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〈ファンタジー小説〉空のあたり6
6. 遭逢
ザザンと、波の音が聞こえて、ぼくは目を覚ました。今まで、このお店を取り囲む水を、ぼくは海だと思っていたけど、ほんとの意味で、海だと感じたのは、これが初めてだった。それは、今は、波があるからだった。ぼくは大きな布をたたむと、カウンターに向かった。カウンターはL字型になっていて、奥の席は、狭かったけれど、窓に近かった。ぼくは、その席に座って、窓の外を眺めた。
打ち寄せる波が、カール
〈ファンタジー小説〉空のあたり4
4.研修
動き出した車輪は、上空に向かって回り出した。やがて自転車は宙に浮き、空中を、風を切って走った。自転車に乗ったのは久しぶりだった。
しばらくこいでいると、若者に少しずつ近づいてくるのが分かった。ぼくは必死にこいでいたけれど、若者はゆっくりこいでいたからだった。
そのうちに、あたりが暗くなってきた。時間の感覚がなくなるまで、ぼくは、走りつづけた。
さすがに足が痛くなり、しびれを切
〈ファンタジー小説〉空のあたり1
1. 救出
用水路に足を取られないように、ぼくは必死に歩いた。何かに追われているように、ぼくは感じた。けれどそれは、幻だった。自分でも、半分気づいているのだった。それでもぼくは、あくせく働き、今、こうして休憩中に逃げ出して、用水路に足を取られないように、懸命に歩いている。
そろそろゆっくり歩いても、良いころだろう。
にゃあと猫の声がする。三毛猫の声だと思ったが、その根拠はどこにもない
#2000字のドラマ 青い声
「あ、あ~今日もバイトだ」
大学から帰るバスの中で、私は憂鬱になっていた。手には汗をかき、お腹も痛い。
私がこんな風になるには理由があって、バイトの内容が、私に向いていないから。
それは、接客。
小学生の頃、ハンバーガー1個頼むのにも顔が赤くなり、しどろもどろになって、ようやく買ったチーズバーガーも、涙しながら噛んでいた私なのだ。接客など向いているはずもない。なのに私は今、ハンバーガー