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そうだ、編集後記を書いてみよう

写真は、敬愛する岡本太郎さんの言葉です。川崎市の岡本太郎美術館に行った時に撮った写真です。

ある人が言った。
「あなたは絵描きさんでありながら、さかんに文章も書くし、いったいどっちが本職ですか。」
「本職? そんなのありませんよ。バカバカしい。もしどうしても本職って言うんなら、『人間』ですね。

私も、「本職=人間」として生きていきたい、という野心を抱いています。なので、このnoteも出来るだけ一人の「人間」として書きたい、という想いがあります。なので、わざわざ「ラベル」とも言える、特定の職業について書くのもなぁ…という気持ちがありました(どちらかというと、日々の営みのことを書いていきたい)。

でも、「日々のことを書く前段として、一度まとめた置いたほうがいいのでは?」という想いが沸いてきたので、今日は自分の職業について書いていきます。

1.書籍編集者という仕事

書籍編集という仕事を始めて、あっという間に8年の時間が過ぎました。

「なぜ、この仕事をしているのだろう?」

と自問してみることが、しばしばあります。
でも、これと言った明確な答えがあるわけでもないし、
「憧れ続けた仕事だ」というわけでもありません(業界の中にはこういう方が結構います)。

大学生の頃、「やりたい仕事」を見つけることができなかった私が、より自分の力を活かしたり、より誰かの役に立てたり、より興味がもてる方向へと進んでいった結果、今の仕事に至っていたという感じです。

ずっと続けるかどうかもわかりません。
将来のこと、何も考えていないわけではないけれど、基本戦略は「Let It Be」「Que Sera, Sera」です。

ただ、1冊1冊、できるだけていねいにつくっている、というのが現状です。

2.書籍編集者の大まかなお仕事


それぞれの仕事にそれぞれ大変なところがあるだろうけれど、本をつくる仕事って、結構大変です。

大雑把にいうと、編集者の仕事ってこんな感じです。


企画を立てる
  ↓
企画を通す
  ↓
原稿を書いてもらう
  ↓
編集する
  ↓
デザインしてもらう
  ↓
校正する
  ↓
本を完成させる


…………で、終わりと思いきや、まだ先があります。

知ってもらう
  ↓
買ってもらう
  ↓
読んでもらう

ここまで。
特に近頃は、後半の割合が増えているような気がします(この活動には、ある意味では終わりがありません)。それでも、常に次の本の企画を考え続け、出し続けるという。

ちなみに、このサイクルを回し続けることがしんどくて、編集者になりたての頃は、夢の中でも企画を立てたり、本をつくったりしていました。

3.編集者の仕事は、「鶴の恩返し」!?

ところで、ある時、こんなことを言われました。

「編集者って、鶴の恩返しの鶴みたいだよね」

「鶴の恩返し」では、鶴が自分の毛で機織りをしていたけれど、編集者って、自分の人生の一部を削って本をつくってますよね、というのが発言の意図のようでした。

『たしかにーー」と、思わず頷きました。
ひと口に編集者といっても、いろんなタイプがいるようではあるけれど私は1冊に入り込んでつくる方なので、その気持ちがよくわかります。

ちなみに、まだ世の中には「ないもの」をつくり続けていくのが仕事なので、トラブルはつきものです。
というか、もはやトラブルが常態だと言ってもいいくらい。

企画がうまくまとまらなかったり、
思ったように原稿を書いてもらえなかったり(内容、スケジュールなど)、
思ったようなデザインが仕上がらなかったり、
思ったように売ってもらえなかったり…

だけど、ビジネスではある以上、どこかのタイミングで清算する必要はあります。
その結果、気づいたら「1ヶ月の間に5冊の本をほぼ同時に刊行しなければいけなくなっていた」ということもあります(毎日がゲラまみれ。個人的には、この量を同時にやると、たとえ外部の協力会社さんの力を借りたとしても、限界の淵を感じることもあります)。

愚痴のように聞こえるかもしれないけれど、
そんな仕事を、わりと嬉々としてやっているのが編集者という人種であり、
私もその世界の一員です。

4.「本をつくるって正直、割に合わない」

あともうひとつ。ある著者の方から、

「本をつくるって、金銭的な意味では割に合わないですよね。だけど、もはや社会貢献だと思って続けています」

こんな話を伺ったことがあります。

これは、私も同感です。

先ほど、「鶴の恩返し」の例を出しました。
鶴は、助けてくれたおじいさんのために、身を削って恩返しをしようとしたわけですが、たぶん、編集者という人たちも、何かの恩返し(もしくは恩送り)のために、なかなかしんどい仕事を続けているのだろうな、と思います。

私にとっての恩返し(恩送り)の対象は2つです。

5.本をつくるのは、「本」のため?

特に書籍編集は、程度の差やジャンルの差はあれ本好きの方が多いです。
というか、嫌いだったら、わざわざこの仕事選びませんよね。
(WEBの世界はあまりわかりません、ごめんなさい)

私自身のことでいうと、本は人生のいろんなタイミングで私を救ってくれました。

退屈で退屈でたまらなかった小学生時代。
生きる意味を初めて本気で考え出した中学生時代。
自分には何もないことに気づいた高校生〜大学生時代。
世界の広さ、そしてまだ見ぬ希望の存在を知った青年時代。

などなど。

「本」が「本」として生まれ、流通していたからこそ、つくられた自分というのもが確かにあると思います。
つまり、私の人生のそばには、私の学びの傍らにはいつも「本」があったわけです。もちろん、それだけではないけれど、私は本の存在を強く感じた、ということなのだと思います。

ちなみに、本の起源は、3000年前に遡れるらしい(インカ帝国で木の棒に記録を残そうとしていたとか?)。
今になってブッダなど、過去の偉人たちの言葉を知れるのは、誰かが書き残し、「本」にまとめてくれたりしてくれたおかげです。
この先、人類の歴史がどれだけ続くかはわからないけれど、知や想いを伝える手段として「本」は、少なくとももうしばらくは残り続けるのではないかと思います。

そんな「本」に敬意を払い、「本」への恩返しとして、先達たちに恥じない本をつくれるように、力を尽くしたいと思っています。

余談ですが、本への敬意を考える時、林子平を思い出します。林子平は、江戸時代に、弾圧にあいながらも開国を唱える本を自らつくり続けた(当時は版木を自分で掘って)人。結局は不遇のまま亡くなってしまったけれど、彼の本は後の開国の交渉で、日本を救うことになったという(ネタ元は全て「風雲児たち」という漫画です)。

たとえ現世利益は期待できなくても、むしろ不遇を感じることがあったとしても、本という形にしておくことで、いつか誰かの助けになる可能性があるかもしれない。と、ちょっと身の引き締まる感覚になります(でも、できれば不遇とは無縁に生きたいです)。

6.本をつくるのは「未来」のため

そして2つめ。本づくりって、「祈り」のようなものです。
根性論や精神論は全く好きではないのですが、

「こういう世界になってほしい」

という想いがなければ、少なくとも私はこの仕事を続けられません(苦笑)。文章を読んだり、書いたりするのは好きだけど、仕事になると生まれる「量」や「時間」の制約が、、、、、、org

だけど、なぜだかよくわからないけれど、受け取ってしまったバトンがあって、それを次へと手渡さなければいけない気がしてならない。誰かに「やりなさい」と言われたわけでもないのに、やらなければいけない気がする。

むしろ、やらなければムズムズして、気持ち悪い。。。

そして、まだ見ぬ誰かに、届けたい。

まるで砂漠に水をあげるような、途方もない無駄な仕事をしているような気もするけれど、いつか誰かの人生を助けるかもしれない。

そんなふうに自分が受け取ったものを次へと渡すのが、「本をつくる」という仕事のような気がしています。

またもや余談ですが、「つくらなければけないもの」がなくなって、いつか完全な「読者」に戻る日が来るのがひとつの夢です(もともとは単なる本好きなので)。ただ、今のところはまだその日が来る気はしません(つくらなければいけない、と感じるものがまだいくつもある)。

7.本づくりの裏にある「祈り」としての編集後記

さて、やっと今日の本題です。

ここで書いたような「祈り」を、もう少し明らかにして言ったほうがいい。
というか、明らかにしていきた、と思っています。

だから、「編集後記」を書き始めようと思います。

つまり、「どんな想いを込めて本をつくったのか」を、1冊ごとに記録していく、という試みです。

これまでそういうものは、全て本に載せて表現してきました。
(というか、それをするのが書籍編集者という仕事です)

でも、本だけでは伝わらないものもある、ということに、やっと気づいてきました。

本はあくまでも、著者のもので、本づくりのメインプレイヤーは著者です。
編集者は伴走者であり、つなぐ人なので、中心にあるのは「著者の想い」なのですが、そこには編集者なりの「祈り」も確実にあります(多分同じ原稿だとしても、編集者が違うとまるで違う本になると思う)。

必要としている方に届けたいし、入り口は、いろんなものがあっていいはず。もしかしたら、編集者の想いが、その入り口になるかもしれない。

そんな祈りを込めて、少しずつ書いていきます。
一応、発売直後の本から始めて、徐々に(時間があるときに)遡って書いたりするつもりです。

ただ、あくまでも「つもり」なので、あまり期待せずに更新をお待ちください(こうやって書いておくことで、もう少しマメに更新できるかもしれないという期待も込めて。苦笑)

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