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エッセイ

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さまざまなエッセイです。
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記事一覧

車を運転できるひとが永遠にかっこいいを総なめ

車を運転できるひとが永遠にかっこいいを総なめ

私は、長距離トラックの運転手になりたかった。向いていると思った。
一人でできるし、好きな音楽を聴けるし、毎日いろんなところに行けるし、何よりそこはかとなくロマンを感じられる、トラックの運転手になろう!と24歳の私は思った。
美術大学を中退し、ひとしきりいろんな職を転々としニューヨークぶらぶらしたり好き勝手に歩き散らかした挙句ポンと脳に湧いてきたちゃんとした仕事のアイデアが、トラックの運転手だった。

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お姉ちゃん、本当はあんたのことがきらいだったんだ

お姉ちゃん、本当はあんたのことがきらいだったんだ

初めて家出をしたのは、確か6歳のときだったと思う。
夕方、母が買い物に出た隙を盗み、セーラームーン柄のまくらをナップサックに詰め混んだ私は、親戚のおばさんの家へと向かった。
やさしいおばさんの家に、もらってもらう覚悟だった。
道すがら、手のひらに握りしめた500円玉の感触をなんども確かめる―その硬貨の大きかったのを、よく覚えている。
途中腹が減ってどうしようもなくなった私は、マクドナルドに寄りハッ

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うしろあたまに秋をみる

うしろあたまに秋をみる

駅のホームで毎日同じ人のうしろあたまを見ている。
えりあしだけひょろっとやや長いショートカットの女性。
私はいつも前から4人目くらいの位置で朝の急行列車を待っているのだけど、その人はいつも最前列にいる。
かれこれ、半年ほどその人のうしろ頭をわたしは見ている。

うすらオレンジ黄色い茶髪、おっと根本がどうも伸びてきたぞ、そろそろ染めどきだなあとか、えりあしがどうも肩につきそうだぞ、などさながら季

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虫でもいいからそばにいて

ゴキという二文字から始まる黒い虫ついて考えたい。考えたくもない、という方もいると思うが私はあえてここで考えてみたい。
(以下、彼らの呼称を仮に黒さんとする)
長らく忘れていた黒さんとのことを思い出したのは、昨日読んだ岸本佐知子さんのエッセイ集に黒さんとのひと夏戦いの記録が載っていたからだった。
やあ、と現れるだけで家中がひっくり返るような騒ぎを巻き起こす黒さん。
私はいつの間にか、目を細めて黒さん

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カフェ・ド・クリエで野生の犬になる

カフェ・ド・クリエで野生の犬になる

隠れ家的店のマスターほどチェーン店によく行く、という法則をご存知だろうか。
ここでいう隠れ家的な店、というのは”隠れ家風♪”とか”レトロな雰囲気”とか自分で言わないレベルの、いわゆるシブイ店である。
チェーン店ダメ!ゼッタイ!だった20代のころ、その事実は私を奈落の底へと落とし込んだ。

ありし日の深夜1時すぎ、わたしは大好きなバーの扉を開けた。
このお店は行くたびに好き!!と虚空に叫びたくな

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30女のバイト遍歴3 - きらめく星空の下、駐車場の隅で老婆と魚を焼く肉屋の15才

30女のバイト遍歴3 - きらめく星空の下、駐車場の隅で老婆と魚を焼く肉屋の15才

マクドナルドをクビになり、ぷらぷら無職高校生の私はふと近所のスーパーにアルバイト募集!の貼り紙を見つけた。
聞いてみると、鮮魚、精肉、品出しからレジまで全部門で募集をしているという。
レジは忙しそうだし、鮮魚は声張り上げなきゃいけないし、なんとなくいつもボーッとしている(ようにみえる)精肉部門でバイトを始めることにした。
夕方からの私の仕事はというと、
17時にパートさんが全員帰ってしまうので、そ

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30女のバイト遍歴2 - 小顔ラブロマンスにB’zでソウルかますマクドナルド

30女のバイト遍歴2 - 小顔ラブロマンスにB’zでソウルかますマクドナルド

もちのろんのマクドナルドである。
日本国民の3パーセントくらいは、バイト処女をマクドナルドに奪われているのではないかと思う。しかし残念ながらわたしにとっては二人目の男である。

近所のしなびたダイエーの1Fに、マクドナルドが出来た日のことはよく覚えている。
わたしが7歳くらいのときだったと思う。
押せ押せの大行列で、
わたしの母も人生初のマクドナルドに大興奮で私たち姉弟の手をひいていた。

ア、ア

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さよなら、わたしの心の中のリカちゃん

さよなら、わたしの心の中のリカちゃん

肉の多い生涯を送って来ました。
わたしはポッチャリになりつつある、いやこの際デブになっているという事実をはっきり認めようと思う。
わたしの心の中のリカちゃん人形が叫ぶ。
「お前はデブだ!」
この事実を認めるまで、意外にも時間がかかった。
というよりも、気がつかなかったのである。人は身近な出来事の変化には、本当に気づかないものなのだなあと改めて実感した。

ある日の職場にて、
課長から新しい作業着サ

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春の昼下がりはコインランドリーにいこうよ

春の昼下がりはコインランドリーにいこうよ

カナダに住んでいたころ、毎週日曜日はわたしのコインランドリーDAYであった。
というと聞こえはいいが、要はなけなしの数ドル片手に一週間たまりに溜まったボロきれを洗濯機が「ああっもうそれ以上はだめぇ、ああっ」と悶え苦しむほどパンパンに詰め込みガンガンに洗いまくる日である。
そんなに詰め込んだらちゃんと洗えないヨ?  と柔軟剤使うタイプの女に髪の毛サラッされそうだがとにかく水を通して熱風をあてればな

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30女のバイト遍歴 1  - 13歳、チンピラのチラシ屋でバイトしてた時のはなし。

30女のバイト遍歴 1  - 13歳、チンピラのチラシ屋でバイトしてた時のはなし。

いわゆる、なんとなしに不安っていうものが、30になってから初めてにょきにょきとその姿を現してきたような気がする。
私はいままで悩みという悩みもなく、とにかくその場その場の欲求に従って生きてきたのだけど、ふと振り返ってみてしっちゃかめっちゃかな自分の履歴書をみて愕然とした。

肉屋、バーテンダー、ペンキ屋、居酒屋の調理人、事務員、AD、CADオペ、改札機の保守員、テレビの美術さん、遺跡発掘、イタリア

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遺跡発掘ギャル円形脱毛日和

大寒の名には及ばないがやはり肌寒い朝の目覚めであった、

タートルネックを亀のごとくたくしあげ九時に町田のデニーズにて遺跡発掘のバイトの面接。

朝のファミレスなんて化粧のはがれた顔でしかいったことがなかったのだが、さぁっと晴れたような広々とした空間と、何気ないコーヒーとトースト、ゆで卵が妙に気に入ってしまった。

ときたまコーヒーをつぎにくるウェイトレスと、簡単なボックス席、新聞、しんと寒さを感

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冬の京都で露出狂に出会ったはなし。

冬の京都で露出狂に出会ったはなし。

当時京都でバーテンダーをしていた私は、やっともらった元旦のお休みにただ部屋でゴロゴロ、友達は全員帰省してしまっており、ひとりせんべい布団に横たわる私はひしひしとこみ上げる孤独感に押しつぶされそうでした。
そんな私に、
ふと急に”ベイブを見ながらからあげクンを食べたい”という衝動が湧き上がりました。
深夜0時過ぎ―何枚もいろんなものを重ね着し、家を出ました。


大晦日の大雪ですこし残った雪が溶けて

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1000年後の人類学者さまへ

連日の快晴にちょっと心がついていけないまま、わたしはあれよあれよという間に年の瀬に巻き込まれている。半袖Tシャツで近所にあたらしくできた図書館に入り浸っている。本も読まずに、ただ眺めている。大量の本を借りては読まずに返すくせが長年にわたり習慣化してきていることに気づいたので、まずそれをやめることにしようと決めたのだ。よっぽどのことがない限り、借りない。しかしそのよっぽどのことはやはりよっぽどなので

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J-POPにみるもう一人じゃないよ主義

J-POPにみるもう一人じゃないよ主義

納豆子持ち昆布ご飯をかきこむ昼下がり、またも仕事にあぶれた私にラジオから甲高い女性アイドルたちの喚き声が聴こえてくる、そして彼らしきりに「もう一人じゃないよ〜」と歌い上げている。
「君は、もう一人じゃないよ!」そうか、うん、そっか、いや何年も前からどうも蔓延してる感じのこの孤独、ダメ!絶対!主義はなんなんだろうとすする味噌汁。
さて、やっと一人でホッとひと息、と腰を下ろそうとしたらワ〜!っと団体で

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