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元気なカリフォルニアのシニア恋愛市場

友人が70代のおじさま(仮称・K)に口説かれていた。

友人は私と同じアラフィフ世代の日本人である。

そういえば、以前、海でKに会った私は、「君の友人は英語が喋れるか?」「こちらに住むのか?ただ旅行に来ているだけなのか?」と聞かれたことがあった。

でも、まさか、デートに誘いたくて探りを入れているとは思いもよらなかった。

友人も友人で、Kから「結婚しているのか?」と聞かれた時、普通に「していない」とだけ答えて、彼氏がいることは言わなかった。

つまり、「結婚しているのか?」の裏に、「独り身で、恋愛市場にいるのか?」などという意味が含まれているとは全く考えておらず、質問されたことにだけ素直に答えてしまった。

それでKは、「口説いてOK」のゴーサインが出たと判断し、いろいろな催しに友人を誘うようになった。

が、しかし、そのお誘いが最初のうちは他の人もたくさんくるようなグループイベントだったため、友人はそこまで深く考えなかった。

やがてKから、二人で映画に行こうと誘われて、友人は初めて気づいた。

(え、それはデート? え? 私、デートに誘われている???)

慌てた友人は「自分には彼氏がいる」という話をした。

そうしたら、Kは「なんだ!彼氏がいる人に手を出すつもりはなかったんだ。『結婚しているか?』と聞いた時、していないと言ったから、フリーなんだと思っただけだった。悪かった」となった。

今、二人は普通に仲良い友人に落ち着いたようであるが、この話は日本人の私にはいろんな意味でちょっとした衝撃であった。

まず、オン年70歳をこえるKが、今も恋愛に意欲的だってこと。

そして、20歳も年下の私たちの世代がその対象に含まれるということ。

これがね、同世代の独身の男性に「結婚しているか?」と聞かるのであれば、その気がなければ、「結婚はしていないけど、恋人はいる」ときっと友人は答えたと思うのだ。

でも、70代のKがまさか自分とデートしたいと目論んでいるなどとは予想しなかったから、友人は聞かれたことにだけ答えてしまったのだろう。

少なくとも私ならそうなると思う。

それにしても、こちらで私が知っている70代の男性たちは、ものすごく元気である。

私が知っている70代男性のほとんどがサーファーであることが関係しているかはわからないが、多くの元気70代♂は以前結婚していて大きくなっている子どもがいるが、すでに離婚していて、再婚はしておらず、「ガールフレンド」がいるというステータスである。

私からしたら実の父親くらいの年齢の人たちの口から「僕の妻」でなく「僕のガールフレンド」などという言葉が出てくるのは最初はくすぐったかったが、今は慣れた。

多くの人たちが離婚しているという点では、元妻・元夫という関係の二人が一緒の場所にいる場に出くわすことも多々あって、これも渡米当初はすぐには慣れない感覚であった。

これまでで一番すごいと思ったのは、友人Rの40歳の節目の誕生パーティーが、Rのお母さんと、お母さんの新しい夫である年下男性の豪華な家で行われた際に、Rのお母さんの元夫、つまりRのお父さんがちゃんと出席していたことだ。

つまり、Rのお母さんの現夫と元夫が一つの家にいるという状態。

これって、元夫と元妻が単に顔を合わせるというよりずっとハードル高くないですか?

想像するに、最も居心地が悪かったのはRのお父さん(Rのお母さんの元夫)だったと思うが、彼は節度を持った態度で、かといって見るからに卑屈になったり遠慮しすぎたりすることはなく、その場で皆との会話を楽しみ、息子Rにお祝いの意を表して、回がお開きになるまで、ちゃんとその場にいた。

あっぱれである。

話は飛ぶのだが、一人でカフェなどにいる時、隣の男性に声をかけられるとすぐに「ナンパ!?」と思いがちだが、カリフォルニアにおいてはそうでもないことも多々ある。

なので、いきなり邪険にするのは失礼にあたると考えた方がいい。

しかし、当然、ナンパ目的の時もあるから、会話には乗りながらも、興味がないならば興味がないということを早く伝える、というテクニックが求められる。

うら若き女の子のために、秘策をお伝えしておくと、聞かれてもいない部分で早めに「彼氏」の存在を匂わすのが、たぶん一番簡単な方法と思う。

たとえば、「その洋服、素敵だね」なんて感じで声をかけられたら、「ありがとう!私のボーイフレンドもこの色が好きっていうのよ」みたいに、早々に彼氏の存在を出しておく、というようなこと。

この場合、本当に彼氏がいる、いないは関係ないし、彼氏が本当にその服を気に入っているかどうかも全く関係ない。ただ、その人にナンパされてもOKか否かを自分で判断してでっち上げればいいだけ。

ああ…書いていて、「そんな会話をしなくなって久しいわぁ」ということに気づいて、しんみりする40代。が、しかし、カリフォルニアにおいては冒頭の友人の例もあり、まだ可能性はある。

いやいや、私は結婚していて、その結婚生活は幸せで、別にナンパされたり恋愛で悩んだりしたいわけではないんだよなぁ…じゃあ、この願望のもとは何なのか?

強いていえば、「自分の人生からいつのまにかなくなってしまっていたものごとにまた出会って懐かしさを噛み締めたい」かな。

ということは、どんなに鬱陶しいと思っていた物事も、なくなってしまうと、それなりに懐かしく思うのだな、ということもわかったので、今、鬱陶しく思うようなこと(私の顔を見るたびに犬がおやつをせがむとか)も、いつか懐かしくなるのだと思って、今を楽しむことにしよう、という締めになった。