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気候変動対策:次期🇺🇸大統領候補ハリス氏とトランプ氏の違い

気候変動対策の観点から、次期アメリカ合衆国大統領としてカマラ・ハリス(Kamala Devi Harris)氏がドナルド・トランプ氏よりも好ましいと多くの人が考えているようです。その違いはどれほど大きいのでしょうか。そして、その違いは何に起因するのでしょうか?
今回は5つの重要な領域について、ハリス氏とバイデン大統領との比較も含めてご紹介します。


Kamala Harris at climate summit COP28 UAE

1.ハリス氏、トランプ氏、それぞれの気候目標


ハリス氏はバイデン大統領の気候目標である2030年までに2005年比で50-52%削減、2050年までにネットゼロという目標を維持する予定です。これらはパリ協定で設定された限度内で地球温暖化を抑えるための世界的な基準です。これらの目標を達成するための主要な政策手段には、後述するインフレ抑制法(IRA: Inflation Reduction Act of 2022)があります。これは過度なインフレ(物価の上昇)を抑制すると同時に、エネルギー安全保障や気候変動対策を迅速に進めることを目的とした法律ですが、これだけでは完全には目標を達成できません。連邦および州レベルでさらなる対策が必要です。

トランプ氏は気候変動について、以前大統領だった頃よりは学んでいて、対策の必要性も感じてはいるものの、彼の大統領選挙プラットフォームには気候目標が含まれていないようです。彼のキャンペーンは排出削減のための主要な政策の撤廃に焦点を当てています。そうは言ってもCarbon Briefの計算によると、トランプ氏が大統領であっても再生可能エネルギーや電気自動車の普及により排出量は減少し、2030年までに2005年比で約28%減少するとしています。

2.気候変動対策予算

ハリス氏はバイデン大統領のインフレ削減法(IRA:Inflation Reduction Act)を継続することを目指しています。これは、クリーンエネルギー、電気自動車、グリーン水素、低炭素製造、climate-smart農業のために少なくとも3,690億米ドルの助成金、融資、税額控除を含む史上最大の気候パッケージです。他にも、より厳しい車両燃料基準、エネルギー効率基準、石油・ガスのメタン排出規制、発電所の温室効果ガス排出規制なども重要だと捉えています。

トランプ氏はIRAに反対しており、“biggest tax hike in history”「史上最大の増税」と呼び、これを廃止して代わりに化石燃料への投資を増加させると約束しています。トランプ氏は2024年7月の共和党指名において、バイデン大統領の「“green scam”(グリーン詐欺)」を停止し、「数兆ドル」を道路に使用すると約束しました。一方、ハリス氏は今後10年間で気候およびグリーンエネルギー支出を10兆米ドルに増やすことを誓っています。

3.エネルギー

これはハリス氏とトランプ氏の間で最も顕著な違いがある分野です。共和党のマニフェストには、「“drill, baby, drill”」という見出しがあり、主に石炭や石油の増産を通じて米国のエネルギーを自立させる意図を明確にしています。ちなみに、2020年、トランプ政権は石油・ガス産業のメタン排出規制やエネルギー効率規制を撤廃させたこともあります。

ハリス氏はバイデン政権の再生可能エネルギーに焦点を当てた政策を継続する意向ですが、より厳しい目標を設定しています。バイデン大統領が2035年までに電力網を脱炭素化することを約束したのに対し、ハリス氏は2030年までにカーボンニュートラルな電力網にすることを目指しています。ハリス氏はまた、海洋掘削とフラッキング(岩石を砕いてシェールガスを抽出する手法)の禁止を望んでおり、バイデン(およびオバマ)大統領は禁止には反対していました。ハリス氏は化石燃料への補助金支給をやめると誓っており、2019年の大統領候補選挙運動では、産業に「 気候汚染税」を導入し、その収入の大半をグリーンコミュニティプロジェクトに還元すると誓いました。また、化石燃料のパイプライン建設に反対する先住民インディアンを支援してきました。


カリフォルニア州司法長官だった頃のハリス氏、2015年6月4日にカリフォルニア州ゴレタの北にあるレフジオステートビーチでのサンタバーバラの石油流出について説明を受けた後、メディアから質問を受けているところ


以前、サンフランシスコ地方検事をされていた頃のハリス氏は米国初の環境正義ユニットを設立したこともありました。カリフォルニア州司法長官として、ハリス氏はオバマ政権を相手に沖合での水圧破砕の停止を求め訴訟を起こし、環境被害で石油会社数社を訴え、エクソンが化石燃料の気候リスクに関する公的情報を否定した経緯について正式な調査を開始した。 エクソンモービルなどの大手石油会社は米国最高裁に禁止令の撤回を求めていますが、この訴訟の結果、太平洋沖での新たな水圧破砕はすべて停止されました。2019年、ハリス氏は当選すれば石油・ガス会社を訴追すると約束しました。これはバイデン政権の副大統領としては追求されなかったものの、 大統領選への出馬の一環として再浮上しています。


4.電気自動車


トランプ氏は電気自動車を奨励するための規制を撤廃すると繰り返し述べており、共和党大会では「初日に電気自動車の義務化を終わらせる」と約束しました。資金集めイベントでは、トランプ氏は大手石油会社が彼の選挙運動に10億ドルを寄付すれば、電気自動車に対する現在のすべてのインセンティブを停止すると約束しました。

トランプ氏は大統領だった頃、燃費基準を満たさない自動車会社への罰金を軽減しようとしたが、裁判で敗訴しました。また、カリフォルニア州やその他の州がより厳しい排出ガス・燃費基準を導入するのを阻止しようとし失敗したものの、退任直前にさらに厳しい罰金を阻止することに成功しました。

バイデン氏は最近、中国製電気自動車の100%以上に輸入税を課しましたが、トランプ大統領はこれでは不十分だと主張し、米国で最も人気のあるEVの多くを含むメキシコ製EVにも100%の関税を導入したいと考えています。バイデン政権下で、米国は2030年までに新車の30%以上をゼロエミッション車に、2040年までに100%をゼロエミッション車にするという目標を掲げており、ハリス氏はこの目標を維持するものの、低所得世帯向けのインセンティブを追加する可能性が高いです。
国家ゼロエミッション貨物回廊戦略は、エネルギー省(DOE)、運輸省(DOT)、環境保護庁(EPA)の意見を取り入れて、政権のエネルギー運輸合同局によって策定されました。ゼロエミッション技術を使用して貨物輸送をより持続可能にすることを目的としています。この戦略は、政府が気候変動に対処し、輸送部門の排出を削減するために、クリーンエネルギー技術の導入を促進しようとする取り組みです。
具体的には、電気トラックや水素燃料電池車などのクリーンな輸送手段を使い、効率的で環境に優しい輸送回廊を作ることを目指しています。また、この戦略はゼロエミッションの中型および大型商用車の増加に向けたインフラの整備や新技術の開発を支援し、持続可能な物流システムを構築することで、アメリカの経済を強化し、雇用を創出することも視野に入れています。

5.国際協力

The MIT Technology Reviewは、国際協力がトランプ氏と民主党の最も大きな違いであると指摘しており、「国際機関を弱体化させ、世界的な貿易戦争を激化させる広範な誓約」があるとしています。トランプ氏は「私はパリではなく、ピッツバーグに選出された」と述べ、大統領就任直後にパリ協定から米国を離脱させました。バイデン氏は大統領就任の最初の決定の一つとしてすぐに再加盟しました。もし、トランプ氏が再選されれば、再び離脱する可能性が高いです。

バイデン政権下で、米国は上院の承認を必要とする、 気候を温暖化させるハイドロフルオロカーボン(HFC)対策に関するキガリ改正(モントリオール議定書の改正)に批准し、HFCの段階的削減が進められていますが、ハリス氏は国際的な気候協力をさらに深化させたいと考えています。

COP28で米国を代表して発言したハリス氏は、「緊急性は明らかです。時計はもはや時を刻んでいるのではなく、目覚ましのように鳴り響いています。そして、私たちは失われた時間を埋め合わせなければなりません」と述べていました。 彼女は、主要な気候汚染国と「化石燃料生産からの移行を管理する史上初の国際的な国家連合を立ち上げる」ことを約束。バイデン大統領が取り組んだ主要排出国によるサミットを土台にしています。

以上、主な5つの領域を見てきましたが、これらはどのような違いを生じさせるのでしょう。

温暖化ガスの排出量ギャップ


バイデン-ハリスの政策により、米国は2030年および2050年の目標に必要な排出削減達成に近づいてきています。もっと必要ではありますが、さらなる連邦および州レベルの追加政策措置で達成が可能です。

Carbon Brief’s calculationsによると、トランプ氏のIRAや他のバイデン政権が行った主要な気候政策を廃止するという公約は、2030年までにバイデン/ハリス政権を継続した場合と比較して40億トンの追加の二酸化炭素排出量をもたらします。40億トンのCO2eは、EUおよび日本の年間排出量、または世界の140の最も排出量の少ない国々の年間総排出量、または過去5年間で世界中の風力、太陽光などのクリーン技術による排出量削減の2倍に相当します。コストの面では、米国政府の評価を使用してみると、トランプ政権になった場合の世界的な気候損害額は9,000億米ドル以上に達する計算が出ています。
実際、その違いはさらに大きい可能性があります。ハリス氏が大統領になれば、バイデン大統領が導入したものを維持するだけでなく、新しい気候イニシアチブを追加することを目指しているためです。一方、トランプ氏が大統領に選出された場合、石炭や石油の利用を後押しするための追加措置を導入する可能性が高く、これらはCarbon Brief Trump-scenarioには含まれていません。

トランプ政権は就任当初十分な準備ができておらず、気候規制の廃止や石炭、石油、ガスを支援するためのいくつかの試みはうまくいかず、バイデン-ハリス政権によって容易に逆転させることができました。トランプの二期目は、排出削減規制を取り消し、化石燃料生産を支援し、「EPAを破壊する」という規制を廃止する計画で、より組織化される可能性が高いです。

しかし、それには上院、下院の両院の共和党支配が必要です。米国大統領は強力ですが、それでもチェック&バランスが存在します。

米国の有権者たちは、大統領としてどちらの候補者を選ぶのでしょう。米国の排出量が非常に大きく、米国が世界に対してどれほど影響力を持っているかを考えると、米国の有権者の選択は私たち全員にとって極めて重要です。

環境活動家たちはハリス氏を支持

2020年9月15日、カリフォルニア州ピネリッジで発生したクリーク火災の被害状況を確認しているハリス氏

環境活動家たちはハリス氏が副大統領として気候変動対策や環境正義の推進において重要な役割を果たしてきたことを知っているため、ハリス氏がアメリカ大統領になることを支持しています。その中には、元米国機構特使ジョン・F・ケリー氏、元国務長官ヒラリークリントン氏、ワシントン知事を含む環境活動でも有名なジェイ・インスリー氏も含みます。彼らは、自分自身と将来の世代のために地球を守るためにはハリス氏のリーダーシップが必要であり、彼女と共に気候変動を戦うことを誇りに思っているそうです。
主要な環境団体である「League of Conservation Voters (LCV) Action Fund」、「NRDC Action Fund」、「Sierra Club」、「Clean Energy for American Action (CE4A Action)」なども大統領選挙においてハリス氏を公式に支持しています。このことは、重要な民主党の選挙区で若い有権者を動員するのに役立つかもしれません。米国での世論調査によると、気候変動は、高齢の世代よりも激しい山火事、海面上昇、より強い嵐に直面する可能性の高い若者にとって最大の関心ごとになっているためです。環境活動家たちは、ハリス氏を支持する募金活動も行っており、少額の寄付者から10万ドルを調達。バイデン氏からハリス氏に民主党のトップが変わった週には2億ドルを集め、その3分の2は、初めての寄付者から来ているそうです。

未来のために個々人ができること

未来のために私たちができることは何でしょうか?
簡単にできることですと、選挙で立候補されている方たちが何を行おうとしているかに関心を持ち投票することもその一つです。
例えば、環境問題への取り組みは、様々な法律や現存する制度とも関係します。そのため、新しい改革が必要であり、リーダーシップをとる政治家の選択は非常に重要なのです。米国でもトランプ氏とハリス氏の選挙戦が注目されており、それぞれの候補者が環境政策にどのように取り組むかにも注目されています。トランプ氏は経済成長を優先する一方で、ハリス氏は持続可能なエネルギーへの移行を提唱しています。未来のために私たちができることは、こうした政治的選択を慎重に見極め、私たちが住む地球の未来のために環境に対して責任ある行動を支持することです。

COPのオープニングセレモニーの会場にて第45代米国副大統領アル・ゴア氏と。彼が世界各地で開催中にクライメイト・リアリティ・リーダーシップ・トレーニングでは、気候変動についての深い知識と、他の人に伝えるスキルを学べます


また、個人レベルでも、まずは知るところからはじめるために勉強会に参加するのも良いと思います。
自分にできることは何かと考え、環境に優しいライフスタイルを実践したり、ビジネスを立ち上げたり、地域社会での持続可能な取り組みに参加する。これらの一人ひとりの行動が、私たちの未来をより持続可能で豊かなものにする鍵となることでしょう。

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