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ゼロリスクという誘惑

さあ、始めていきますよ!

この往復書簡マガジン「俺たちは誤解の平原に立っていた」は、世間に広がる不正確な医療情報に悩む方に、正確な医療情報を集めるヒントを届けようと始めました。今回が第17回目の記事になります。


さて、まず記事の冒頭で、一つお知らせがあります。

さびしいのですが。。。

この連載は合計20回を持って終了することとなりました。


ヤンデル先生と相談して、noteでの発信は20回で終了として、今後は他の形でさらなる発展を目指すこととしました。

具体的な今後の計画については練っている最中で、その話し合いの模様を少しお伝えしたのが、前回のヤンデル先生の記事でした。

その一環として行われたのが、7月1日にTwitterの音声メディアであるスペースで行なった「夏の夜のSNS医療話」でした。今後の計画を考えようと、私たち二人に、たらればさんも加わっていただいて、一時間ほどお話をさせてもらいました。

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ちょっとした思いつきで開始したスペースでしたが、なんと約1400人もの人にご参加いただき、おかげさまで盛大な会となりました。

この連載の今後についても、このスペースで話そうと言っていたのですが、3人とも話したいことがあふれすぎて、結局そこまでたどり着かず。

あれれ。

まあ面白かったから、良かったかなと。。。

この連載はどこに向かうのかについては、引き続き練っていって、皆さんにも随時ご報告しようかと思います。お楽しみに!

まずは、残り4回を全力で突っ走っていきたいと思いますので、引き続き応援をよろしくお願い致します。


***

さて、今回の記事では、医療情報を考える上で大事な「医療におけるリスクの受け止め方」についてお話をしたいと思います。


リスクを取りたくないという心理

皆さんはリスクのある行動を取りたくないという思いがありますよね。私もそうです。やっぱり安全・安心が良いですよね。その気持ちはとても自然なことです。

医療行為を受ける時にも、この気持ちは同じで、リスクがより少ない医療を選択したいと皆さん思われます。

しかし、健康・病気におけるリスク評価というのは結構難しくて、リスクを取りたくないという強い感情と、そこに付け入ろうとする悪い情報が重なると、時に誤った選択をしてしまうことがあります。


めったに起こらない怖いこと

医療におけるリスク評価で難しいものが、「めったに起こらない怖いこと」です。

・この手術の安全性は高いが、1万人に1人(0.01%)に合併症での死亡がある
・このワクチンを接種された方の5万人に1人(0.002%)が心臓に炎症が起こる

0.01%、0.002%というのはとても低いです。ほぼ起こりえない低い確率とも言えます。例えば、飛行機事故で死ぬ確率が0.002%くらいと言われたりもするので、普通の人はあまり気にしないリスクとも言えるかもしれません。

しかし、「死亡」とか、「心臓に炎症」とか言われると、その言葉に怖くなってしまい、自分の身に実際にふりかかる気がしてきます。だったら受けたくないと思ってしまう人もいます。

乗り物とかとちがって、医療自体になじみがないのも、不安にさせる要因の一つとなっています。


恐怖を煽られると判断を誤る

さらにリスク評価を迷わすものがあります。それは、世間に広がる不正確な医療情報です。

不正確な医療情報というのには、一つの特徴があります。それは人の不安を一番の標的にすることです。

人が不安に感じるもの、やめたいと思うもの、そこを集中的についてきます。副反応の恐怖などは格好の標的となります。

不安な気持ちをすでに持っていた人は、「もう心配いらない。そんなの受けなくて良い」という言葉に大きな救いを感じます。「まさにこれを待っていた」と飛びついてしまいます。

その結果として、新たな病気にかかる確率を増してしまったり、病状を悪化させたりと、逆に高いリスクを取ってしまうことがあります。


ゼロリスクってあるんだろうか?

「ゼロリスク思考」という危険な考え方があります。リスクがゼロの医療を探したいという気持ちです。

がん治療だったら、抗がん剤は副作用があるというから、全く副作用のない民間療法を探して、それを行いたいと思ったりします。自然な考え方のようで、実はこれは大きな誤りを生むことがあります。

そもそも医療にリスクがゼロのものは、ほぼ存在していないからです。

どんな治療でも、患者さんには低い確率ながら副作用が起こる可能性があります。どんなに簡単な医療手技でも、確率は低くても、必ず何らかのトラブルが起こる可能性があります。

薬の場合も同じです。世の中に出ている薬の添付文書(効果や副作用の解説書)を見るとわかりますが、副作用が何もありませんと書いてある薬は一つもありません。

人という複雑系に対して医療は行われます。そこには必ず一定の確率で予期せぬことが起こる可能性が常にあります。特に、難しい病気に対しての治療であればあるほど、必ず治療にはリスクが伴ってきます。

「良薬口に苦し」という言葉があるように、人にしっかりと影響を与えるものには、必ず期待しない作用も起こり得るということです。

ここは医療を正確に理解して、リスクを正確に評価する上で、とてもポイントになります。


ゼロリスクこそハイリスク

ネットにある医療広告を見ると、「この食品を食べるとがんが治ります。しかも、ただの食べ物だから、何の副作用も起こりません」と宣伝がされていたりします。

「食習慣を変えて免疫力をあげれば、ワクチンなんて危険なものは不要だ」なども典型的です。

ネットにはゼロリスクをうたう民間療法などが広がっています。しかし、それに明確な効果が示されているわけではありません。多くは全く何も起こさないものです。

作用が何もないものには、副作用も起こりえません

ゼロリスクを選択することは、結果的に病気を放置して進行させたり、予防をおろそかにして病気になるリスクをあげたりします。

リスクを極端に下げようと思うことで、逆にとんでもなくリスクをあげてしまうということが起こり得ます。


リスクを減らすのを目指す

医療には一定のリスクが必ず伴います。しっかり作用のある治療ほど、一定の割合で副作用も伴います。

すごく良い治療だといわれるものでも、ごく稀に起こる副反応があったりします。ほとんど起こらないような確率であれば、何もしなかったら起こる高いリスクと天秤にかけて、ちょっと勇気を出して、大きなリスクを小さくすることを目指して欲しいと思います。

ほとんど起こらないようなリスクをも避けたいとなって、ゼロを追求して行くと、怪しい治療に行き着いてしまったりします。ゼロリスクは逆にハイリスクである可能性が高いです。

リスクを確実に減らせる医療を選んでいく、それが良い治療を選ぶ上では大事です。ゼロリスクという誘惑に負けないように、勇気を持って誤解の平原を進んでもらいたいと思います。

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