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イスラム国とネット(2014)

イスラム国とネット
Saven Satow
Sep. 16, 2014

「類は友を呼ぶ」。

 イスラム国の新しさの一つにネットへの適応が挙げられる。これまでのテロ組織もネットを利用している。しかし、ウェブ2.0を取り入れたものはない。言わば、イスラム国はテロ2.0である。

 イスラム国はウェブを国際社会に向けて用いている。シリアとイラクのネット環境はよくない。また、殺害の映像で戦闘員は英語を使っている。

 イスラム国は残虐な殺害映像を配信している。過激であればあるほど、大多数は反発するが、熱狂的な少数派が支持する。1国でわずかな数であっても、世界全体であれば、ある程度の人数になる。ネットはマーケットを地理的に限定することなく、広く浅く集められる。単純計算してみよう。世界200国として1国100人なら、総数は2万人である。それくらいの数が戦闘員に加わるなら、十分に戦力になる。ロングテールの応用だ。

 武力行使が必要な相手である。しかし、米軍の空爆が始まっても、イスラム国はイラクとシリアで戦闘を継続している。しかも、ひるんだ形跡は見られない。士気が高い。

 アフガニスタンのタリバン政権と友好関係にあったアルカイダと違い、成長過程はともかく、イスラム国は国際社会において今や孤立している。国家や国際機関からだけではない。アルカイダなど既成のテロ組織からも過激すぎると支持されていない。けれども、イスラム国にはこの孤立状態から脱しようという気はない。イスラム国はネットを通じて潜在的支持者とのリレーションを強化することを狙う。こうした戦略で獲得した支持者や参加者はイスラム国へのロイヤリティが高い。しばしば恐怖支配とイスラム国を要約する見解があるが、ここを見逃してはならない。

 課題を社会制度によって対処するには、量の把握が必要である。けれども、それに苦しんでいる人が点在している場合、社会や政府が量的に認知するのは難しい。彼らは不満を抱くだろう。しかし、ネットが国境を越えて彼らをつなぐならば、ある一定量の存在を顕在化する。イスラム国が自分たちなら救えると社会の中で孤立していた彼らに説いたら、惹かれてしまうこともある。元々孤立していたのだから、世界を敵に回しても今さらどうってこともないと彼らが考えても不思議ではない。

 イスラム国は現代社会が抱える貧困や不平等などの諸問題を解決できないと民主主義を罵倒し、自分たちの正しさを訴える。その上で、報奨金や待遇の制度を用意している。それは、世界的に見て、貧困層には魅力的である。シリア人には400ドル、外国人には800ドルが基本給とされている。

 この報酬制度から見ても、イスラム国の勧誘のターゲットは10~20代である。2014年9月11日付『朝日新聞』によると、イスラム国はツイッターを始めとする短文投稿サービスに特に適応している。ウェブ2.0の特徴であるインタラクティブ性やP2Pも取り入れている。

 14年6月、イスラム国はツイッター上に”#WC2014”や”#BRAZIL2014”をつけた投稿をしている。開催中のサッカーのW杯に自らの記事を関連づけ、利用者の目に留まるようにしている。それらはサッカーと関係のないイスラム国の宣伝ビデオに誘導するものも含まれている。

 また、イスラム国はツイッターを利用するための独自アプリを開発、無料配布している。この「吉報の夜明け(The Dawn of Glad Tidings)」は文章を利用者全員に才投稿させる。瞬間的にネット上に同じ言葉を氾濫させ、流行語のランキングの上位に押し上げる。ネットで流通する情報量は膨大である。それに対応するには人間業では不可能で、プログラムが不可欠である。このプログラムが情報の利用者を提供者へと自動的に変える。

 イスラム国の参加者の多くは職業軍人ではないだろう。OJTの戦闘員も少なくない。国際社会が反イスラム国でまとまって行動を起こすなら、軍事的に制圧することは決して不可能ではない。

 テロも社会環境と共進化する。ウェブ2.0は新世代のネットとして広まり、それに適応したイスラム国が登場している。しかし、ネットは現実社会の諸問題を拡大させたり、潜在性を顕在化させたりするだけだ。テロに対処するには、国際社会が実際のそうした諸問題に真摯かつ地道に取り組むほかない。
〈了〉

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