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私たちが株主優待寄付の仕組みを立ち上げた理由(前編)


 2019年1月8日、株主優待品の寄付を受けてそれを必要とするNPOなどに寄贈する株主優待の社会的活用プロジェクト(通称:優活プロジェクト)のトライアルが始まった。

プレスリリース

 私は、野村證券の岸本和久さんとともに、優活プロジェクトの事務局共同代表を務めている。このプロジェクトとトライアルの目指すものについて、ここに記しておきたい。

優活プロジェクト

 優活プロジェクトは、企業が発行する株主優待品を寄付として受け取り、社会貢献に取り組む民間非営利団体等に寄贈してその活動を支援することにより、放棄されていたり有効に使われていない株主優待品を社会的に活用することを目的とするプロジェクトだ。

優活プロジェクトのウェブサイト

株主優待制度

 株主優待の制度は、株式会社が配当金とは別に株主である投資家に対して自社の商品やサービスの割引券などを提供することを言う。一定数以上の株式を保有する株主に、配当金とは別に経済的なメリットを提供することで、長期安定株主の獲得や株価対策に用いられていて、日本の株式取引市場に上場する企業の4割弱、1400社超が導入している(野村インベスター・リレーションズ調べ)。日本における株主優待品の市場規模は年間1500億円に上ると私たち試算している。

 株主優待は、発行会社が定める基準日にその会社の株主名簿に株主または登録質権者として登録されている者であれば、法人・個人を問わず受け取ることができる。ただし、一定数以上の株式数(例えば1単元100株以上など)を保有することが条件となる。保有株式数や保有期間に応じて優待の内容は異なるが、機関投資家など多額の投資が可能な株主に優待が偏ってしまうと、個人投資家の投資のインセンティブにならないため、保有株式数には上限が設けられているのが通常だ。

 現物の株式を保有していることが株主優待の条件になるため、投資信託などの株式を対象とする投資商品を購入しても株主優待品を受け取ることはできない。ただし、投資信託においては、アセットマネジメント会社が投資先の企業から受け取った株主優待品のうち換金できるものは換金して信託財産に組み入れているはずなので、投資信託を通じて株式投資をする投資家にも間接的にその恩恵はもたらされていると考えられる。

活用されない株主優待

 一方、必ずしも有効活用されていない株主優待もある。そのひとつが海外の株主の保有する株式に対する株主優待だ。

 海外の投資家が日本企業の株式に投資するためには、証券の受渡決済、配当金の受領、議決権行使等の業務を株主に代わって行う専門機関(カストディアンと呼ばれる)に株式の管理を委託する必要がある。日本ではメガバンク3社と外資系の金融機関2社の5社がカストディサービスを提供している。海外投資家が保有する株式であっても株主優待を受け取る権利は生ずるが、カストディアンがそれを海外の株主のもとに逐一届けているかというと実はそうではない。上述のとおり、株主優待が送られる株式数には上限があるため、大口の株主であってももらえる株主優待品は投資額に比して僅少だ。受け取ったところで、ほとんどの株主優待は日本国内でしか使用できず、国外では換価もままならない。換価できないものは分配もできないので、株主優待が送られてきても持て余すだけだ。

 あるカストディアンによれば、株主優待が提供される都度、投資家には権利行使するか放棄するかを問い合わせているが、多くの場合、投資家から放棄するとの指示を得て、株主優待発行会社に不送付の連絡をしているということである。つまり、海外株主向けの株主優待は、多くの場合、投資家の手に渡ることなく権利放棄されてしまっているのだ。

 ほかにも有効活用されていない株主優待が存在する。投資信託のアセットマネジメント会社や機関投資家に送付された株主優待のうち、換金が容易な金券や割引券は市場で売却されて投資家に分配されるが、換金が難しい食品などは、タダ同然で処分されたり、引き取り手がなく廃棄されるケースがある。

 また、個人株主に対する株主優待でも、株主の所在不明などが原因で、発送不能のため発行会社に戻ってくるものが相当程度存在する

 私たちの試算によれば、このような形で投資家に分配されない株主優待品は少なくとも全体の2、3%程度存在する。1500億円の2、3%といえば、年間30億円から45億円という規模になる。毎年生まれてくると思えば、決して小さくない数字だ。

 こういった有効活用されていない株主優待品を集めて、支援を必要とする民間非営利団体に寄贈する仕組みを作ることができれば、わずかでも社会の役に立つかもしれない。

 ある日、岸本和久さんからこの話を聞かされてすぐに賛同した私は、民間非営利団体のファンドレイジングや企業のCSRに詳しいメンバーに声をかけて、どうすればこのアイデアを実現できるかの議論を始めた。2017年8月頃の話だ。

 株主優待の社会的活用プロジェクトは、こうして始まった。

 (中編)に続く。


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