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長老との対話

長老は、出版社で長年児童文学を編集していた方。業界の大先輩でもあり、大切な友人でもある。

これは、『書く仕事がしたい』を書いていた時の、長老とのメッセンジャーでの対話です。


作家という存在、書くという行為について。

長老は「僕の意見はさとゆみと逆だ。でも、説得しようとは思わない。異なる意見のまま会話を続けよう」と言ってくれた。

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長老:さとゆみは平易な文章が書ける人だって認識しているよ。書籍でもSNSでの投稿でも、これまでどんな文章を読んでも、その文意が伝わらなかったことがない。とても分かりやすい。
それは選ばれた言葉、結び付けられた文章が、位置エネルギーの高い状態になっているからだと思うんだよね。流れる川の水が滝の上空に出た瞬間に滝壺まで一直線に落ちて行くようなイメージ。

さとゆみ:なんか、すごい。自分で考えたことなかった。

長老 :一方、自分の内面はあまり語りたくないのかな。お子さんは「息子氏」だし、お父さんもたしかさんづけで書いていたような記憶。近しい人のことも三人称的に描いているので、作家的なポジションは好まないみたいだな、と思っています。もちろんそれは良し悪しではなく、自分の好み、望む方向性の話なんだけどね。

さとゆみ:うんうん。私が、作家的なポジションを取ってないって話、よくわかる。ライター的な脳みそのまま、コラムやエッセイを書くことができるのかってことにチャレンジしている気がする。そして、そこにチャレンジしたい書き手の人も多いのではと思うんだよね。

長老:なるほど。

さとゆみ:エキセントリックな才能がなくても、健康優良児のままでも、エッセイやコラムは書けると思うの。なんかほら、作家って病んでなきゃいけないところあるじゃん?笑 病んでるというか、狂っていなきゃいけないというか。

長老:作家は病んでるんじゃなく、自分のことを語るのに躊躇する要素が少ないんだと思う。

さとゆみ:ああ、なるほど。

長老 :そのエキセントリックなところを強調すると病んでる、狂ってるに見えるけど。

さとゆみ:わたし、文章よりも、リアルの安定した生活が大事だと思ってる。

長老 :そりゃそうだ! 同意!!

さとゆみ:だから、書かないことも多い。躊躇が多い。素直だとは思うし、嘘は書かないけど、内臓ひっくり返したりはあまりしないかなあ。

長老:したくない人はしなくていいんだよ。でも内臓じゃなくて、たとえば爪の垢なら見せてもいいとか、(例えとしていいかどうかは別にして)人は作家の柔らかなところに反応するんだと思うんだよね。一般論ではなく。

さとゆみ:なるほど。

長老:聖痕をつけるというか。その人にしかない、なにか。

さとゆみ:作家自身の?

長老:うん。そこに共感の根が生じるのではないか、と。

さとゆみ:井戸だよね

長老:井戸に同意。
逆からよんでもいどにどうい。
ちょっと違う。

さとゆみ:そういうギャグ、余計なメモリを食う

長老 :それもまた爪の垢

さとゆみ:書きたい人は書くといいんだよ、才能がどうのこうのって考えずにさ。書くと楽しかったよ、って本を作りたいの。

長老:うん、それはホントにいいと思うよ。みんなのハードルをぐんぐん下げてください

さとゆみ:書きたいことがあって、世に問いたいことがあって作家になる人もいるかもしれないけれど、そうじゃない人もいていいと思うんだよね。
問いは、人の問いでもいいと思うし、なんというか、書くをもう少し、民主化して良い気がして。

長老:民主化は賛成だけど、そこには最低限の熱量が必要だと思うな。私の中の「ナニカ」、これを誰かに聞いてもらいたい、という思い。それがないと誰にも響かないと思う。

さとゆみ:それはわかる。それは大事。熱量はいる。でも、熱量だけでいいと思う。書いてるうちに、何かが見つかることもある、と思って。

長老:それは機序が逆だ、と思うけど、それはぼくの意見なので、さとゆみと異なっていてもいいと思う。
うーん、わかりにくいな。逆だとは思うけど、説得はしないよ、異なる意見のまま、話をしようと考えている、という意味です。

さとゆみ:うんうん。

長老:編集者は、なにか書きたい! というヒートアップした人相手の商売なので、「書いてるうちに見つかるかも」という人を知らないからね、なにしろ。だから、さとゆみの皮膚感覚と異なっているのは当然。

さとゆみ:うん。わたしは、書くことを生きる手段にしたい、ということだけに熱量があって、書く内容はわりとなんでもよくて、書いているうちにめっちゃ燃えてくる。
なんか、マラソンとか走る人が、ゴールが箱根だから走るわけではなくて、走ることがしたいから走るみたいな感覚に近い気がする。

長老:なるほど。書くことそのものが好きなんだ。ライターズハイになるのか。

さとゆみ:うん。書くことっていうか、考えることが好き。

長老:ああ、そもそもそれか~。

さとゆみ:書くといっぱい考えられるから、書く。だから、研究でもいい。ほんとは、スポーツしてたかった。でも、ほら、年齢制限あるじゃない? 将棋とかもきっと楽しいんだろうと思う。
毎日考え続けてることがわかりやすく生活につながりやすい気がして、いったんライターになった。

長老:カチッ。さとゆみ像の焦点が合った音。

さとゆみ:お。

長老 :本を書くことは、目的ではなくて手段なんだね。

さとゆみ:そうです。より長い文章の方が、考えることが増えて最高に気持ちいいし楽しい。

長老 :読んでてにこにこしちゃったよ。

さとゆみ:書いてるうちにめちゃくちゃ色んな発見する。だから、書き始めないと、何を伝えたいか、自分でもわかんない。

長老:さとゆみの正体見たり、考える葦である、みたいな。息をするように考え、食事するように書く。

さとゆみ:うん、そう。だから、正直、書き終わったらもう、あまり興味ないの。書いてる時にもう、ピークは終わってるの。本が完成して見本誌が届いて嬉しいとか全然ないの。

長老:なるほど~。興味深いなあ。

さとゆみ:テレビも講演も、考え終わったことを話すだけだからつまらない。はやく次のこと考えに行きたいって思う。でも、売れた方が次の考える機会をもらえるから、販促も頑張るけど。

長老:内田樹が、人と話をするのは、言葉が口から出る瞬間まで、自分がそんなことを言うとは思わなかった考えが出て来る(こともある)から面白い、といっていたけど、まさにその通りですね~。

さとゆみ:うん、それと近いと思う。いつも、今日は私、何を考えてくれるのかなあって、楽しみにしてる。

長老 :素晴らしい言葉。

さとゆみ:だから正直、読者の反響もあまり気にしてないの。売れないと次が書けないから、たくさんの人に読んでもらえたら嬉しいけど、もう、書いてるときに十分元をとってるから、どっちでもいいやって思う。
ただ、自分の書いた文章に意見をもらうと、もっと考えられるから、それは好き。反対意見とか大好きだし、なんか、何杯でもご飯食べられる。

長老:ギリシア時代に生まれて高等遊民哲学者になればよかったねえ。

さとゆみ:ふふ。

長老:もちろん皮肉なんかじゃないよ。念のため。

さとゆみ:うん。わかってる。私も、ほんと、そう思う。売れる本を作ろうとするのも好き。たくさんの人に伝わるように書くのは難しいから、それにトライするのは楽しい。

長老:それも「考えること」の一つだもんね

さとゆみ:うん。ハードル高ければ高いほど、考えること増えて好き。別に、何について書くのでもいいんだ。どんなお題でもいい。

長老 :武者修行のようだ。

さとゆみ:でも、修行ってかんじよか、遊んでる感じだよ。遊びをせんとや生まれけむって、思ってる。

長老:いやほんと、それはそう思うよ。人生ってなんだろうと考えると、目的は「遊び」でいいじゃんって思う。

さとゆみ:うん。だから、目的は遊びで、手段が書くなの。

長老:理解!

さとゆみ:だから、先に書きたいものはないんです。書きたいことがわかってたら、書かなくてもいいというか。でももちろん、書きたいという熱量はあるんだよ。

長老:なるほど、書きながらゴールを探すんだね。

さとゆみ:うんそう。山登りじゃなくて川下りな感じ。だからいつも、書き始めが、はじまりで、書き終わりが、終わりです。先に結論決まって書いたりしない。

長老 :自分でルートを探さなくていいの?

さとゆみ:川下りしてても、分岐点はいっぱいくるから。結局ルートは自分で決めてると思う。

長老:ああ、日本じゃなくてヨーロッパの大河みたいな川なのか。

さとゆみ:ああ、そうかな。いっぱい、ターニングポイントがある。

長老:信濃川は多くの川が集まってきて、分岐しないもんね。

さとゆみ:確かに笑

長老:まあそれはいいや。言いたいことはわかります。

さとゆみ:聞いてくれてありがとう。

長老:どういたしまして。

さとゆみ:うん、いまもいろいろ考えて楽しかった

長老:それはよかった。

さとゆみ:ありがとう。明日多分、今日ここで考えたことを書く。

長老:楽しみにしてる。

さとゆみ:そんな毎日最高だー。って、思ってる。この仕事いい仕事だなって。

長老:天職だと思うよ、傍から見ていても

さとゆみ:うん、そんな気がする。職って感じもしないんだけどね。

長老:そのあたりが天職感。

さとゆみ:生きてることと仕事してることとが、ぜんぜんセパレートしてなくて。すごくシームレス。

長老:なるほど。

さとゆみ:よし。明日じゃなくて、やっぱ、今から書こう。書きに行くー。

長老:行っておいで。

さとゆみ:ありがとう、楽しかったよ。感謝。

長老:ではどうぞご執筆に向かって!

さとゆみ:いってきます。

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(今回、これを公開したいっていったら、どうぞどうぞ好きにして、といってくれた長老、ありがとう)


『書く仕事がしたい』、たくさんのご感想をありがとうございます。読ませていただいています。


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