羽菜と雄8

「あ…ありがとうございましたー…」
「ありがとうございましたっ!」

お客さんを見送りながら、羽菜と店長の声が重なる。
ちなみに前者のちょっとこもって小さめの声が羽菜で、はきはきと明るい後者の声が店長だ。
一通り仕事を教えられて、羽菜は接客係に割り当てられた。
花の手入れの時はキビキビハキハキ受け答えできる羽菜だが、それ以外となるとどうも気恥ずかしくなって、声が小さくなってしまう。

「羽菜ちゃん、リラックスリラックス。」

店長――雄の姉の瑞保(みずほ)が、明るくぽんぽんと羽菜の肩を叩いて笑う。

「お客さんは羽菜ちゃんをどうにかしようって思って来るわけじゃないんだしさ、気楽に、朗らかに。スマーイル♪」
「す、すまいる…」

に、と口の端を指で持ち上げて見せる店長に、笑顔引きつってる?と頬に手をやってしまう羽菜。
そんな二人の姿を見つつ、雄がぼそっとつぶやく。

「…無理強いするなよ、姉貴」
「いつ無理強いしましたか!何時何分何秒!?あんたは少しは愛想を覚えな!!」

轟々と言い返す瑞保と、ため息をつく雄を交互に見ながら、羽菜はおろおろしていた。
だが二人にとってはいつもの事だったのか、慌てる羽菜を他所に、喧嘩に発展するでもなくお互い作業に戻る。

(…姉弟ってああいうものなのかなぁ…)

羽菜にとっては、ちょっとしたカルチャーショックだった。

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