カガとわたし
「あ、カガがいるよ!」
「わあ、カガにさされちゃった。かゆい」
幼い頃、息子(J男)は蚊を「カガ」と呼んでいた。
1文字ネーム界の2大巨頭の一つ「蚊」を、3歳のJ男は勝手に2文字表記にしてしまったのである。 ※2大巨頭もう一つは「津」。
「ほらほら、蚊がいるからもうおうちに入ろうね」
「夕方になって蚊が出てきたわ」
「あららー。網戸の穴から蚊が入ってきちゃった」
社宅のママたち、たまに来るおばあちゃん、ともに暮らす父母。お砂場やベランダで大人たちの会話を聞き、彼は3歳にして経験上ものの名称が1文字のはずがないと判断し、違和感がないように「か」に助詞の「が」を合体させたのである。
「蚊に刺されちゃった」
「蚊をつかまえたよ」
「蚊と暮らすのはイヤだ」
「蚊め!」
これらの場合「カニ」「カヲ」「カト」「カメ」はそれぞれに蟹・顔・カトちゃん・亀としてすでにJ男世界に存在するので無意識に除外され、彼の脳内で「蚊はカガ」であるという結論に達した。3歳にしてこの思考回路。うちの息子は天才だったのである。
かくして夏の我が家には蚊の訪れとともに「カガ」が多数登場することになった。
私の中で「カガ」は鹿賀丈史である。屋根の上でバイオリンを弾き、料理の鉄人の主宰であり、怪物くんの怪物大王である、日本人離れしたスケールの大きな個性派俳優、鹿賀丈史(かがたけし、と読みます)。
「ママー、カガがいたー!!」
蚊と遭遇するたびマントを羽織った鹿賀丈史がよぎる。
存在感がちがいすぎる。蚊の卑小さと鹿賀丈史の雄大さの対比をその都度訂正しなければならない。私はカガとの関係を深く考え直すこととなった。
カガに気をとられているうちに、事件が起こった。
「ママー、ころんでちょっとチガが出ちゃった」
チガ、が誕生してしまったのである。1文字界のモンスターにして漢字界のトリックスター「血」に、J男はまたもや助詞界の名脇役「が」を勝手につけたのである。理屈は同じである(はず)。
状況によっては「カガに刺されて、チガが出た」ということにもなりかねない。由々しい。
どうしよう、J男がそのうちもう一つの1文字ネーム虫である「蛾」に「が」をつけたら。「ガガ」になっちゃう。
「ママー、まどにガガがいるよ」
蛾が出るたびにレディーガガとガガガSPに思いをはせなくてはならないところだったが、そうはならなかったし、当時はレディーガガはまだいなかった(ガガガSPはぎりぎりデビューしていた)。
いつしかJ男も蚊をカガとは言わなくなり、謎の家出未遂を経て、正式に家を出ていった。
そして時代は令和。カガといえば「かが屋」がスタンダードになりつつある。お笑い第7世代のコント師と称され、センスのいいコントを繰り出すお笑いコンビだが、いまネタをつくる方の「加賀くん」が体調不良で療養のためお休みをしている。波に乗っているところだったのでとても残念だ。
次に私が「カガ」と言うのは、
「カガヤのカガくんが復活してまたカガやいてるね~☆」
であってほしい。思いがけない結論になったが、そういうことである。
そして無理やりハッシュタグに合わせるわけなのだが、私がこのエピソードを通して子どもに教えられたことは、名前が1文字だと呼びにくいということである。だからここで蚊の改名を提案したい。
蚊改め、「かっぴー」でいかがだろうか。
おしまいです。
▼こちらもぜひどうぞ。言いまちがえ「ムガ」バージョンです。
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