日々を(#毎日更新2日目)

仕事を終えた帰り道。

駆け足でエスカレーターを上がったのに電車はまだ来ていなくて、安心よりも先にがっかりする。
5分少々遅れて到着した電車は、普段よりも若干混んでいた。

金曜日の車内は特にアルコールくさい。自分たちのものではない酔いというのは無条件に不愉快で、私はいつも眉をひそめてしまう。
でも、乗客のほとんどがすぐそこまで来ている休日に心躍っていて、
好きなひとに「今帰り」なんてメールを送ってしまう私も、きっとそのうちのひとりで……まぁ、悪くないなとも思う。

汚いガラスに映る私はヘロヘロに透けていて、うっかりドアが開きでもしたらどこかへ飛んでいってしまいそうなので、私は手摺を握る手に力を込める。

太腿の上でmacを開いているサラリーマンも、赤ちゃんを抱っこしながらベビーカーを持ち上げるママも、乗車してすぐに重そうなエナメルをドカッと下ろしおしゃべりを始めるショートカットの学生もいないこの時間帯の電車は、なんだか奇妙だ。

昼間の電車やイートインのパン屋さんや日曜のショッピングモールと違って、人が集まっているのに“社会の縮図”という感じがしないから。
顔に浮かんでいるのは疲れか酔いか、そんなふうに、乗客の皆を二分出来てしまう空間、
なにも考えずとも存在が許されてしまう空間が、なんとなく気持ち悪い。

「じゃ」
特に何を話すでもなく隣に立っていた彼が、つり革から離した手をそのまま振った。
私も「それじゃ」と振り返す。
彼の姿が見えなくなったのを確認して、いくらか空いた車内を移動した。

毎週金曜日は彼と一緒に帰ることがいつからかルーティンとなっていた_____というのは嘘で、
毎週金曜日は彼と一緒に帰ること、
“を彼を好きだった頃からがんばってルーティン化させた”が正しい。

季節の一巡した今では、彼は彼女と別れ、一方の私は別に恋人がいる。
終わったあの夏は終わったままだ。存在意義を失くしたルーティンだけが、燃え滓のように遺っている。再燃することはない。それで良い。

タイミングや条件なんかで簡単に揺らいでしまう、友情よりも信用ならないもの。それが恋なのだと思う。
これは、せめてもの強がりなんてかわいいものでも、酸いも甘いも知り尽くした故なんてクールなものでもない。

私の前以外からはどんどん人が退くのに、何駅過ぎても私は立ちっぱなしで、ささやかな運試しは失敗だなぁと笑う。

最寄り駅にだんだんと近づいてゆく。
あの夏から、またすこしずつ遠のいてゆく。

彼に合わせて乗った各駅停車は、銀色の車体をうねらせ、太く鋭い白光で夜を切り裂きながら、終着駅までのレールをひたすら走っている。
健気にひと駅ずつ停るのが、もどかしくもかわいいなぁと思う。

お尻のポケットが短く振動した。仕事の時よりも速い動作で画面を開く。

「気をつけろよ」

私は浅く息を吸って、吐いて、こくりと頷いて「うん」と返信した。「だいじょうぶ」

金曜日の車内は特にアルコールくさい。酔えないアルコールは存在の価値がない。
自分にとって必要でないもので溢れる社会で、私は今週も、沈まないように、ちゃんと生きた。

「だいじょうぶ」

魔法にかかれない代わり、夢で視界をいっぱいにできない代わりに、とっておきの呪文を唱えながら_____



profile

咲月(さつき)

99年生まれの19歳。クリエイターとして食べて生きたいフリーライター。
活動実績 https://www.finderjapan-project.com
詩、小説、歌詞などをかいているが、どうしたら仕事に繋げられるのかわからず悩んでいる。
ぜひ文章のお仕事をください。
mail satsuki_8@icloud.com
Twitter @satsuki___8

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明日は5分早く起きるといいことあるかも
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毎日更新/20歳、フリーランスの表現者。/活動実績 https://www.finderjapan-project.com /文章のお仕事をください。mail satsuki_8☺︎icloud.com

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