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愉快な漁師たちに会いに行ったらポップコーン大好きフェミニストおばさんに睨まれる

(※映画「ビリーブ 未来への大逆転」のちょっとしたネタバレ注意※)
またも、雨。
なんだか仕事探しも家探しも面倒になり、安ビール片手に宿でひたひたという雨の音をきく。
と、アー!と外から雄叫びが聞こえてくるのでみると青と赤のマフラーを巻いた集団が次々と現れては何か大空に向かって吠えている。
その数、増え続けついには警備員まで現れる。
何事かと野次馬がてら外に出る、
野獣と化したこの集団に直接話しかけるのは恐ろしすぎるので、どさくさ紛れに入ったスーパーで毎度やる気のないインド人店員に一体どういうことなのと聞くとAh、と呆れたような顔をしてからGame. と答えた。
地元のフットボールチームとどこかの試合だったらしい。
電車とかに乗るならほとぼりが冷めてからにしたほうがいい、とつぶやきながらえっちらおっちらバーコードをスキャンしている。

なんとなく買ってしまった謎のライスヨーグルトと塩茹でした芋をかき込んで、ええい今日はとにかくもうなんでもいいから笑えるものを見よう!と意気込んで映画館へと向かう。
その道中、電車内は耳が張り裂けんばかりの飲めや歌えやの大盛り上がりであった。意味もわからず肩を組まされ、謎のニッポーン!という雄叫びを背にとにかく早くここから抜け出そうと2駅前で降りる。
土曜の夜のグラスゴーの破壊力を知る。

お目当の映画は、公開されたばかりのFisherman’s Friendというイギリスのコメディ映画。

映画館近くの1ポンドストアでポテチとコーラを買い、すっかり準備万端の私は時間ぴったりにシアターに入る。

と、すでに中は真っ暗、
グラスゴー市民にしては珍しく皆時間ぴったりにすっかり座って鑑賞モードではないか。
おやおやこれはと急いで自分の席を探すも暗すぎてよくわからない。
と、通路側でポップコーンを親の仇のごとく貪っていたおばちゃんにとにかくどこでもいいから早く座れやとドヤされたのでへぇすいませんと彼女の横に座る。

スクリーンでは――1970年代くらいの服装の若い女性が法廷で何か争っている。

おや、これは予告かな?

私は画面を血眼で見つめている隣のおばちゃんのポップコーンカリカリサウンドに便乗してそっとポテチをカリカリさせながら、漁師が現れるのを待っていた。

長い長い予告は続く。

――若き女弁護士の、旦那が若くしてガンを患ってしまった……。
わかった。
そして、彼女は旦那のふるさとである漁村に行くんだな。
きっとそうだ。そしてそこで愉快な漁師たちに会うんだな。

――女弁護士は自らのキャリアを捨て、旦那を懸命に看病しついに旦那は病を克服する……。
わかった。
そして、彼らは忙しい都会を離れて、漁村に行くんだな。
きっとそうだ。そしてそこで愉快な漁師たちに会うんだな。

――二児の母となった若き女弁護士は、キャリアを再スタートさせようともがく……。
わかった。
そして、諦めて疲れ切った女弁護士は何もかも捨てて漁村に行くんだな。
きっと……
きっと、そうだ……。
そしてそこで愉快な漁師たちに会うんだな……。

愉快な、
漁師達に……。

ここまで来て、私は、本当は気づいていた。
これは明らかにFisherman’s Friendsではない。
もうかれこれ始まって1時間ほど経過しているが、全く磯の香りがしない。
ここからいきなり法廷に愉快な漁師達が踊り込んで来たら私は脚本家を正座させ一回転させた挙句に起承転結というものを一から教えてやりたい。

ここからの展開は壮大なネタバレになるので割愛するが、
涙を流しながらポップコーンを貪るおばちゃんをもう一回邪魔したら本当に横っ面を殴られそうだったので、私は粛々と最後まで座っていた。

とにかく笑いたい気持ちでやって来たのにどういうわけかフェミニズムのお勉強をビッシリ詰め込まれてグッタリとしながら外に出た私は、
ぷらぷら両手を振り回しているスタッフの兄ちゃん(仕事しろ)に
「愉快な漁師たちを見に来たのに眉間に皺の寄ったフェミニストしか出てこなかったんだけども、一体どういうことなんだい?」
と詰め寄ってみる。
すると、
兄ちゃん大いに笑って漁師の映画は隣のシアターだよ、ほらチケット見せてみなというので見せると兄ちゃんのいうとおり、シアターが違っていた――
完全に、私の凡ミスであった。

さぁ次のシーンで漁師が来るぞ!漁師が来るぞ!と待ち構えているうちに映画が終わっちゃったんだよ……と嘆くと、
すっかりツボに入った兄ちゃんはいつまでもゲラゲラ笑っていた。
あぁ今夜のパブでアジア人がビリーブに漁師が出てくると思って最後まで座ってたんだぜとかいって笑い飛ばしておくれ、
そして酒の肴にするがよい。

釈然としない気分だったので、
映画館近くの不健康そうな店でフィッシュ&チップスを頼みビネガーと塩をガンガンにかけてから青白い蛍光灯のもとむさぼる。
腹のなかを揚げ物でいっぱいにして、小雨の中を歩いて帰る。
水たまりに足を取られ続けている私のスニーカーは、いつまでも乾かない。



漁師の出てこないフェミニズム映画、「ビリーブ 未来への大逆転」というタイトルで公開されているようです!
(コメディマインドじゃない時に見たかった)



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