次のプロット予定

宇宙、という場所はどんな所だろうか。
この星の重力から解放された世界。
そんな場所なら、この身体ももっと自由になれるのだろうか……

「……そう、それでですね先生。私、この間夢を見たんです。ええ、とても素敵な夢」
澄ました顔でスマホに向けて喋り続ける明星ヒマリ。
「夢の中で、私は宇宙飛行士なのですが、ええそう、先生に見送られながら、私の乗るロケットは宇宙へ旅立つんです」
「ええもちろん、現実には私のこの天才清楚系病弱美少女のボディが、アストロノーツの過酷な任務に耐えられるはずはありませんから、これは夢の話……それで、今日は何の用かって?」
「そうですね、こうして先生にご連絡したのは他でもありません。先生、私が現在どこに居るのか、当ててみてくださいませんか?」
「宇宙?先生、それは夢の話ですよ。現実はもっとつまらなく、退屈なものです。え、正解を教えてほしい?」
ヒマリは一呼吸置くと、すっかり青くなって
「先生、現在私は砂漠のド真ん中にいます。助けに来てください💦💦」

しばらくして
砂漠を進む大型のワゴン車。
目的地には必死で手を振る2つの影、ヒマリと、モモイである。
「せ、先生ー!!ここです!!ここ!!早く助けてくださーい!!!」

無事ワゴン車に収容されるヒマリ。
「しかし明星くん。こんな砂漠で遭難なんて……君には和泉元くんが……ってあれ?和泉元くんは?」
「エイミは、置いてきました。今回の件はどうしても私だけで捜査したかったので」
「でも君だけってのは無理があるだろう。ははん、それでモモイくんが……」
「ヒマリ先輩、報酬くれるっていうから……」
「モモイくん、また予算が厳しいのかい?」
「それで先生、頼んでいた件は……」
「ああ、もちろん連れてきたよ」
「特段のご指名痛み入るね、ヒマリ部長」
「よく来てくれました、ウタハ」

「それで、調査というのは?」
「よくぞ聞いてくれました、先生」
「先生も知っての通り、この辺りの砂漠では現在大規模調査が行われています」
「ああ、よく知ってるよ。私も先日ちょっとした冒険をしてきたところだ」
「それで、最近は古代遺跡だけではなく、隠されていたかつてのゲヘナの違法兵器なども見つかったようで、さらなる調査を、とミレニアムにも要請がありました」
「そこで我々特現捜の方も、エンジニア部の協力のもと、最大100機のドローンを用いて砂漠の広域調査を行っていたのですが……」
「なるほど、それで白石くんをね」
「いえ、ウタハに声を掛けたのは別件なんです」
「と言うと?」
「調査の結果、あるポイントに、かなり大規模な建屋と燃料貯蔵施設が見つかりました」
「時に先生、予知夢の存在は信じますか?」

「ヒマリ先輩、まさか……」
「この建屋は、ミサイル施設、あるいはそれに準ずるものである可能性があります」
「……いや、もっとはっきり言った方がいいと思うよ」
「そうですね、ウタハ。はっきり言ってしまえば、私は、宇宙ロケットの発射施設を見つけました」

「この件は、厳密に言えば特現捜の任務とは一応無関係です。なので、エイミも置いてきましたし、一旦シャーレに預けようと先生にお声掛けした次第です」
「ヒマリ先輩「助けてーっ!!」って言ってたじゃん」
「……明星くん、その心は?」
「身体の重さを感じない世界って、どんな気分なんでしょうね……」

「ダメだからね」
「先生、まだ何も言ってないのですが」
「私だって、大抵のことは後押ししてあげられる自信はあるけど、流石に宇宙はダメだ。許可できない。」
「まあ先生、きっといつもの冗談さ。それに、砂漠に放置された宇宙基地がちゃんと機能しているはずがない。とにかくまずは調査してみなくては」
「調査後は可能な限り破壊か無力化だからね。乗ってみようなんて以ての外だよ」
「ふーんだ、先生のわからずや」

一行は、砂漠を進み、宇宙基地へとたどり着く。フェンスにゲート、建屋などは特別なものではないように感じるが……
「やはり、古代遺跡といった感じではないですね」
「どこかの学園の隠し財産か、あるいは、企業の実験施設か……」
エデン条約調印式のミサイル攻撃の例もある、キヴォトスに秘密裏に持ち込まれた違法技術の類は、こうしてどこかで目覚めの時を待っているのかもしれない。
「ともかく、私たちがこうして見つけられたのはラッキーだよ。お手柄だね、明星くん」
「ま、まあ?私は天才清楚系病弱美少女ですから?こうして先生のお役に経つことも造作もない訳で?」
「ご褒美に、これをあげよう」
先生が懐から取り出したのは、小さい先生の人形だった。
「私のキーホルダーだよ」
「なにそれ、キモっ」
「あ、ありがとうございます、先生。私のぬいと一緒に飾っておきますね」
ヒマリの懐から出てくる明星ヒマリぬい。
「あ、いいなそれ。帰ったら私にもひとつくれないかい?」
「私のお願いを聞いてくれたら差し上げますよ」
「宇宙はダメだからね」
「じゃああげません」

一行は管制室のような場所を占拠した。
ウタハは助手としてモモイを指名し、周辺の捜査へと向かった。
管制室のコンピュータに接続し、残された情報の解析を試みるヒマリ。
「ところで明星くん。どうして宇宙なんだ、まさか夢の事を気にしてるのかい?」
「そうではありません。……いえ、正確にはそうなんですが、そうでないといいますか」
「私は、今の自分に不自由を感じたことはありません。何しろ天才清楚系病弱美少女ですから。」
「でもですよ、私も、本当に時々なんですけど、動かない脚のことを、気にすることは、あります……」
ぽつぽつと、語る……
「明星くん……」
「……やっぱり、宇宙ロケットは爆破しましょう!!そもそも天才清楚系病弱美少女の私が、打ち上げのGに耐えられるはずはありませんし?どうせ爆破するなら派手にやった方がいいですね!!中継も入れたりしましょう!!」
「明星くん、終わったら海にでも行こうか」
「……海?もう、先生、私の水着を見たいんですか?そうですね……上手くいったら、連れて行ってくださいね?」
「盛り上がってるところ申し訳ないけど、爆破はちょっと待って欲しいかな」

調査を終えたウタハとモモイが戻ってくる。
「先生、結論から言おう」
「驚くべきことに、ロケットは概ね無事だ。すぐにでも飛ばせるだろう。むしろ、飛ばすのが現状最も穏当な解決法かもしれないよ」
「と、言うと?」
「まずは前提として、爆破するにしても解体するにしても、大量に保存された液体燃料の毒性が大きな問題になる」
「爆破解体は恐らく一番まずい。燃料を使い切るとなるとそれなりの規模になるし、飛散による周囲への影響も計り知れないだろう」
「次は解体、これはコストと時間が掛かりすぎる。回収した燃料の保存場所や処分方法も目処が立たないだろうしね。小分けにして売ってわざわざ安全保障上のリスクを拡散させることもないだろう。人を入れる事によってデータや部品の盗難がないとも限らない」
「結局、本来の目的通り、宇宙へサヨナラしてもらうのが一番穏当ってことさ」

「ただ、問題というか、実質的には問題ではないからただの作業ではあるんだが、少し手間を取らせる事にはなるかもしれなくてね」
「ソフトウェア部分の解析をして、場合によってはリプログラミングもやっておかないと、現状どこへ飛んでいくかわからない、そもそも無人で飛ぶかさえも定かではないんだ」
「それならやっておきましょう」
「うん、そうなるね。任せたよ、ヒマリ部長」
「でも流石に、ロケット側の操縦席には私一人では行けないですね」
「わかった、私が運ぼう」
「いいのかい、先生」
「私にできることはこのぐらいだからね」

狭い操縦席のシートに収まるヒマリ。
車椅子のシステムは使えないので、一般的なタブレットで作業を開始する。
しばらくして、全作業工程が終了した。
「さて、これでロケットは正常に飛ぶでしょう」
「結局どこへ飛んでいく事になったんだい?」
「宇宙に出るまでですね。もとよりロケットはどこまでも飛んでいけるようなものでもないですし」
「確かにそうか」
「行先は、月か金星か……」
「明星くん、私が止めておいて何なのだが、ホントに行かなくてよかったのかい?」
「ええ、もう別に未練はありません。こうして、車椅子がなくても高い所にだって来れることもわかりましたし……」
「それに、今はもっと行きたい場所がありますから」

そうして、空へと登るロケット。
この施設も近日中に解体されるだろう。
「行っちゃったなー」
「ロケットの打ち上げなんて、ここじゃそうそう見れるものではないからね。いいものを見せて貰ったよ、先生」
「さあみなさん、任務完了ということで、寿司でも食べにいきますか」
「「「「イエー!!」」」」

ここは無音の宇宙。
無人の操縦席の中で、先生のキーホルダーと明星ヒマリぬいが静かに漂っていた。

おわり

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