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聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(旧約聖書篇65) 〜旧約聖書まとめとメシヤの預言

1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、西洋美術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないと、よく理解できないアート、多すぎません? オマージュなんかも含めて。
それじゃつまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
まずは旧約聖書から始めます。旧約・新約聖書のあと、ギリシャ神話。もしかしたら仏教も。
なお、このシリーズのログはこちらにまとめていきます。

※新約聖書篇はこちらから。


いやぁ、始めた当初は「ドえらいことを始めてしまった・・・」と途方もない気持ちになった旧約聖書シリーズ。

コツコツ続けて65回、今回でなんとか「旧約聖書篇」も終了だ。


だいたい毎回5000字くらい書いたから、32万字以上w
約12万字を一冊とすると、絵も大量に貼ったことを考えると、もしかして本にすると4巻分w

でも、その甲斐あって、目的であった「アートをもっと楽しむために旧約聖書を最低限かつ表層的でいいから知っときたい」というのはそれなりに達せたかなと思う。

もう旧約聖書の絵なら知らない絵でも「あ、あのエピソードかも!」とか、かなりの確率で言えるようになったと思う。

何事も始めてみるもんだなぁ・・・。

連載を始めたのが2020年1月3日(まだ現実世界に疫病が流行る前だ)で、5月10日がラストだから、131日、たった4ヶ月ちょいで旧約聖書にそれなりにくわしくなれたのはオトクだったな、と思う。
(とはいえ2日に1本この分量を書いたわけで、わりとハードはハードだったけど)

ただね、こうして旧約聖書を知っていくと、アートにくわしくなったのはもちろんなんだけど、映画とか小説とかも含めて、旧約聖書を元ネタにしている場面がめちゃくちゃ多いことに気づくわけです。

「あぁ、旧約聖書をそれなりに知っていると、この映画は(この小説は)、こんな解釈になるのかぁ・・・」みたいなことがとっても多くてホント面白かった。

きっと、新約聖書をやりだすと、もっとそういうネタが多くなるんだろうなぁ。


たとえば、この連休、映画『マトリクス』を観たですよ(もう10回目くらい)。

そしたら、出てくる単語だけでも、うわ〜旧約聖書じゃん!ってなった。いままで気がつかなかった。

たとえば主人公Neoたちが乗っているホバークラフトの名前は「ネブカドネザル」なわけ。「うわ〜、ということはそうか、マトリックスってバビロン捕囚なのかー」ってなる。

たとえば人類が生き残っている場所の名が「ザイオン(=シオン)」なわけ。「うお〜、そういうことかー、それってエルサレムじゃんかー」とかってなる。

そう見てくると、Neoの復活とキリストの復活が結びつくし、NeoとかTrinityという名前も・・・となると、裏切り者のサイファーはルシファー(サタン)から取ったか? とかねw


てな感じで、個人的には人生が広がった旧約聖書シリーズ。
みなさんはいかがだったでしょう。

すんごく簡単にまとめると、旧約聖書はこういうストーリーだ。

【旧約聖書、超おおざっぱなストーリー全貌】

天地創造の時代
  神が人間つくったでー。
アブラハム一族の時代
  イスラエル民族の始祖たちが現れたでー。
モーセの時代
  住むべき地「カナン」へ戻って定住やでー。
志師の時代
  カナンで12部族の地方分権やでー。
イスラエル王国の時代
  他国の侵略に対抗するために王を作って天下統一したでー。
  いい感じやでー。ある種の到達点やでー。
預言者たちの時代
  統一したのもつかの間、北と南に分裂するでー。
  そして他国に侵略されて北も南も滅亡するでー。
  バビロン捕囚された南のユダ民族はエルサレムに帰還できたでー。


で。
こんな風に結構「哀しげな結末」で旧約聖書は終わるんだけど、ここまでの苦難の歴史を救ってくれるメシヤ(救世主)の出現が預言されて・・・

イエスの時代(ここから新約聖書)
  ついに救世主が生まれたでー。ばんざーい!


と、なるわけだ。

つまり、どこかから怒られそうなくらい乱暴な言い切りだけど、

キリスト教における旧約聖書の位置づけは、「壮大な前説」なのだと思う。

メシア(キリスト)の出現をより盛り上げるための、バラエティ豊かな前奏であり、印象的なイントロであり、入念な予告編だ。


・・・って言い切るのも怖いけどね(なにしろ学者さんとか多いし)。
でも、いまのところ、そういう印象だ。
(※もう少し詳しめにこちらに書きました。「そもそも新約聖書って?」)

ユダヤ教はイエスを救世主と認めていないので、そういう旧約聖書の捉え方をしていないし、旧約聖書こそが「聖書」だ。新約聖書というものはない。

イスラム教は、イエスを預言者のひとりとして扱っているけど、最大最強の預言者はムハンマドだから、旧約聖書をそういう捉え方にしていない。新約聖書というものもない。


※ちなみに、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の比較は、第一回のときに書いたこの図をどうぞ。

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え? メシヤ出現の預言って、どんな預言かって?

読んだ中では終盤にふたつ。

預言者ダニエルは、こんな預言。

見よ、『人の子』のようなものが天の雲に乗り『日の老いたる者』の前に来て、そのもとに進み、権威、威光、王権を受けた。
諸国、所属、諸言語の民はみな、彼に仕え、彼の支配はとこしえの続き、その統治は滅びることがない。


第二イザヤ(同じ名前なので第一、第二とかで分けられている)はこんな預言。

彼には、われわれの見るべき姿がなく、威厳もなく、われわれの慕うべき美しさもない。
彼は侮られてヒトに捨てられ、悲しみの人で、病いを知っていた。
まことに彼はわれわれの病いを負い、われわれの悲しみを担った。
彼は虐げられ、苦しめられたけれども、口を開かなかった。
ほふり場にひかれてゆく仔羊のように、また毛を切る者の前に黙っている羊のように、口を開かなかった。


ダニエルは、人の子としてのメシヤの出現を預言し、第二イザヤは弱者としてのメシヤの出現を預言した、と読める。

そう預言して旧約聖書は終わり、新約聖書に続くのである。


なんとなく、そういう「旧約」と「新約」のつながりを感じさせる絵を、旧約聖書篇ラストの「今日の1枚」として貼っておきたい。

エピソード自体は、新約聖書から、だけどね。

これね、キリストの横に、モーセと、預言者エリヤが出現し、この3者で会話しているエピソードなのだ。

その「キリストの変容」を、巨匠ラファエロが遺作として描いている。

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向かって右がモーセで、左がエリヤ
なんかこのスリーショット、じわるw

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もう旧約聖書ファンのボクとしては、「そうかー、つながっているのかー」と、感慨深いこと限りないのです。


さて、最後に旧約聖書全体の印象を。

ひと言で言うと、思っていたのの数倍おもしろかった!


ボクの周りのミッション系女学校出身の人たちは「旧約聖書の時間はひたすら眠かった」って言っていたし、ボクも漫画とかで読んではいたけど、やはり「まぁ面白いものでもないな」程度に思ってた。

でも、こうして詳細にひとつひとつ、アートを中心に見ていくと、さすが世界一のベストセラーというだけのことはあると思った。


そして、読む前に思っていた印象と全然違った。

聖書っていうくらいだから「聖人たちの善き行いの物語」かと思ったら、人間のどうしようもなさをこれでもかと書いた超グロテスクな物語だった。


アブラハムやヤコブのあたりは実にどーしよーもなくて引くくらいなんだけど、その後、モーセのあたりからもっと聖なる物語になっていくのかと実はちょっと思っていた

でも、いつまで経っても「人間ってどーしよーもないわ」と嘆息させるエピソードだらけだった(旧約聖書はイスラエル民族の歴史書なので、正確に言うと「イスラエル民族ってどーしよーもないわ」になっちゃうが)。

人間の「どーしよーもないストーリーパターン」は、もう、ほとんど旧約聖書で書き尽くされている、と言ってもいい。

旧約聖書だけで、ほぼ「あらゆる物語の元ネタは出尽くしているのではないか」とすら思うくらい、人間臭い物語がてんこ盛りだ(ま、それで言い過ぎなら、旧約聖書+千一夜物語かな)。


ちなみに、第一回目にも書いたけど、旧約や新約の「約」は、神との契約の約だ。

じゃ、旧約聖書の「契約」はなんだったのかというと、ざっくり言うと「イスラエル民族がちゃんと戒律を守り神を敬うなら、神は祝福と恩恵を与え、救いと繁栄を約束する」という契約だ。

じゃ、旧約聖書で描かれた「恩恵」はなんだったのか。

実はわりと物理的なものだったなぁ、と思う。

・約束の地カナンを与えられる
・モーセの数々の奇跡
・エリコの壁が崩れる
・預言者たちの小さな奇跡

なんか、キリストの逸話みたいな「精神的な恩恵や教え」は旧約聖書では(表面的には)感じにくいものだったな、と思う。


と、ちょっと中途半端な感想を最後に書いたけど、いろいろ細かく語るとただでさえ薄っぺらいメッキがバキバキ剥げるので、ここらで旧約聖書もオシマイとしよう。

次回からは、新約聖書

予習してみたけど、わりと不真面目に書きにくいお話が多く、旧約聖書みたいに自由な解釈が難しそうな印象だw

でもまぁ、絵を知ることが目的なので、じわじわやっていこうと思います。

また、よろしくです。


ラストに、旧約聖書の大きな流れをまとめた図を2枚並べておきますね。

あぁ、アブラハムとかサラとはハガルとかイサクとかリベカとか、懐かしいな・・・。

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ということで、次回からは新約聖書だ。

旧約聖書に比べて物語性は薄いし、性描写などほぼ皆無。わりと肩が凝りそうだけど、気楽にやっていこうかと。

新約聖書篇はこちらから。

あと、エピローグ的にこんな記事も書いたので、こちらもどうぞ。



このシリーズのログはこちらにまとめてあります。

※※
間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。

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この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『イラストで読む旧約聖書の物語と絵画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『旧約聖書を美術で読む』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 旧約篇』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。


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