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ミッドナイト・トラベラー

今日はちょっと気になっていた映画を見てきました。
「ミッドナイト・トラベラー」というドキュメンタリー映画。

主人公はアフガニスタンの映像作家。

自身が制作したアフガニスタンの平和に関するドキュメンタリーが国営放送で放送されると、タリバンはその内容に憤慨し死刑宣告を受けることに。

身の危険を感じた彼は家族を守るため妻と幼い娘2人を連れて、アフガニスタンからヨーロッパまで難民として5,600kmの逃避行を3台のスマホで記録したもの。

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東欧まで逃れた一家ですが、街中で買い物中に難民を嫌う人々に囲まれ、暴徒が幼い娘に殴りかかりろいうとした際に子供を守るため主人公の父が殴られる話や、国境を越え密入国するために足の感覚がなくなる寒い森で5日過ごしたり、密入国ブローカーに料金の増額を迫られ支払わなければ娘2人を誘拐すると脅されたり、、、と生々しい話が続きます。

夜露をしのげる難民キャンプにようやく辿り着いても、外には難民排斥デモが繰り広げられ警察も一部加担する状況。

難民になるとはどのような事なのか、一家の心の揺らぎ、それもで子供達の明るさに救われるシーンがあったり、また受け入れる側の複雑な心境が実際の映像として迫ってきます。

同じ「人間」同士なのに異質な存在と見てしまい、身構えてしまうのは本能的なものがあるのかもしれません。

だからこそ多文化共生社会の話や異文化コミュニケーションということが議論されていると思いますが、どのように互い乗り越えていくのか、この映画のフィクションではない生の映像で考えてしまいました。

密入国の支援ブローカーに騙され、異国の道端に一家で放りだされてしまい野宿しなければならなった際に「『助けて』って英語で何て言うの、、」と彼の妻の独り言はずしりと心に来ました。

UNHCR (The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees:国連難民高等弁務官事務所)によると、2020年、紛争、迫害、そして人道危機から逃れてきた人の数は8,240万人。これは全人類の1パーセントが避難を余儀なくされたことに。また、故郷を追われた人の約42%が18歳未満の子供とのこと。(UNHCR Global Trends 2020より)

約8,000万人...と言っても正直、数の世界で現実味がなかったのですが、「ミッドナイト・トラベラー」では一家の不安感、表情、息遣いがまでが近くで感じられるまで、きわめて解像度の高いものになっています。

さて、難民、移民という「民族の移動」は世界史的に見れば古くからあり、「民族移動は人類史とともにある」とも言われているようです。(「教養としての世界史の読み方」-第4章:なぜ人は大移動するのかー(PHP出版、木村凌二著p156)

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難民の発生原因として、歴史的に見ても戦乱や政変、信仰の弾圧や奴隷売買のような人的な強制移動が挙げられます。この映画の主人公も戦乱、政変、思想上の違いにより故郷を追われてしまう形に。今回のアフガニスタンの状況を見るになかなかふるさとに戻れる機会はまだ先のかもしれませんが、また状況が変わるかもしれない。

そして、大規模に民族が移動しなければならなかった大きな要因として、歴史的には「気候変動」が挙げられるとのことです。

例えば紀元前5,000年頃に緑豊かだったサハラ(グリーンサハラ)が大規模な気候変動で乾燥化が進み、砂漠化してしまい、それまで周囲に散らばっていた人々が水の豊かな大河の畔にあつまり(集まらざるをえず)、それがエジプト文明発祥のキッカケになったとのこと。(同著p160)

また、ゲルマン民族の大移動は四世紀頃から始まったヨーロッパの寒冷化が原因の一つでもあり、暖かな土地、耕作地(食料)を求めてローマに南下してきたとも言われているいるようです。(同著p173)

大規模の民族がローマ帝国に許容量を超えて流入してきたことで、暴動と鎮圧の連鎖に陥りローマ帝国の国力が消耗し始めたとも(同著p175)。今のヨーロッパが抱える難民問題と同じことが(それ以上のことが)ローマ帝国時代にすでに起きていたようです。

そして、難民等の民族の移動に「気候変動」も大きく関わっているということが歴史的観点から言えるのではあれば、今現在の「地球温暖化」の進展は、海面上昇、砂漠化等の環境変化を引き起こし、住める土地を狭め、民族の移動の可能性もありうることではないかとも思いました。そして日本は対岸の火事として見ているだけでは済まなくなる事にも。

その時、この4人の家族のようなことがいたるところで起きた時、私たちは(私は)どう対応するのか、そんなことも考えるキッカケになりました。

また、一方で民族移動のような事態が起きなくて、同じ言葉を話す社会でも、主義、主張、趣味を同じくするコミュニティが結びつきを強め、内向きになり始めているようで、社会はさらに分断、複雑化しコミュニケーションがとりにくい様相もはらんでいる。

今後は国家間の外交や他言語の翻訳者的な機能もさることながら、地域社会やもっと小さな単位でのコミュニティ間を橋渡しする様なコミュニケーター的な人たち、あるいはお互いのコミュニティの状況を理解しあうような対話を進ていく人たち(ダイアロガ-?)、、まだ自分でもイメージ出来ていないのですが、いろいろなことを「つなぐ」「つむぐ」とでも言うような働き、そのような人が重要になって来るのではと思いました。

この映画は2015年から約3年かけての一つの家族のドキュメンタリー。
安住の地を求めてまだ旅が続くという形で終わっています。

その後の現在はどうなったのか、安住の地が見つけられたのかとっても気になりました。



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