親友とは…？

　私には小学校からの付き合いで、今もまだ連絡を取り続けている友人が一人だけいる。小中の頃はクラスが違っても家が近かったので登下校が一緒、部活動もまた同じだったので休日の練習も一緒だった。
　高校から別々になり、その後私が地方の大学に進学したり、引っ越したこともあって、今ではもう年に一度会うか会わないか、たまに何かメールをやりとりするだけだ。
　でも、何だかんだでここまで長い付き合いになるのは彼女だけなのだ。

　先日彼女が結婚することになり、その話を母（もちろん彼女のことも知っている）にしながらお祝いを考えていた。
　その時に、母がふいに言ったのだ。

「あんたは〇〇ちゃんのおかげで中学やり過ごせたようなもんやしなあ。いっぱい感謝せなあかんわ。友達は多くなくても良いねん。大事なせなあかんで」

　私はこの言葉に、思わず言葉を途切らした。
　反射的に何かを言い返そうと思ったものの、その時の私はそれをぐっと堪えた。同時に、心の中にじわじわとその言葉が広がって行った。
　そして何回か反芻するうちに、やがて「ああ」と納得するものがあった。

　正直に言うと、私はなかなか彼女が結婚するという話を母にすることができなかった。周りの同年代が結婚していく中、ついに昔馴染みの友人が結婚すると聞いたら、母は絶対私にも言及してくるのだろうと思っていた。
　それが憂鬱で、別に私の結婚報告をするわけでもないのにげんなりとしていた。
　でも言わないわけにもいかないと、何かの折にさらりと言ったわけなのだが、予想に反して母は私のことには何も触れずただ彼女の結婚を喜んでいた。私はその反応に本当に安堵したのを覚えている。

　そして、実を言うとまだその時は彼女が結婚するということにどこかそわそわしてしまっていた自分がいた。
　今までのnoteにも書いたことだが、焦りというか、置いて行かれた感というか、何かを素直に受け入れられない感じ。素直に祝いたいのに、意地を張った自分がどこかでそれを歪ませて、罪悪感が襲ってくる。
　勝手に、彼女は結婚してしまって私より違う世界に行ってしまったんだな、と。もう今までのように気軽に私と遊ぶことはできないのかな、と。
　今思い返すと私は一体何を考えていたんだろう？馬鹿じゃないのか？と思うのだが、その時はずっとそんなことを考えていた。
　だから、お祝いを贈ったらそのまま少し距離を置こうかと本当に思っていた。年に数回のやりとりすら、もう私にはどこか憂鬱に感じられたのだ。

　でも、母の言葉でその考えが変わった。
　自分で勝手に決めつけて、自己完結して、早まらなくて本当に良かったと思う。
　私はここで、彼女と疎遠になってはいけないと改めて思えたのだ。

　そして思い出したのは、中学卒業の頃のこと。
　私はその時にも、彼女のことについて考えていた。今まで多分とても長い時間を共に過ごして来た彼女のことを。
　彼女はおそらく当時の私の一番の友達だった。素直な私だったら、あっさり親友だと言っていたのかもしれない。
　でもその頃の私はいかんせんどこかが尖っていた（のだと今は思う）。私と似た性格の彼女だったが、自分とは違う――そして自分にはとても真似できなかった部分が、とても眩しくて羨ましいと思うことが増えた。増える度、だんだん彼女と共にいることが少し苦痛になっていった。
　それでも一番の友人は相変わらず彼女で、でも親友と言うには素直に認められなくて。
　別々の高校に進むのが寂しくて、でもどこかほっとしていたような気もする。これでお互い新しいスタートが切れると。
　高校では親友と呼べる友達ができるかもしれない、と。

　何となく、その頃の気持ちと、彼女と疎遠になろうとしていた今の私の気持ちがシンクロしているような気がしたのだ。

　あの頃あんなことを思っていたのに、結局高校を卒業しても、大学を卒業しても、やっぱり一番の友人は彼女だった。
　いや、そう思っているのは私の方だけかもしれない。でも、私の方では確かにそうらしい。

　そんなことをつらつらと思って、やっぱりここで彼女と疎遠になるのは嫌だなあと思う自分を自覚した。
　同時に、あの頃よりはマシになったとはいえ、まだまだ自分は変な意地を張っていたのだなあと苦笑した。
　それが今回のことで吹っ切れて、ちょっと素直になれたような気がした。
　
　きっと彼女とはまだまだ長い付き合いになる。少なくとも、私はそうでありたいと思う。

　さて、次に会うまでに彼女へのお祝いのプレゼントを用意しなければ。
　一体どんな物にしようか？

　そこまで考えて、そういえば彼女は今どんな色が好きで、どんなものを好むのか全く知らないことに気付いた。
　あれ？……あれれれ？

　うん、次にあったら久しぶりに昔流行ったプロフィール帳交換みたいなことをしてみようかな。
　多分、向こうも今の私のことは知らないと思うんだよね。
　だって会っても昔の話とか近況報告しかしないんだもの。