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息子のおもちゃづくり 1

私の学生時代の研究テーマは「動き」のインタラクションについてでした。身の回りの色々なものにアクチュエーターを組み込んで動かしたときの、人と物との関係を観察するものでした。その研究の初期段階で、下の動画のようなプロトタイプをいくつも制作していました。

これらのプロトタイプはユーザーリサーチを兼ねて展示する機会が何度かありましたが、特に子どもたちには人気で、毎回(壊れるまで)よく遊んでもらいました。子どもたちが夢中になって遊ぶ姿を見て、将来自分の子どもにも遊んでもらおうと密かに思っていました。

時は流れて自分にも子どもができたので、数年越しの思いを実現しようと思います。

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方針

ただ息子はまだ1歳なので、当時のプロトタイプをそのまま渡してしまうのには安全面で少し不安があります。大人が安心して目を離していられるくらい安全な作りにしたいです。そこで、次のような改変を加えようと思います。

- 防滴にする(よだれ対策)
- 無垢材を使う
- 指が挟まらないようにする
- バッテリー駆動にする

息子はなんでも口に入れてしまうので、よだれ対策は必須です。また、当時のプロトタイプはAC100Vから給電して、回路は機構の外に置いていましたが、今回はバッテリー駆動にして、回路も機構の中に収めようと思います。

機構の選定

アートボード 1

次は機構の選定です。40種類以上あるプロトタイプから機構を1つ選ぶために次の基準を考えてみました。

1. 安全性
動きの構造が筐体の外に出ているものなど、指を挟む可能性があるものを除外します。

2. インタラクションのわかりやすさ
息子はボタンを押すのが大好きです。「ボタンを押したら動く」という単純なインタラクションなら息子も遊びそうです。

3. 制作しやすさ
当時は学内のレーザーカッターを自由に使える環境だったので、複雑な切断加工が簡単にできていましたが、今はなかなか難しい状況です。家に簡易的な3Dプリンターはありますが、それ以外の加工は手で行う予定です。

以上の選定基準で、こちらのボタンを押すと飛び出してくる機構を制作することに決めました。

材料の選定

まずは筐体に使う木材の選定です。檜や杉はホームセンターなどでも簡単に手に入りますが、柔らかい木材なので細かい機構のあるおもちゃには少し不向きかなと思いました。今回は固くて木目のきれいなタモ材を使うことにしました。また、内部のリンク機構部は外に露出しないので、入手しやすいPLA樹脂を用いることにしました。ビスなどの金属部品は少し高いですがステンレス性のものを用います。ちなみに、ホームセンターではユニクロメッキされたビスが多く流通していますが、RoHS規制対象の六価クロムという有害物質を使用しているため、幼児用おもちゃの部品としては避けたいところです。

設計

設計にはFusion360を使いました。できればパーツ数を増やしたくなかったのですが、組付けを簡単にすることと積層造形の出力安定性を考えて3パーツに分けることにしました。電池ボックスを固定可能にしたり、筐体の裏に電源スイッチを設けることなどを考慮して設計しました。

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機構の出力

機構部分は3Dプリンタで出力します。出力時間は6時間程度で、夜に設定して朝起きたら出力完了してました。

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木材の加工

箱が重なり合う構造なのである程度の精度が必要なのですが、私の場合フリーハンドで切るとどうしても1~2mm程度の誤差が出てきてしまいます。どうにかして綺麗に加工できないかと調べていると、良さそうなものを見つけました。

これは手ノコ用のガイドで、素人でも簡単に垂直に切れるというものです。実際に使ってみると、一番誤差の大きいところでも0.2mmくらいのズレで切断できました。感動です!!若干お高い気もするのですが、手ノコの精度に自信がない人にはおすすめです。

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接着して筐体完成です。

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塗装

木の触り心地とタモ材のきれいな木目を生かすために、塗装はオイルフィニッシュにしました。オイルは安全かつ入手しやすさから亜麻仁油を選択。塗りたての時は少し油っぽい匂いがしますが、時間が経つと匂いは消えました。

組み立て

Arduinoなどをユニバーサル基板に固定して、諸々のリンク機構を組み立てます。

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完成

息子に渡すと早速遊び始めました。ボタンを押したり引っ張ったり、持ち上げたり転がしたりと、想定外の遊び方をしています。

感想

制作を通してまず感じたのは、制作のプロセス自体がすごく楽しいということ。もともと物を作ることは好きなのですが、すぐに遊んでもらってフィードバックが得られるので作り甲斐があります。
また、息子の行動をよく観察することになるので、小さな変化にも色々と気づけたことも良かったです。実は、制作開始から完成まで2週間くらいかかったのですが、その間にも息子は急速に成長していました。例えば、構想段階では口に入れることをかなり気にしていましたが、完成時になると息子は物を口に入れることがほとんどなくなっていました。制作に時間をかけすぎると息子側の要件もどんどん変化していくので、ゆるい締切のようなものが存在します。
業務でのプロトタイピングと大きく違うのが、イテレーションの回数です。使う人が1人で予算も期間も少ないので、試行錯誤があまりできません。特に加工プロセス以降は基本的に一発勝負です。そのため、特に切断や接着などの後戻りのできない工程の前には慎重になります。ポジティブに捉えるとするなら、ゴミが少ないことでしょうか。

課題

息子に遊んでもらえたのは嬉しいのですが、個人的には学生時代のプロトタイプに比べて面白みが半減しているように感じています。動画と比較してみるとどうやら2つの原因がありそうです。

1. もともとの機構と重なり方が逆になっているせいで、動きが見えにくい
学生時代のプロトタイプは内側の箱が出てくるので、重なり部分の変化がよく見えます。内箱の模様も相まって、「こんにちは!」と飛び出してくるような生き物らしさも感じられます。一方今回の制作では、外側の箱が持ち上がるので変化が見えにくくなっています。生き物らしさもかなり減ってしまっているようです。
それほど影響ないと思って作りやすい機構に変更したのですが、実際作ってみるとかなり大きなポイントだったことが分かりました。

2. モーターの力が弱い
学生時代のプロトタイプはボタンを押すとスッと飛び出してくるのですが、今回のおもちゃでは動きがかなり弱々しくなってしまいました。息子が下にギュッとボタンを押し付けると、力負けしてしまう有様です。
原因は箱の重量にありそうです。今回は重いタモ材を使い、サイズを若干大きくし、さらに反りを恐れて10mm厚で作ってしまいました。前回は5mmのMDFを使っていたので、大体2.5倍くらいの重さになっていると思います。安全面からモーターが強すぎることを懸念していましたが、むしろ力不足を懸念すべきでした。
一応対策として、ボタンを押すと下に沈み込むようなアルゴリズムに変更しているのですが、それはそれでインタラクションが分かりにくくなってしまいました。

今回の制作を通して、この他にもいくつか課題点が見つかりました。

- バッテリーの持ちが悪い
このおもちゃは半日くらい連続で遊ぶと止まってしまいます。忙しい子育ての中、1日に2回も電池交換するのはあり得ません。ちゃんと測定していないですが、やはり動きモノは電源消費が激しいですね。待機電流しっかりコントロールして、相応の容量の電源を検討すべきでした。

- 手ノコだと四角い見た目になりがち
本当はもう少し丸っこいフォルムも試してみたいのですが、手加工だとどうしても難易度が上がってしまいます。もう少し他の加工方法も工夫してみたいです。

おもちゃづくりは今後も続けていきたいと思うので、次回以降の制作に生かしていきます。

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