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ローランド・カーク 『ドミノ』

人生に欠かせないオールタイムベスト音楽をいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。


「奇人」とか「魔人」とか、そして「道化師」とか・・・。
ひどいのだと「グロテスクジャズの旗手」とか(グロテスクジャズってあーた・・・)。

ローランド・カークに冠されるショルダーには碌なものがない。

まぁボクは彼自身を生で見たことないから本当に「奇人」で「魔人」で「道化師」なのかどうかわからないし、別にどんなことをやっていようが演奏さえ良ければどうでもいいのだが、でも、確かにローランド・カークは変わってる。

初めて知る人はまず驚いてくれるんだけど、この人、アルトサックス、テナーサックスなど3本の楽器を一度に口にくわえて演奏したり、2本のフルートを1本は口で、もう1本は鼻で吹く、というような曲芸まがいの演奏をするのである。

それでも物足りなくなってサイレン・ホイッスルなんてのを鼻で吹き鳴らしたり・・・。
そのうえ、ノンブレス奏法っていうやつ? 息継ぎをしないでブカブカ吹き続ける。


しかも盲目。


盲目の2メートル近い大男が、サックスを3本口にくわえ、フルートとホイッスルを鼻で吹く・・・。

そんなもの見せられたら、確かに聴衆はその音楽表現よりも見た目の異様さに圧倒されてしまう。

だから、「奇人」「魔人」「道化師」「グロテスクジャズの旗手」ってなってしまう。

でも、彼の表現能力のスゴサには、意外と言及されていない。

これがまた本当に「豊か」なのに・・・。


まぁとりあえず、どんな感じか、見てもらいましょう。

この動画は「ドミノ」ではないんだけど、彼の代表作のひとつ「溢れ出る涙」。
古い動画ならではの退屈さは置いておいて、とりあえず彼の演奏スタイルを見て驚いて欲しい。


どうでした?w
この動画を見たうえで、以下のドミノを聴いてみて。
こっちは静止画だけど、圧倒的に「曲のパワー」が伝わってくる。


で。

ボクは敢えてその異様な演奏スタイルを弁護したいんだけど、彼はもどかしかったのだと思う。

目が見えない分、アドリブの受け渡しやアンサンブルなどのアイ・コンタクトが出来ない。アドリブからアドリブへのあうんの呼吸もなかなか取りにくい。

ハモったり伴奏を美しくとったりする、そのタイミングが盲目ゆえに上手に他人と取れなくて、「あー、めんどくさい、全部自分でやった方が早いよ」とばかりに楽器を持てるだけ持ったのではないかな。

だいたい、盲目の演奏者ってピアノが多い。
レイ・チャールズ、スティービー・ワンダーなどをはじめとしてジョージ・シアリング、レニー・トリスターノ・・・

サックス系楽器で盲目のアーチストって、ボクは他に知らない。

盲目の人や身体障害者の人がピアノを選ぶのは、ある種それ自体で自己完結している楽器だからだと思う。座ったままでいいし。

でもピアノよりも自己完結性の薄いリード楽器を盲目で奏でているとかなり「もどかしい」のではないだろうか。

だから、3本くわえてサックス系楽器ならではの自己完結を目指す。
アンサンブルもユニゾンも全部自分でやってしまう・・・。


そして、そうやって何本か同時に自分でやっているうちに「なんでもあり」という気になってきちゃったんじゃないだろうか。

ある種の「突抜け」だ。

自分の中の「熱い思い」を伝えられるのならどんな楽器をどう使おうともほっといてくれ!
サックス吹きながらフルート鼻で吹いて何が悪い?
そのうえ空いてる鼻でホイッスル吹いたって、それでパワーが伝えられればいいじゃねぇか!

・・・みたいな突抜け。


彼の演奏を聴いていると、そうまでしてでも表現したいものがあるんだという「おののきに似た何か」を感じる

せっぱ詰まった、差し迫った危機のようなそんな鋭角な欲望を感じる。

そしてそれが混沌としたパワーをボクに与えてくれる。

彼の演奏を聞くとなんというか「欲」が出る。明日を生きる「活力」が出てくる。

ちなみに彼の代表作は、一般的には上の動画にもあった「The Inflated Tear(溢れ出る涙)」と言われてる。

でも、ボクはその爆発ぶり、奔放ぶりが「ドミノ」の方が良く出ていて、コッチの方がずっと彼の本当の姿に近い気がしている。

なんというか「The Inflated Tear(溢れ出る涙)」の方はよく出来すぎている。

ローランド・カークはもっとお下劣でパワフルで、聴いている方が「いや参った!許してくれ!」と投げてしまうようなチカラに満ちている方がいい。

そういう意味で「ドミノ」にはフルにそれが詰まってる。

ぜひ、一度、聴いてみてください。

パワー、出るよ。



ローランド・カークを語るときによく出てくる「マンゼロ」っていう楽器はなに? と、個人サイトで問いかけていたら、98年末に宮川さんという方から情報をいただきました。

マンゼロは、古代楽器の一つでアルトとテナーの中間の音域を持つ楽器で、カークはこれを好んで用いていました。
それとあわせて、ストリッチという古代楽器を用いていました。これは、ソプラノとアルトの中間音域を受け持つサックスの仲間です。
形は、リード部分からホーンの口元までを真っ直ぐにさせたもので、ソプラノサックスを大きくさせたものと考えて下さい。
彼は、この楽器を特注で作らせていました。現在、世界中どこを探しても市販は、されていません。

とのことです。
宮川さん、ありがとう!

・・・99年の夏には熊谷卓さんという方からこんな貴重な情報も。

ローランド・カークの楽器について宮川さんとおっしゃる方の情報が載せられていましたが、ちょっと追加・訂正したい点があります。
まずマンゼロはもともとサクセロと言われる楽器で、音域はソプラノサックスと同じです。ソプラノサックスのネックとベルの部分を軽く曲げてあります。その分ソプラノよりやわらかめの音がでます。
この楽器は1927年から1929年の2年間、KINGというメーカーで造られました。
実は私はこのサクセロをニューヨークの楽器屋で10年ほど前に1500ドルで手に入れています。
カークはデビュー後しばらくしてこのサクセロのベルの部分を改造したり、片手で操作するためにキーを追加したりして、自らマンゼロと名付けていました。
しかし基本的にはマンゼロとサクセロは同じものです。
サクセロとして日本でも売っているのを見たことがあります(70万円ぐらいの値がついてました)。
またストリッッチですが、アルトサックスをまっすぐのばした形をしています。音色的にはアルトとソプラノの間のような音がしますが、音域はアルトサックスと同じです。
この楽器の製造年やメーカーはちょっとわかりませんが、サクセロと同じかそれより少し古いかもしれません。
サクセロよりもめずらしい楽器で、これは私も手に入れていません。(カーク以外で使っているアーティストもいるにはいますが)
カークは晩年右半身不随になり、左手一本でテナーとマンゼロを同時に吹きながら、もちろんノンプレス奏法も行っていました。
カークは何本か売り物のビデオで、その雄志を見ることが出来ます。
一番手に入れやすいのが、1969年イギリスで撮られた「スーパーショー」という作品です(東芝EMIからTOVW−3057の型番で出ています)。
このショーは、基本的にはロックのスタジオライブショーなんですが、出演メンバーがすごいんです。
「レッド・ツェッペリン」「バディ・ガイ」「バディマイルス」「エリック・クラプトン」「ザ・コロシアム」そしてジャズ界から「MJQ」「ローランド・カーク」等。
セッションとかもあり、かなり楽しめますし、とにかくカークには驚かされますよ。例のうまく行かないアイ・コンタクトの場面もあります。
今ちょっと人に貸してるんで、ビデオのメーカーや型番がわからないのですが、もし見つけたらご覧になられることをオススメします。

熊谷さん、くわしくどうもありがとうございました!

そうか、ローランド・カーク、晩年には右半身不随になってしまったのか・・・

Domino
Rahsaan Roland Kirk
1962年録音/MERCURY

Roland Kirk Quartet :
1-6)
Roland Kirk (tenor sax,stritch,manzello,flute,siren)
Andrew Hill (piano,celeste)
Vernon Martin (bass)
Henry Duncan (drums)
7-14)
Wynton Kelly (piano)
Ernon Martin (bass)
Roy Haynes(drums)



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