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2-9. サウジと日本文化の意外な共通点とは?

【3行まとめ】
最近のニュースを騒がせるサウジは、日本とは全く違う国だと思ってしまいますが、地縁・血縁が強い階層社会であることや、おもてなし精神がおおらかなところは、日本と似ていて、不思議な親近感を覚えます。

 サウジの政治・経済に続いて、次のトピックは社会・文化です。男女の不平等や失業問題など、現下の社会問題については、すでに紹介いたしましたので、本項では、もう少し長期的なスパンで見たサウジ社会の特徴を紹介したいと思います。

 まず、アラビア半島の厳しい気候について紹介します。数千年と変わらぬアラビア半島の厳しい気候は、彼らの気質の形成に大きく関わっていると考えられます。

 続いて、サウジに住む人々の気質について、私なりの考察を述べたいと思います。

・厳しいサウジの砂漠気候
 サウジの国土の9割以上が砂漠地帯であり、山間部など一部の地域を除いて、一年のうちほとんどの間、最高気温は30度を超し、夏の最高気温は45度にものぼります。

写真はリヤドの郊外。近代的な街を少し離れれば、すぐそこは広大な砂漠に。サウジのラクダは、フタコブではなく、ヒトコブラクダが一般的。

 45度の暑さというのは、日本人にはなかなか想像しにくいのですが、ドライヤーの乾いた風を全身に浴び続けるようなイメージです。こうした暑さのもとでは、移動は車が中心になり、人々の行動は日が沈んだ夕方や夜に活発になります。

 サウジの首都リヤドは、砂漠の真ん中に位置し、年間降水日数は10〜20日程度、湿度は10%以下と非常に乾燥した地域です。

 どのくらい乾燥しているかというと、洗濯物を脱水せずにそのまま一晩放置したとしても、翌日にはからからに乾燥しています。

 また、暑い夏に外に出ても、あまり汗をだらだらとかくことはありません。衣服の汗はすぐに乾燥し、汗をかいた箇所は気化熱ですーすーと冷たく感じます。

 したがって、水は貴重な資源であり、井戸やオアシスをめぐって部族間の争いが絶えなかったとされています。

 こうした厳しい気候条件ですから、1938年に石油が発掘されるまで、サウジの経済はほとんど発展せず、貧しい生活を強いられていました。

 アラブの伝統産業は主に4つあるとされており、①羊などの放牧、②オアシス農業、③紅海やアラビア海での漁業、④聖地巡礼の観光業が主産業とされています。

 石油発掘以前の国民の多くは、羊やラクダなどの放牧を生業としたベドウィンと呼ばれる遊牧民でした。

 放牧は、比較的手間のかからない産業でしたので、家畜の世話は子供に任せて、大人の男は日々争いに備えて体を休めていたそうです。

・強い地縁と血縁
 人間十人十色ですから、全てを一般化することは困難ですが、こうしたアラブの気候に寄って立つサウジ人の気質を分析してみたいと思います。

 まず、サウジ人社会は、はっきりとした階層社会であり、メンツや世間体をとても気にします。

 階層を定める基準となるものは、地縁や血縁になります。普段の友人同士の会話の中であっても、「あいつはどこの出身だからこういう性格だ」とか、「王族の親族だから金を持っている」とか、そういった地縁・血縁に交わるトピックが会話の節々に登場し、地縁・血縁の結束が強いことが感じられます。

 地縁・血縁の結束は、特によそ者に対して排他的になります。リヤド・ジェッダ・ダンマンのそれぞれの都市で他の都市との違いをインタビューしてみましたが、他の都市のことを心から褒める人はなかなかおりません。

 ジェッダの人からすれば、リヤドの人は閉鎖的で保守的すぎて、頭がかたいというように映り、リヤドの人からすれば、ジェッダの人は開放的すぎて文化が守られていないということのようです。

 なかば冗談半分ではあるものの、サウジ人の人達は出身地にとても強い誇りを持っている場合が多く、都市の感想を求められても、あまり断定的なことは言わないほうが無難です。

 一度、正直な感想を求められたので、「ダンマンはあまり栄えていなくて、少し閉鎖的なように感じた」と、ダンマン出身の同僚に話してしまったところ、「リヤドの方が都会でよっぽど閉鎖的だ。ダンマンの人はみんなあたたかくて優しいのだ」と強く反論された苦い思い出があります。

 地縁・血縁は、結婚の際も重要視されます。サウジの結婚はいまだに7〜8割がお見合い結婚です。両親が子供の結婚相手を探すのですが、その際、家柄というのはとても重要視されます。家柄だけでお見合いがご破算になることも一般的だそうです。

 親族内でも階層意識は歴然としてあり、例えば、親族一堂が集まる会食の際は、必ず家長である直系長男が真ん中に座り、それを年齢や血筋に従って、きれいに整列して座ります。家長の隣に座るものを巡って争いになることもしばしばあるようです。

 血縁の重要性は、アラブ人の名前の付け方にも現れています。アラブ人の名前は、「(本人の名前)・(父親の名前)・(祖父の名前)」の構成になっており、名字はなく名前を列挙することで家系を特定しています 。

 例えば、現皇太子のムハンマド・ビン・サルマン・アル=サウード氏は、「サウード初代国王を祖父に持ち、サルマン現国王を父に持つ、ムハンマド氏」という意味になります。

 ここで、名前の間に入る「ビン」や「イブン」は息子という意味であり、「アル」は英語のTHEと一緒で「名前を聞けばわかるほど高名な」というような意味になります。

 そして、結婚したとしても、女性の姓が変わることはありません。名前は個人の血縁を特定するものであり、結婚したからと言って血縁は変わらないためです。

 こうした強い地縁・血縁が生まれている背景として、厳しい砂漠気候が背景にあると考えられています。厳しい砂漠気候の中で、遊牧生活を行っていれば、親族や周囲の人と助け合っていくことが不可欠になり、強い地縁・血縁が生まれていくのも自然です。

 頼れる者は、同じ村の出身の人、同じ一族の人というのは、どこの国でも共通ですが、厳しい気候もあり、サウジでは、より一族郎党の団結が強いように感じられます。

・おおらかなおもてなし精神
 サウジ人のおもてなし精神は非常におおらかです。サウジ人の家に招かれると、食べられないほどの料理と、甘いお菓子が大量に提供されます。

 サウジではお酒は飲まないのですが、ホームパーティーは非常に長い時間続きます。よくあるのが3部構成のようで、まず、アラビックコーヒーを飲みながら、軽いお菓子を食べます。

ホームパーティー第一部。たくさんの甘いお菓子とコーヒー。

 次に、カブサなどの大皿料理が振る舞われて、ゆっくり食事をとります。最後、食後にコーヒーと甘味をいっしょにとり、乳香などのお香を楽しむのが一般的です。

 パーティーの間中、ホストは決してお開きの雰囲気を出しませんし、「もっといろ、もっといろ」と延々とパーティーは続き、翌日までまたぐことも珍しくありません。

 おもてなし精神についても、砂漠気候が影響していると言えます。サウジは世界で最も人口密度が小さい国の一つであり、隣の部族まで砂漠を旅するのは命がけといえるでしょう。そうした命がけの客人をもてなす時の盛大さは想像に難くありません。

 また、豪華なおもてなしをすることは、自らの部族の力の証明にもなります。メンツを重んじる階層社会サウジアラビアにおいては、豪華に客人をもてなし、歓待をすることが社会的な地位の証明にもなるのです。

 現代でも、サウジ人はほとんど割り勘をしません。会計の伝票は取り合いになり、最終的には年長者が一括で支払います。

 日本と気候は異なるものの、地縁・血縁が強い階層社会で、おもてなし精神が旺盛というのは、どこか日本に似ているように感じます。

 遠くてぜんぜん違う国なのに、ちょっと似ているというのは、どこか不思議ですね。次項もサウジ文化をお届けします。

写真は、羊の半分が使われた大きなカプサ。羊を焼いたものが、サフランライスの上にのっている。この大皿料理がホームパーティーで振る舞われれる。「貴重な家畜をあなたのために潰した」というおもてなしの気持ちが宿ると言われている。
編集後記
 いつもお読みいただきありがとうございます。明日から年明けにかけて、イスラエルなどを2週間ほど訪問して参ります。イスラエル・パレスチナの政府関係者との面会を通じて、現在のありのままの情勢を学んでくる予定です。
 その間、noteの更新はお休みさせて頂く予定ですが、twitterで現地の様子を随時お届けできればと考えておりますので、フォローやメッセージなどお待ちしております。少し早いですが、良いお年をお迎えください。
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