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佐藤の指揮棒談義[指揮者編2:カルロス・クライバー]

 佐藤でございます。第2回の指揮者解説はカルロス・クライバーです。私はカルロス・クライバーが大好きですので、カラヤンの回を書いているときから第2回は彼にしようと決めていました。
 例のごとく主観的な解説になるのは間違いありませんが、また私の好きな指揮者の解説であるぶん、さらに個人の感想が多い文章になると思いますが、どうかご容赦ください。それではカルロス・クライバーの指揮を見ていきましょう。

振り方

 指揮棒ファンが指揮者を語るのであれば彼を外すことはまずありません。というのも彼の指揮棒の扱いは非常に優雅で優れているためです。
 指揮棒解説を名乗っておきながらこのようなことを申し上げるのはお恥ずかしい限りですが、彼のバトンテクニックには癖が見当たりません。少なくとも私のように経験が薄い人間にとっては、ただただ美しい指揮にしか思えないのです。しかし、優れた点を特徴として紹介することは可能ですので、今回はそういった解説をする回です。
 動画で彼の指揮をご覧いただけばわかると思いますが、彼の指揮は全体として軽やかな印象を与える指揮であるといえるでしょう。その要因の1つが関節の使い方です。カラヤンの回でも話したことですが、やはり手首の使い方は指揮の印象を大きく左右します。彼に関していえば、まるで鳥の羽が風を受けてしなるように両手が動いているため、優雅で軽やかな印象を与えています。そして手首だけでなく、彼は肩や膝、首など、前身の関節をこのように自由に動かします。これによって大胆な動きをしておきながら繊細に思える指揮を実現しているのです。
 またそれと同様に、指揮棒のトリッキーな動きも彼の指揮に軽やかな印象を与えます。左側を向いて静止している指揮棒が突然右側を向いた時にはいつも驚かされます。この棒の動きは昆虫や小動物にみられる、急に動き出し急に止まる動きに例えることができるように思います。このような動きは普通、肘や手首によって制御するものですが、この二つの関節がひねられていないときにも、彼の指揮棒は瞬間移動のような動きを見せます。つまり、指先によって指揮棒の向きを変えているということになります。

持ち方

 カルロス・クライバーがこのように指揮棒を指先だけでコントロールするには、やはりカラヤンのような持ち方ではうまくいきません。実際に確認していただくのが一番わかりやすいのですが、彼は指揮棒を親指、人差指、中指でつまむように持っていることが多く、この三本の動きで指揮棒を動かしています。
 このときに指揮棒の動きにフレキシビリティを持たせるためには、3本の指でしっかり支えてはいけません。人差指は基本的にグリップの受け皿として利用し、人差指のシャフトに触れる一点が支点として働きます。親指だけではグリップが重力で上がってしまいますので、これを親指で支えるということになります。また、この際必要に応じてグリップの端を中指で支えることで安定感をコントロールすることもできます。


 じつは彼の指揮棒の持ち方はこれだけではなく、自由に持ち方を変えて棒を動かしています。基本的にはどの持ち方も指揮棒が自由に動くという共通点がありますし、そもそも自由に持ち方を変えている時点で指揮棒の動きが自由であることは自明です。具体的な持ち方は例として図で示しておきますのでそれでご覧ください。


 これらの持ち方を複数組み合わせる、というか曲のイメージに合った振り方のビジョンを実行するために、必要な持ち方に変えることができる、ということが彼の指揮の特徴といえるのかもしれません。
 つまり彼の自由で軽やかな指揮は、指揮棒が拘束されない持ち方を自由に駆使することで実現されているのです。
 もちろんカルロス・クライバーは人間ですから、同じく人間である我々が同じ技術を習得できないことはありませんし、持ち方をまねするということはあまり難しくないことのように思えます。しかし、指揮棒の自由度のために安定性を犠牲にした持ち方ですので、気を抜くと指揮棒が飛んで行ってしまうので、相当の訓練が必要です。

 先ほどから何度も申し上げているように、彼の指揮棒の持ち方は指揮棒のフレキシビリティのために、支点が少ないものですので、たいてい指揮棒のグリップが丸見えです。指揮棒ファンにとっては喜ばしいことです。ということでYouTubeの動画を漁ってみました。
 結果的に私が確認した動画(1986年来日公演、1986年ベートーヴェン交響曲第7番、1991年ブラームス交響曲第2番、1992年ニューイヤーコンサート)ではすべて三角グリップの指揮棒が使われていました(カラヤンと同じタイプ!)。
 実際、つまむように持つのが推奨されているのは、三角や丸など、比較的太さを持つグリップなので、納得のいく結果であるといえるでしょう。

おわりに

 今回はカルロス・クライバーの指揮棒について解説しました。彼の指揮棒はカラヤンのものと似たタイプですから、カラヤンにあこがれて指揮棒を買った方はクライバーの指揮も真似してみてはいかがでしょうか(すごく難しいと思いますが)。

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