THE DAY FALLS AGAIN EP.1 「Rain」
「ガラン」
私の手から、大剣…フランベルジエが滑り落ちる。
血まみれになったその手をまじまじと見つめる。周りには私と同じ格好の義体の骸、おそらく仲間だった者達だろう。切り刻まれ、そして地面は深紅に染まっている。
「…クシム!一体何が…」
私を呼ぶ声が聞こえる。ただ、反応する余裕などない。私が何故この異様な空間で立ち尽くしているか、分からないのだ。いや…忘れてしまったのか。
温もりを微かに感じた。私はいつのまにか声の主に抱擁されていた。
「お前を…守ってみせる。必ず…家族に誓って」
私は鉄兜の内側で涙を流していた。理由もわからず。これは一体何の為の涙なのか…。
カタカタと口を震わせながら、ようやく言葉を口にする。
「私は…誰なんだ」
VRC環境課 『THE DAY FALLS AGAIN』
「チーム分けしてください、ですって。体育の授業を思い出しますね!体育……
あれ?みなさん、区画立学校とか、通っていたんでしょうか……?」
国分寺が子気味良い声で課員に声をかける。
此処は環境課庁舎内、対策会議室。
ここで課員達は前回のムハレム社アンドロイド暴走事件で判明した、非検体にされた孤児たちの行方を捜索する為の会議をしていた。
緑色に光る小さな猫…MAL_VR_MCatはそう電子音を発する。"おキャット"様の意見に皆…同意らしい。
環境課の課員は揃ってどういう事か、"ワケアリ"の過去を背負っている。そりゃぁもう、涙が枯れ果てるぐらいの昔話を一人一人が持っているぐらいに。
「ふふ…まぁ愚問だよな」
そうナタリアはボソっと呟き、視線を会議中の課員達に戻す。
…みな私を凝視している。これはどうやら"お前が言うな"の空気らしい。
「コホン!」
ホワイトボードの前に立っていた灰色の猫が軽く咳ばらいをする。皆、ナタリアに向けていた視線を課長に向けなおす。そして私は、課長に睨まれている…。
「まぁ、皮肉を言えるまでになったのは良い事だな。…本題に移るぞ。」
パシャリ、と対策室の照明が落ちる。プロジェクターが起動し、スクリーンに画像を投影する…一人のあどけない少女の写真だ。
「今回の捜索目標は彼女”レイン”だ」
課長の言葉に、会議室が重い空気に包まれる。事件から数か月、我々は全力を尽くしてきた。…だが殆どの子供たちの行方は悲惨な結末を辿っており、探せば探すほど我々は無力感に苛まれてきた。この娘、レインもきっと…
「レインは特殊だ。要所に彼女に関しての記録は確認されるが、決め手となる情報は不自然に削除、改ざんされている。…我々の手元にある資料ではこれ以上追えない事が分かった」
課長の説明の後、映像が変わる。古びた教会の建物「コガラ孤児院」と…ムハレム社旧製造工場の写真だ。
「我々は"足"で直接情報を手に入れる必要性が出てきた。今回は彼女の情報を集めてもらう為、君たちにチーム編成を頼んだはずだ」
…課員の視線が泳ぐ。そういえば話は脱線に脱線を重ねて全く決めていなかった。課長はやれやれという表情をしながら映像を変える。
「…まぁ、我々はあまりこういう事をしてこなかったからな。予め私が振っておいた。チームで内容を確認し、翌日10:00に庁舎に集合。その後現地に向かってくれ」
課員はチーム編成を確認する。
~ST-1 (旧製造工場 北ブロック)~
新簗 風炉
円城寺椛
和泉童子
葛ノ葉 クズハ
ガメザ
~ST-2(旧製造工場 南ブロック)~
雲類鷲ハクト
一条仁風
アルベルト
国分寺周防
猫又シエン
~ST-3 (旧製造工場 地下実験施設)~
フローロ・ケローロ
イオ
紅狼散葉
響狐=ワケン・ブルーハニカム
ナタリア・ククーシュカ
~ST-4 (コガラ孤児院 訪問)~
No.966
上鞭どんぐり
栂原ミナ
メメリ
雪貞怜韻
~ST-5(環境課庁舎内 毛の個人所所有ネットワーク及び過去資料精査)~
夜八
ボーパル
MAL_VR_MCat
軋ヶ谷 みみみ
瑠璃川 ラズリ
何かしら少々不満があれど、課長が決定した人選だ。チームに分かれ、各々打ち合わせをした後、課員達は会議室を出ていく。
「ナタリア」
会議室を出ていこうとした所、課長が背中越しに声をかける。
少しだけ肩を落とした後、ナタリアは振り返らずにそのまま答える。
「…私に個人的な心配をかける必要はありません。私が前回の事件の当事者ならば当然の判断です。きっと私にしか見つけられない物もあるでしょうし、適任でしょう。」
精いっぱいの笑顔を作り課長に振りかえった後、ナタリアは足早に会議室を立ち去る。
課員が立ち去った会議室で一人、課長は机に腰掛け、天井を見上げる。原因不明の不安が心をざわつかせている。
「この感覚…あの時と同じだな」
「おきゃっと様は墓参りの作法とか知らない?」
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