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投票率を上げるために「各人の意識を変える」のはどうやら無理。ではどうするか。


昨日の参議院議員選挙。

まぁ結果については、人によっていろいろな捉え方があると思うけど、ボクが「実は一番のキーポイントだ」と思っていた投票率は、なんと戦後二番目に低い48.8%だった。

ここ数年、毎回のように投票率にはがっかりさせられてきたので、少し馴れてきちゃってはいるんだけど、それでもなんかホントにぐったりしたなぁ。

個人的な話ではあるけど。
311の震災支援で内閣府参与になったとき以来、「とにかく投票率を上げたい」と思ってしこしこやってきた

SNSで意識的に発信して反応を見たり、有志でプロジェクト組んでアイデアを某財団に持っていってみたり、そのアイデアを政治家や省庁に持ちこんでみたりもした。

当初はSNSを活用することを考えていたんだけど、あるときから「SNS上の発信だけでは国民のごくごく一部にしか届かない」と気づいた(※1)。

※1. 「月間アクティブユーザー数」(月に一度以上アクセスする人)が一番多いツイッターで、4500万人(2017年10月のデータだけど発表されているデータとしては最新)。
で、ニールセンの調査によると、SNS利用者の22%がヘビーユーザーで、その人たちだけでSNS総利用時間の82%を占めている。これをツイッターに当てはめると、ヘビーユーザー990万人(22%)でツイッター総利用時間の82%を占有しているということになる。
つまり、ツイッター上でバズるのはほとんどこの990万人の中と考えていいと思われる。そして、ツイッター上でバズっても、日本の総人口1億2622万人の残りの1億1632万人にはとても届きにくいということになる。
ちなみにフェイスブックの月間アクティブユーザー数は2800万人(2017年9月)、インスタグラムで2900万人(2018年10月)だから、もっと少ない。


それからは、アナログなアイデア、たとえば投票所をお祭りのように盛り上げるとか、投票したら近くのお店で割引されるとか、そういう「ネットを使わないアイデア」も、プロジェクトの人たちといろいろ考えた。
(割引のアイデアとかは、同じように考えた人や企業がいま実行してたりしますね)

ま、結果的に、そういうアイデアたちも実行できずに終わってしまったので偉そうには言えないんだけど、それなりに投票率を上げることについては意識高めに考えてきたわけです。


さて。

今回の参議院選挙の「戦後二番目に低い投票率」を受けて、馴れちゃってはいるんだけど「それにしてもあんまりだな」と思って、もう一度「なんとかならないものか」と、今日ずっとぼんやり考えてた。

そしたら、コミュニティの友人が、以下のツイートを教えてくれた。

これを読んで、とっても「リアル」に感じた。
あぁ、確かにこういう人たちはたくさんいるし、多くの人の実際の感覚なのだろうなぁ、こういう人たちは選挙には行かないだろうなぁ、と。

そして、こういう人たちは、国が危機でも、年金がどうなっても、与野党が拮抗していても、投票所がお祭りのようになっても、投票所の近所で割引があっても、きっと投票には行かないだろうなぁ、と肌感覚でわかった。


ぜひ、コメント欄も含めて、リンク先を読んでいただきたいと思うのだけど、いくつかの発言を一部引用させていただくと、

「わからないものはわからない。学校で教えられてない。上から目線に聞こえる」
「知識もないし、どうすればいいのかもわからないし、自分の考えに自信を持てない」
「宗教にしか聞こえないし、選挙を押し付けないでほしい」
「わからない話をしないで!自分を惨めにさせないで!不快だから消えろ!」


こういうのを読むとちょっと途方に暮れる。
でも、そんなことは言っていられない。

では、こういう人たち(若者に限らないと思う)が選挙に行くには、いったいどうすればいいんだろう?


意識が低いとかもっと政治に興味を持てとか不勉強だとか責めても絶対に行かない(反発する)。

国が危機だとか、憲法がどうのだとか、年金がどうのだとか、危機感に訴えても絶対に行かない(わからない話をしないでって思う)。

やさしく選挙のことや政治のことを伝えるサイトを作ったとしても、きっと読まない(逆に惨めな気分になるのではないか)。

選挙に行かないと実質的に損するよ、将来のためにも選挙には行った方がいいよ、とか丁寧に話してもたぶん通じない(理解できないと思い込んでいるし、実感がないことは受け付けないと思う)。

ましてや、昨日ボクが書いたような記事「キミは知っているだろうか。 ボクが生まれるたった15年前まで、女性は投票できなかったということを」なんか、読むこともないだろう(歴史的にどうだ、とか、権利がどうだとか、とかって上から目線って言われそう)


こういう人たちをバカにしているわけではないです。
なぜかというと、これは「環境の問題」だから。

つまり、たぶん「選挙が周りで話題になったこともなく、教えてもらったこともなく、新聞をよむ習慣もなく、テレビニュースを見る習慣もない」という環境にずっと身を置いてきた人たちだから。

※ネットもLINEとメール(両方とも通信)くらいしかほとんどやってないと思う。
そんなことないだろ、ネットはみんなやってるだろ、と思う方は、ぜひ「都道府県別検索数」を見てみてください。東京しか検索していないに近い。東京以外では、検索すら実はそんなに活用されてないのです。


もしボクがそういう環境に置かれていたら、普通にそうなっていたとリアルに想像できる。

だから仕方ないことだと思う。



では、どうすればいいのだろう。

ひとつヒントがある。

アレックス・ペントランドが書いた本ソーシャル物理学の中に書かれているソーシャル・ネットワーク・インセンティブの話。

以下に斉藤徹くんのスライドを引用させてもらう。



簡単に説明すると、

・1枚目:
「Aさんが運動を続けると、Aさんにお金を上げる」というのと「Aさんが運動を続けると、Aさんの友人にお金を上げる」というのを実際に実験して比較した。さて、どちらのほうがAさんの運動は続くでしょう??

・2枚目:
驚くことに、後者「Aさんが運動を続けると、Aさんの友人にお金を上げる」というほうが前者「Aさんが運動を続けると、Aさんにお金を上げる」より4倍も多く運動が続いた。
つまり、本人へのインセンティブより、つながりへのインセンティブのほうが、本人に影響をより大きく及ぼす

※スライドでは、ソーシャル・インセンティブと書いているが、正しくはソーシャル・ネットワーク・インセンティブ。


つまり、自分のためよりも、つながりのために人は動く、ということ。

しかも、2枚目のスライドに書いてるように、ネットの知り合い程度ではダメで、直接的な(リアルな)交流回数が多いほど、効果は高まる

つまり、たとえば地縁などのリアルなつながりに働きかけると、人は動きやすい。(地縁血縁で動員している党もありますよね)


この実験結果はわりと使えるのではないかなと思う。


そしてふと、昔「投票率を上げるプロジェクト」を有志で考えていたときに思いついた方策が意外と良かったのではないか、と、思い出した。


それは、ボクの中では「漢検DS方式」と呼んでいた。


「漢検DSの普及キャンペーン」は、10年以上前の岸勇希くんの仕事。
「漢字検定」を任天堂DSでできるソフトウェアで、「都道府県対抗 漢字バトル」というものを彼は仕掛けた。

これはつまり、漢検のテスト結果を47都道府県で集計して順位を出し、それを「バトル」として「県民同士で闘わせる」というアイデア。

シンプルなアイデアに見えるけど、バトルという設定にしたことで、みんなががんばりだしたのがポイントだ。

各都道府県在住者が、「大分県もっとがんばろうぜー!」「栃木県なにやってんだ! みんなもっと勉強しろ!」「いいぞ東京、その調子でいこう!」と、対抗心むき出しにがんばりだしたわけ。

そして、漢検DSはたいへんな盛り上がりを見せ、売上も上がった、というキャンペーン。


アイデアとしては、これを応用する。

まず、投票率の都道府県別順位を出す(これはもう出てますね。2001年のデータだけど、たとえばこれ)。

それだけでなく、市区町村別も出す(地元のつながりとして、都道府県だと少し広すぎる)

そして、「ベスト10都道府県・市区町村」と、「ワースト10都道府県・市町村」を出す。


で、一般社団法人を作って、それらのデータを広報リリースとして発表する。

そして、ベストとワーストの首長たちにインタビューに行き、それを動画でサイトに載せる。

それらをちゃんとメディアが取り上げるように、パブリシティをがんばる。

※(ただし国や政権与党になにかやってもらうなどはしない。動きが遅く、潰される可能性もある。あくまでも一般社団法人かNPOがやり、なるべく話題にしていく)


それだけ。
いや、もうちょっと派生アイデアはあると思うけど、基本はそれだけ。

この「都道府県・市区町村対抗 投票率バトル」、何が起こるかというと、特にワーストに選ばれた市区町村の自治体が不名誉に感じ、なんとかしようと手を打ち出す

ワースト投票率の市とかに住みたくない。なぜなら政治家が無視するようになるので公共サービスが滞り出しそう」、というようなインタビュー・データとかも出すと、よりお尻に火がつきだす。

そして、自治体は「もっと選挙教育をするように」など、教育委員会や学校への指導も含めて、「なんとかしよう」とし出す。
ここ大事。つまり、教育が変わり出す(上記ツイッターの大きな問題は教育だった)。

さらに、自分のためなら絶対に投票に行かない人たちも、「恥ずかしい市になるのはイヤだ」「資産価値が下がると困る」と感じる住民や友人たち(地縁などのリアルなつながり)のためなら、仕方なくかもしれないけど、とりあえず投票に行き出すのではないか(推測)(ソーシャル・ネットワーク・インセンティブとしては証明済み)。

↑この辺はもうちょっとインセンティブが必要かも

そうすると、ワースト市町村からではあるけれど、わずかずつながら投票率が底上げされだし、順位の変動とともに、ゆっくりと各都道府県・市町村の競争が起こり出す

伸び率が著しい市町村には、その一般社団法人から「盾」なども授ける(記者会見もする)となお良いかもしれない。

※ちなみに今回の参議院選挙のワーストは千葉県。ベストは高知県。



最近の例だと、学力テストで秋田が1位だというのが話題になったりしてますよね。


こういうのって、県民も、自治体も、心がざわざわすると思うのです。
特にワーストの自治体とかは。

その辺を刺激するのがポイントではないか、と。


なんか、「政治に関心をもってもらう」「投票の意義をわかりやすく説く」「投票所に行きたくなるようにお祭りっぽくする」などだけでは、上記ツイッターに書いてあったような人たちは動かないと思うんですよね。

そして、政策の良さとか(悪さとか)、危機感を煽るという切り口も、まず確実にその人たちを動かせない。

そうじゃなくて、もっとリアルな関係性(地元のつながり)を活用した、ソーシャル・ネットワーク・インセンティブ的なアプローチのほうが良いのではないか、とメシ喰いながら思ったので、ざざざっと書いてみました(2時間かかったw)。


ソーシャル・ネットワーク・インセンティブを活用するのに、もっといいアイデアや切り口があるかもしれない、と思いつつ、議論のとっかかりとして公開してみます。


というか、そろそろ政治的に「待ったなし」の状況だと思うので、なんにせよやらないよりマシ。

だれか(それなりにスキルがある方)一緒にやってみない?

(世間は広いので、もうすでに誰かが実行に移しているかもしれないけど)
(都道府県格付研究所が投票率ランキングを出してはいるけど、こういうデータを「競争」として活用するキャンペーンになりますね)
(追記:ここでも投票率ランキングが発表されてました)


※追記:
実際に投票率最下位脱出を目指してキャンペーンをした館林市のキャンペーンを、二日後に紹介しました。


古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。