」
「僕と君はプラスとマイナス?」
「それでは足すとゼロになってしまうから、単純にブルジョアと労働者でいいんじゃないか?」
「どういう意味?」
「君は歴史の勉強も必要だな」
文蔵は悪びれる事なく資本論を論じて見せた。もちろんカール・マルクスの事を知らない綾世はただポカーンとして、食事の後二人分の皿を洗った。
二部屋分の荷物を詰め込んで手狭になった自分の部屋に戻って来て、綾世は椅子に座りながら白い原稿用紙を見ていた。
今時珍しくパソコンや液晶タブレット端末を使ったデジタル作画じゃないので机は凄く汚い。
荷物が増えた汚い部屋でひとりで真っ白な原稿を見ていると確かに本当に自分には何もないのではと思う。
情け無くて涙が出てくるかと思ったが別に出て来なかったのは、ずっとこの部屋に来てから文蔵にダメ出しばっかりされてすっかり批判に耐性が付いたからだろうか、睦夫やルウイにも色々と言われてるのもある。周りに凄いヤツらが多いと自尊心は傷つくというよりズタボロにされて、そこからもう一度組み立ていく作業なので綾世には何か手を動かすしかなかった。
「僕には何も無いからなあ」
綾世はシャーペンを握って白い紙に線を弾き始めた。
真っ白い原稿用紙に、普通は落書きするときは安いコピー用紙などを使うが今日は原稿用紙にそのまま描いた。
その時は本当に頭も真っ白で、普通絵を描くというのは自分の頭の中にある記憶との対話になるのだが、まるで何かに操られているように綾世は原稿用紙の上にシャーペンを走らせた。
原稿用紙には笑顔の女の子が描かれていた。
長い髪と少し見える額、明るい笑顔の少女の絵が描けた。
「仕上げるか……」
そのままペン入れて絵を仕上げようとする。
「何やってんだろ?」
そう思いながらも綾世のペンを動かす手は止まらなかった。
「アヤセ……」
原稿机の椅子の上で寝ている綾世の肩を揺する。
「ふぁ、ごめんブンゾ寝落ちした。今すぐ朝食作るよ」
着替えもせずに椅子で寝てしまって、文蔵の朝食を作らなくちゃと慌てて椅子から立ち上がった。
「ちょっと大丈夫アヤセ?」
「あれ七海ちゃん?」
「おはよう」
七海は朝から明るい笑顔で、寝起きの綾世には何より眩しかった。
引っ越しだからか、今日はスカートじゃなくてキュッロットパンツで足を出していた。
「ああ、ごめんなさい椅子に座ってたから起きてるのかなあと思って」
「ごめん作業しててそのまま寝ちゃったみたいで……」
椅子に座ったままだったので軽く伸びをしてから綾世の顔を見る。
「どうしたの?」
「これ、ホテルで読んだわ」
原稿が入った茶色い封筒を七海は綾世に差し出した。
「そしたらなんだか早く感想を言いたくなっちゃって」
「えっそれで態々こんな朝早くに?」
綾世は一瞬で目が醒めるような気がした。
「嬉しいなあどうだった?」
「うん、つまらなかったわ」
七海は昨日と同じ、どんな人間の緊張を解くような笑顔で綾世の質問に答えた。
綾世は電源を落とされた様に、一瞬で目の前が真っ暗になった気がした。
「結論からなんだけどアヤセのこの漫画ってなんか「何にも問題の解決が出来てない」じゃない?」
原稿を取り出しながら七海は説明をしていく。
「SF漫画なのかな? ちょっと未来の話みたいだけどよく設定が分からなかったけど、ゲームの世界でバトルロイヤルゲームが上手い男の子と現実の世界でテロ組織と戦ってるヒロインの話なんだよね?」
「うん」
「でもこの主人公の「所詮世の中ゲームで戦いばかり」っていう思いと、「世界の平和を守る」っていうヒロインの気持ちがいつまでたっても平行線で話の終わりまで結局何も解決しないじゃない? 単純にゲームとして敵と戦ってる主人公が、リアルの世界で世界平和の為に戦ってる女の子の事を助ける話だったら分かりやすいんだけど、なんか主人公が屁理屈言ってゲームを続けて、ヒロインの事助けないで自分の世界に引き篭もり続けるって相当小難しい話だから、一言で説明できるような読みやすい漫画じゃないものね」
七海は早口で綾世の漫画のダメ出しを始めた。
「一番アレだなあと思ったのが主人公かな? なんかゲームが好きで昔のゲーム機を沢山持ってるって話が最初の数ページ描かれるけど、それが後の話に何も影響与えてなくて、なんかこの設定居るのかなあって思っちゃうし、なんか行動原理もゲームが好きなのは分かるし、ロボットの操縦が上手くてその腕を見込まれて誘われて戦うんだけど、自滅して結局ヒロインに助けられるだけでしょ? 私も詳しい事わからないけど一番出てくるこの主人公の事を好きになれないと面白くないかなって、戦う話なんだから何か「信念」とかあってでも上手くいかない「葛藤」があって、それを克服して「成長する」って事が一番感情移入しやすい話なんじゃないのかなあって」
原稿用紙には丁寧に付箋が貼ってあって、メモが書いてあった。台詞の意味がわからないとかこのコマの意味がわからないなど、付箋が貼ってないページはなかった。
「あと私あまりSFって読まないのもあるんだけどゲームの世界と現実を繋ぐ仕組みの話を文字で沢山説明されてもわかり難くて漫画読みたい人には退屈じゃないかなあって思った、せっかく漫画なんだから絵でさり気なく説明してもらった方がすんなり「そう言う世界なんだ」って納得出来るかも」
一気に感想というよりは講評の様な的確な分析を美少女からしてもらって、綾世は天井を見て宗教を信じてなかったが、何か神の様な何でも許してくれる度量の深い人の元に跪いて許しを請いたくなった。
「そうかつまらなかったんだね……」
「あっゴメンなさい、私いきなり偉そうな事を言っちゃて」
「いや感想ありがとう参考になったよ」
七海は可愛い女の子だという事以外考えてなかったので、まさか編集者並みにそれも的確にダメだしされるとは思ってなかった。
綾世は椅子に座り込んで、渡された原稿を見ながら下を向いた。
昨日の晩文蔵に言われた事をふと思い出した。言葉は少なかったが、大体似た様な事を言っていた。
「ごめんなさい、私良くお兄……文蔵に物語の読み方みたいなの小学生の頃からずっと指摘されてて、何見てもなんか感想というかダメ出ししたくなっちゃうの……」
「そうかだからか……」
「何が?」
「君の感想、凄くブンゾに似てた」
「えっホント?」
「うん、指摘してる箇所も一緒だ「解決がない」「主人公キャラがダメ」「設定が煩雑の割に説明が出来てない」ってね」
「あーもう文蔵と同じ事言ってるなんて悔しい」
七海は手を振って本当に悔しがる。
「でも君の方が優しい。こんなワザワザ付箋貼ったりしてくれたりして」
文蔵に原稿を見せた時は袋ごと投げられた。
「あのね最初はパッと見て面白かったとか言おうと思ったの、でもアヤセの原稿は何だか読んでて色々と言いたい事がたくさん出てきて慌ててコンビニで付箋とペン買って来てベットと床に拡げながらどこが面白くないのか考え始めちゃった」
「あっありがとう……」
「アヤセの漫画は不思議な魅力ね、漫画読んでてこんなにモヤモヤしたの初めてだった」
綾世は七海に褒められてるのか貶されてるのかよく分からなくなってきた。
「あのーもしかして今のは僕は褒められてるの?」
「もちろん漫画としては面白くないんだけど……」
綾世が持っている原稿に七海も手を伸ばす。
「何だか凄く魅力があるのよね、クセみたいなものなのかも?」
「そんな事言われたの初めてだ」
「そうなの?」
「うん、みんな僕の漫画を読んでもツマラナイって事しか言わない。賞を取った時もツマラナイけどまあこれだけページを掛けるんだったらなんとかモノになるかもって言ってた。だから「努力賞」だって」
「プロの人の意見は分からないけど、文蔵だったらアヤセの漫画に魅力あるなんて事は言わないかもね」
「なんで?」
「うーん、文蔵はよく嫉妬するからね?」
「ブンゾが嫉妬なんかするの?」
「顔には出ないけど、特に才能がある人には嫉妬してるからあんなに口を開けば文句が出てくるんじゃない?」
あの完璧超人の文蔵が嫉妬する事があるなんて綾世には想像できなかった。
「あっ新しい漫画描いてるの?」
「えっあっこれは漫画じゃないんだ」
机の上には昨日七海を思い出しながら描いた絵があった。
そこには今綾世ががんばって描ける最高の笑顔の女の子の絵が描かれていた。それはデッサンなど技術的には拙かったかもしれないが、誰が見ても優しさを感じる絵で、七海にダメだしされた必死な原稿の絵に比べれば見ている人がとても暖かくなる絵だった。
「これってもしかして私?」
「いや、その、違うんだ……」
「この絵凄くよく描けてるね」
「そう君の事を漫画っぽく描いてみたんだ」
似てないとか嫌がられたら必死に七海の事を描いてないと言おうと思ったが、気に入ったと言ってくれたので綾世はすぐに肯定してしまった。
「凄いちょっと美人すぎるけど」
「そっそんな事ないよ」
「あと胸が大きい気がする」
「そんな事はあるかも、漫画っぽくだから漫画ぽく強調しただけだよ」
七海は嬉しそうに綾世の原稿を見ていた。さっき自分の漫画を批判されたのに絵は嬉しそうに見ていた。
やっぱり七海は素直で裏表がない子だった。
「ねえコレ欲しいって言ったらくれる?」
「そんなもの欲しいの?」
「うん気に入った」
「こんなものでよければいいよ」
「ありがとう! 私の引越し祝いに貰うね」
「本当にそんなものでいいの?」
「私の事を描いてくれるなんて嬉しい」
綾世はすっかり漫画の事をツマラナイと言われた事を忘れてしまった。
「ちょっといいか?」
和服を着た文蔵が綾世の部屋に入って来た。
「どうしたブンゾ?」
「七海、引越し業者が来たぞ」
「えっもう来たんだ早いね」
「早く指示出してやれ」
七海は絵を持って部屋を出ようとする。
「あっ文蔵、見てアヤセが描いてくれたの」
七海は原稿を両手で持って文蔵に見せ付けた。
「胸が大きくないか?」
「漫画だから良いの」
少し語気を強めて七海は文蔵に言い放ち部屋を出た。
「何してたんだ?」
「七海ちゃんに僕の漫画の感想貰ったんだ」
「なんだって?」
「君と同じ事を言っていた」
「誰だって君の描いた漫画を見たらつまらないと言う」
感想はそうだとしても、それを口には出さないのではと綾世は思ったので口には出さなかった。
「しかしなんだこの部屋はモノだらけじゃないか?」
ゲーム部屋用の大型ディスプレイに各種ゲーム機、ゲーミングPCやVR機器に立体音響装置、漫画雑誌やボードゲームが詰まった段ボールなどが綾世の部屋には散在していた。
「何って隣の部屋を七海ちゃん用に開けておかないと……」
文蔵は怪訝そうな顔をした。
「なに言ってるんだ隣の部屋なら最初から空いてるだろ?」
「はぁ?」
文蔵は綾世に外に出ようと合図を送って一緒に部屋の外にでる。
「あっこの部屋ですお願いします」
廊下の外で七海が引越し業者に指示を出していた。奥の文蔵の部屋の手前で隣の部屋だった。
「えっ隣の部屋ってマンションの隣の事なの?」
「言ってなかったか?」
「聞いてないよ!」
「このマンション出来た時から親が二部屋買ってるんだ、ひとつは家族親戚の物置部屋みたいなもので使ってたんだが、それを七海が聞きつけて自分の部屋にする事になった」
壬生野兄妹の同居というのは同じマンションに別々の部屋で暮らすという事だった。そう言えば大音量でゲームやっても隣の部屋から苦情なんか一回も聞いた事がなかった。新しいマンションだから凄い防音が良いのもあるのだろうが、そういえば人が住んでる気配はしなかったと今更綾世は気がついた。
ともかく同じマンションの隣同士の部屋を二つ買う事ができる財力と、買う決断が出来る決断力はやっぱり普通の金持ちじゃないのではと思った。
「じゃあ七海ちゃんはお隣さんか?」
「ああ、そうなるな」
文蔵と綾世は廊下で並びながら、隣の引越しの様子を見ていた。
「手伝った方が良いのかな?」
「君は腕力に自信があるのか?」
「無いよ」
綾世は全く筋肉のついてない二の腕をTシャツから出して文蔵に見せた。
「知ってたが一応気持ちの確認をしたんだ」
目の前で引越し業者が大きなソファーを運んで来た。身体の大きな引っ越し業者の人達を見てると、綾世が行っても邪魔にしかならないと思った。
「君は七海の引越しを手伝うよりまずやらなければいけない事があるだろ?」
「なに?」
「僕達の朝食作ってくれ」
「もうすぐ昼だけど?」
文蔵は何が言いたいのかと綾世を睨みつけた。
「すぐ用意するよ」
ため息をついて綾世は部屋に戻ろうとする。
「君の家は凄いお金持ちなんだな、マンション二つも部屋を借りるなんて」
「借りてない、どっちも分譲でもともとここの土地がウチの資産で売ってマンション建てたから部屋を二つ使わせて貰ってるだけだ」
何も知らずに数ヶ月暮らしていた綾世は聞くのが怖くなって来た。
「僕は何も持ってないけど、本当に君は何でも持ってるんだな」
「まずいのか?」
「羨ましい、嫉妬するよ」
綾世は素直に嫉妬すると言葉に出した。
「けど僕には不味い飯を作るしか出来ないからね、ごはん作るよ」
綾世は嫉妬すると言ったが本当は余りにも環境が違いすぎて本当は何も感じてなかった。
「アヤセ、ひとつ良いかな?」
「何?」
「僕は君の漫画をつまらないと言ったがひとつだけ良いところがあると思った事が実はある」
「つまらないけど、もう一度読みたくなるクセみたいなものがある?」
その時綾世は初めて文蔵が驚く顔を見た。
文蔵は驚く事に慣れて無いのか口が開いたまま固まっていた。
「どうしてブンゾは僕の漫画にも良いところが少しはあるって言ってくれなかったんだ?」
綾世の問いに文蔵は顔に手を当てて考えた。
「僕が感じたのは虚無だった」
「はぁ?」
「話として漫画として、君の作品は面白いとかつまらないを超えた妙な魅力があったということだな」
「どう言うこと?」
「言っただろう虚無だ。君の漫画を読んで僕はむなしいと思ったんだ。君がゴミ捨て場に落ちてたのを見たとき、僕は君が何も持ってなくて、お金も才能も何も持ってないところが羨ましいと思ったのかもしれない」
バカにしてるならこんなに頭のいい文蔵が顔を手にあてて悩んでないだろうなあと文蔵は思った。
「つまり君は、お金持ちで物語を作る才能があって美人の妹がいるのに何もない僕に羨ましいって嫉妬してるってこと?」
「可能性は否定しない」
「ええ、そりゃ変だよ?」
外人のように綾世は手を広げてあり得ないだろう首を振る。
「うーん、しかし何もないから魅力があると言うのは真空のエネルギーのように何も無い空間から絶えずエネルギーが生まれるように本当は何も無いということは魅力に溢れているという事か?」
文蔵は自分で言ってて首を傾げる。
二人はそのまま自分達が一緒にいる事の意味を考えた。
それこそ只の偶然なのだが、物語を作る事を生業にしてる二人は考えてしまったのだ。
答えが出ずに、二人は部屋の前で独り言を言い合った。
「僕の方が君は賞を取れるくらい才能あって本当に羨ましいんだけど?」
「それは僕のセリフだ」
「じゃあ交換してくれ!」
「それは嫌だ、あんな下手でつまらない漫画を自分が描いたと考えると死すら生温いと思う!」
「褒めてくれて嬉しいな!」
「やっと僕が褒め上手って気が付いたか?」
腕を組んで二人は角突き合わせる雄牛の様に鼻息を荒くしていた。
「あの二人何やってるの?」
七海には部屋の前で何やら向き合って唸り合ってる二人を見て、何だかずっと前から友達みたいに見えた。


END


あとがき

海外ドラマのシットコムものが好きで特にビックバン☆セオリーが好きでそれの日本版があればなあと妄想して作った小説です。

他意は無いです。



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