見出し画像

映画論にビビってる全ての大人たちへ

質問です。
名作映画『となりのトトロ』の凄いところは、どこでしょうか?

『となりのトトロ』はあまりにも有名な作品です。これくらい答えられなきゃ恥ずかしいと思って、記憶を辿るも、「お姉ちゃんのバカ!」のワンシーンくらいしか思い出せず、しどろもどろに「ええと・・・家族愛をしっかり描けているところ?」などと言っているそこのあなた。この文章はあなたのために書きました。

さて、まず冒頭でお話しておきたいことがあります。

さっき、あなたはどうして恥ずかしさを感じたのでしょうか。

子どもの頃は、映画なんて純粋にストーリーを楽しんで、笑ったり泣いたりしていれば良かったのに、大人になってくると、なぜか、鋭い考察の一つや二つサラッと言えなきゃいけないような雰囲気になってきますよね。子どもの頃のピュアな心を忘れて、見栄とか張っちゃいます。

いつからか、僕たち大人にとっては、映画について話すということは恐ろしいことになってしまいました。伏線を一つでも見逃そうものなら、人生全てを否定するような侮蔑の視線を浴びせられます。「あれパクリでしょ」なんて斬ったものの、「いやオマージュでしょ」と切り返され、自分の生半可な知識量を呪ったことくらい誰にでもありますよね。

でも、大丈夫。対策さえ準備しておけば何も心配はいりません。誰でもできる簡単にして強力な対策方法をお教えします。

今すぐスマホを取り出してグーグルにアクセスし、巨匠と呼ばれる監督の半生について、インプットしておきましょう。これくらいは大人にとってマナーみたいなものです。家から外出するときの必須アイテムはみっつ。財布、携帯、巨匠の半生。これ常識です。家の鍵なんて忘れてもらって全然かまいません。常識ですから。巨匠監督の半生からさりげなくエピソードを引用して聞かせることで、平凡な相手なら一瞬のうちに格の違いを見せつけることが可能になります。僕も”クリント・イーストウッド”とかウィキペディアで検索することが多々あります。あ、もちろん検索履歴は綺麗にしてありますよ。大人というものは実に大変な生き物ですね。

さあ、あなたは今、必殺技を一つ覚えました。明日からは、巨匠監督にまつわる豆知識を披露しまくり、映画の初心者たちを見下すひねくれた大人になっていることでしょう。ここからは、さらにステップアップを図りたい人向けのレクチャーになります。映画上級者を目指す人だけ僕について来て下さい。

学生時代、勉強で差をつけるためにあなたは何を頑張ったでしょうか?そう、予習と復習です。映画も予習と復習が大切なんです。といっても、安心して下さい。同じ映画を2回も見ろなんて言いませんから。忙しいあなたの貴重な時間を奪うつもりはありません。ともかく今は僕を信じて下さい。

まずは予習です。著名な監督の半生はもちろんのこと、その映画に出てくる俳優の最新インタビューや、ストーリーに関わる歴史的背景についても、勉強しておく必要があります。電車待ちのスキマ時間に片付けちゃいましょう。

しかし、何よりも大事なのは復習です。復習の基本は、観た映画のレビューをチェックすることです。大量のレビューに目を通し、メジャーな感想を確認しましょう。精読する必要はありません。一番意見が被りがちなレビューだけを押さえればいいです。次に、そんな大衆どもとは一線を画す自分なりのユニークな意見をでっち上げましょう。コツはワンシーンに絞ることです。ワンシーンだけピックアップして、「あのシーンが映画全体の縮図だ」とか、「あれは何々のメタファーだ」とか勝手に決めつけて言えばOKです。こじつけでも屁理屈でも、何でもいいです。正解じゃなくていい。だって監督本人も正解なんてよく分かっていませんから。そもそも、そのワンシーン、ほとんどの人は覚えていません。大丈夫。僕を信じて下さい。

ここまで来れば、あなたも上級者の仲間入りです。何事も頂上まで登ってみなければ見えない景色があります。僕の見てきた景色をあなたにも見てほしい。女子の前でいい顔がしたくて、ちょっと難しそうな、インテリ風な、それ風な、眼鏡キラッ風な映画に誘って、「あれはニーチェ哲学のメタファーだよね。最後のオチなんてポストモダンへの強烈な風刺でしょ。キミ、分かった?」なんてドヤ顔で抜かしてドン引きされた、あの景色を見てほしい。二度と連絡が取れなくなったあの景色を見てほしい。男友達まで離れていったあの景色を。

僕は、これからも映画を観るであろう皆さんにお伝えしたい。映画において最も大切なもの。それはストーリーの泣ける感動でもなければ、人生を揺さぶる壮大な価値観でもありません。観た後にドヤれる付け焼き刃の解釈です。それ以外にありません。

くれぐれも対策だけはお忘れなきよう。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E5%B4%8E%E9%A7%BF

END


追記:『となりのトトロ』について僕が実際に書いた映画レビューがあります。以下のリンクで読むことができます。

『となりのトトロ』論