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読書絶望文

わからない、わからない、わからない。何を言っているのかさっぱりわからない。どうしてこんな物語を書いたんだ?なぜ、こんな事態を描写しているんだ?一体、お前は何を主張しているんだ。何が言いたいんだ。あー、とにかく、なにがなんだかわからない。ただなんとなく、なんとなくだが、何度も何度も読んでいるうちに、少しだけ、ほんの少しだけ、何か切実な、脚元が掬われるような戦慄が、行間に迸っているのを感じる。そう、感じる、感じる、感じる。何かが、ある。おそらく、ここに、何かがあるのだ。それを見付けなければならない。なんとしてても探し出さなくてはならい。それがいつになるのかわからないし、もしかしたら永遠に見付からないかもしれない。しかしもう逃れられない。逃げてはいけない。何かがある、あるかもしれない。それだけが、僕を、僕の魂を、書物に向かわせる。

「こうじ君、宿題は読書感想文なの。わからなかったことを嘆いてないでちゃんと理解できるものを読んで仕上げてきなさい」

「おいこら公務員、相変わらずどうしようもねえな。理解とは何か、それすらわかってねえお前が理解を語るのか?どうせ、わかったつもりの解説書で、本を閉じた途端、達成感という自己満足に浸って終わりなんだろ。絶望的なまでに『わからない』という経験を繰り返さずして、はたして本を読んだと言えるのか?最良の書はな、読者を絶望に陥れるんだよ」

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