フラミンゴ

親ブロック。自分と向き合うサイン

わたしは、フォークソングが好きだ。
歌詞にメッセージ性がある曲が多い。
曲を聞いていると歌詞の内容が流れるように頭に入ってきて、その情景が浮かんでくる。

特に、さだまさしさんの美しい歌声とメロディーが好き。
雨宿り、関白宣言など名曲はたくさんある。
そんな中で、「風に立つライオン」を聴いたときは衝撃を受けた。
日本に愛する恋人を残してまで、アフリカの医療に努めた男性の実話を歌にしたもの。アフリカの自然や動物たちの壮大さも歌っている。

”ビクトリア湖の朝焼け 100万羽のフラミンゴが
一斉に翔び発つ時 暗くなる空や
キリマンジャロの白い雪 草原の象のシルエット
何より僕の患者たちの 瞳の美しさ”

わたしは、この歌詞を聴いたとき、鳥肌が立った。
胸が熱く、高鳴ったのを今でも覚えている。

アフリカへ行きたい! 壮大な自然の中で動物たちを実際に見てみたい!!
海外に一度も行ったことがなかったこともあって、夢が膨らみ、考えただけで心がワクワクした。

ところが、実際に調べてみると、ツアーで50万円以上の旅費がかかることがわかった。転職して間もなかった私にとって、そんな貯金はなかった。
それだけでなく場所によっては治安が悪く、夜は出歩いちゃだめ。
マラリアには注意した方がいい、日本人は少ないから英語は話せた方がいいとか。
そもそも、まとまった休みがとれるのかなど、心配の種がたくさん出てきた。
う~ん厳しいかなという気持ちと、でもあきらめたくないという気持ちが錯綜した。

とにかく情報を集めてみようと、インターネットで調べていたところ、
アフリカで使われるスワヒリ語を教えている方がいることを知った。
それも私が住んでいる家のすぐ側で、レッスンをしていた。名前は、西方さん。
こんな偶然ってあるの?? 私はすぐに電話してみた。
「アフリカに行きたいんです。でも、色々心配なことがありまして、相談にのってほしいです。会いに行ってもいいですか。」と今の自分の思いを伝えると、
「わかりました。力になりますよ。」と即答してくれた。
次の休日に、早速会いに行けることになった。

西方さんには、アフリカで小学校を建てた友人がいて、その方を支援していることを知った。
「君みたいに、アフリカに興味をもって行動に移そうとする人は珍しいね。それが嬉しい。アフリカの良さをひろめていって欲しい。」

私が子ども関係の仕事をしていることを伝えると、その友人を紹介するから、小学校で子どもたちと関わってみないかという話を提案してくれた。
言語も通訳してくれるから問題ない。その他、マラリアのことなど心配していることに対しても、丁寧に教えてくれた。
さらに、さだまさしさんの歌詞に出てくる、ビクトリア湖のフラミンゴやキリマンジャロも観光できるよう頼んであげるとも言ってくれた。
宿泊費はただで済む。往復の飛行機代・観光代だけで済むので、ツアーよりも大分費用を安く抑えられる。

私は西方さんの好意に感動して、何度もありがとうの気持ちを伝えた。
初めて会った赤の他人に、こんなに親切にしてくれるなんて。
私はルンルンで家に帰った。


仕事にも慣れてきた頃、運がいいことに、まとまった休みがとれることになった。お金も用意できた。西方さんと紹介していただいた方とも連絡を取り合い、とんとん拍子で事が進んでいった。

両親に「今度アフリカに行ってくるね! 」と伝えた。
ところが両親にとってアフリカは、危険な場所という認識だった。
海外は初めて、それもツアーじゃないことがわかると、
「あんたね、なに言ってんの? そんなのダメに決まってるじゃない」
「何かあったらどうするつもり? 何もアフリカじゃなくてもいいじゃない。安全な国にしなさいよ」
「アフリカに知り合いができたの。その人にお世話になるから、安全だよ」
西方さんから得た情報を紙にまとめて、説得を試みた。
「初めての海外なんだから、せめてツアーにしなさい」
何を言っても、親は承諾してくれなかった。

最後の障壁は、まさかの親だった。
兄に相談すると、「親を心配させるな。間違ったことは言ってないよ。今回はあきらめろ」と言われた。
私は、怒りが込み上げるのを必死に抑えた。

西方さんに電話して、この状況を説明した。
「両親と電話で話してみるよ」と言ってくれた。
でも西方さんが説得しても、アフリカに行くことには反対された。
「もしそれでも行くというのなら、縁を切るから」
とうとう父親にここまで言われた。

もし何かあった場合、確かに迷惑をかけてしまう可能性もある。
両親が私のことを心配してくれる気持ちも理解しなきゃなとも思う。
でもこんなチャンスめったにない。どうしてもあきらめきれなかった。
「わかったよ。その代わり、北海道に行くことに決めたよ」

わたしは嘘をついて、結局アフリカへ行った。
両親の反対を押しきってまで、心からやりたい気持ちを貫いた。
両親に隠していることを思い出して、旅行中に気持ちが落ちるときもあったけど、私はアフリカに行って本当に良かったと思っている。
アフリカで出会った子どもたちの目は、本当にキラキラしていた。
アフリカで出会った景色・動物たちの壮大さには本当に感動した。
何よりも自分の思いを叶えられたことに、幸せな気持ちでいっぱいだった。

自分の心に従い、自由に生きるためには、つらい思いをすることもあるんだということを知った。
その分、自分の気持ちの強さ、覚悟も同時に知ることができる。
本当にやりたいことでなかったなら、あきらめて両親の意見に従っていただろうと思う。
やるか、やらないかは自分次第。
自分自身の思いを大切にできたこと、形にできたことが、今後の人生を生きていくうえで、自信になってくれる。一度きりの人生だもん、楽しんでいきたい。

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