コロナ後を生きる僕への手紙
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コロナ後を生きる僕への手紙

Kunitake Saso

0.はじめに

2020年の半分が終わろうとしています。オリンピックイヤーだったはずの"2020"は、新型コロナウイルスとの共存を通じて私たちが住んでいる社会や住まい方について、立ち止まって考え直すきっかけを与えてくれました。緊急事態宣言発令から解除までの約2ヶ月弱を経た今、再び社会が急速に「元に戻る」一方、第二波が見えてきています。

このコロナ禍の外出自粛の期間、戦略デザインファーム・BIOTOPEと次世代型アーキテクト集団・VUILDは、創造性の民主化という共通するビジョンを土台に、住まい方について議論を重ねました。全6回に及んだ議論はコロナによる変化への内省から始まり、次世代の住まいを作っていくために必要な、経済、建築、教育のかたちと、新たな住まい方を作っていくためのプロジェクトの具体的な内容に及びました。

そこで、長引くことが予想されるWith コロナの時代をより良い未来にしていくため、新たな住まい作りの運動体を作っていきたいと思っています。そこで現在進行形で議論している僕らがこれから作っていく未来の住まい方について、「ポスト資本主義の住まいを作る」と題し、代表してBIOTOPE佐宗邦威とVUILD秋吉浩気がオブニバス連載の形で全6回で綴り、問いかけていきたいと思います。

第1回:内省編(佐宗)、第2回:経済編(佐宗)、第3回:運動編(秋吉)、第4回:実践編(秋吉)、第5回:教育編(佐宗)、第6回:提案編

初回は、内省編。BIOTOPE佐宗が執筆します。

1.コロナが変えた僕の日常

2020年5月25日、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除された。

最初に浮かんできたのは、色々な人の顔だった。医療現場で働いていた高校時代の友達、これでもかというくらい理由をつけて、散歩も兼ねて行ったスーパーのおじさんや、Uber Eatsのお兄さん、普段いかにお世話になっているかを実感した保育園の先生方、きっと睡眠時間を削って前例のない政策を法律の限界の中で考えてくれたであろう霞ヶ関で働く友人などなど。言葉を尽くしても足りないほどの感謝の気持ちが湧いてきた。

次に、気をつければコロナ以前のように外出ができるようになったことは嬉しかった。自由に動けるというのはなんて素晴らしいことなんだろうか。Stay Home生活は、ある種の監禁生活だ。擬似監禁でもある程度楽しめることはわかったけど、だからこそ自由に出歩けるということがいかに素晴らしいことか。

変わらずZoom会議になった仕事を除けば、意外と日常が戻ってくるのは早い。その中で、何事も無かったかのように元の生活に戻ってしまうことは、果たして本当に良いことなのだろうかという一抹の疑問が頭から離れない。

実際には2月中旬から自主的に始めていたので個人的には外出自粛は3ヶ月日半だった。その中で、大事にしたい、忘れたくない変化もいっぱいあった。忘れないうちにしっかりと残しておこう。

妻や子供と、毎日一緒に過ごす時間。妻の体調不良によって生まれた1週間の完全ワンオペ生活。その中で、鍛えられさらに楽しくなった旦那料理。地元のちょっとした道の散歩や、ノリで企画した娘の初めてのお使いドキュメンタリー動画。ジムに行けなくなったことで、ランニングコースになった夜中の無人の多摩川の静けさなどが、記憶として残っている。

とてもとても地味な暮らしだった。毎日の過ごし方に選択肢が少なかったけど、ちょっとした工夫をすると、暮らしは味わい深いものになった。コロナ前は、ずっと外に出ずっぱりで、きっとドーパミン過剰な暮らしをしていた僕からすると、珍しくゆっくりとした暮らしだった。

Stay Home生活は色々大変なことも多かったけど、良い面を見ようとするとスピードを緩めてゆっくり歩くことで、自分の生活見つめ直し、置き忘れていた味わいや彩りの存在に気づくことができた「スローワールド」だった。これは僕個人の体感でもあるが、社会や世界にとっても同じで、人口の1/3が自宅にいるという人類の壮大な内省期間だったのではないかと思う。

ビジネスの面で言うと、以前から様々なクライアントと構想していた循環社会、コミュニティ経済などの2025年以降の実装だったはずのビジョンは、一気に実現の時間軸が数年分早まったような実感がある。そんな中、創造性の民主化の未来のビジョンを共有するビジョンパートナーであり、BIOTOPEのオフィス構想「進化する生態系」をオフィスにするという構想を一緒に作ったVUILDの秋吉浩気くんをはじめとしたメンバーと一緒に夜な夜なZoom会議をやっていた。(以下BIOTOPE新オフィス完成予想図)

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その会議の中で、印象に残っているのがVUILDのCOOであり、岡山県西粟倉村で田舎暮らしをしながら林業の再生を手がける井上達哉さんの次の言葉だった。

「緊急事態宣言の解除を聞いた時に、ああ、戻っちゃうのかなあ、と一抹の寂しさを感じた。緊急事態宣言下の生活は、ある意味で都会に住んでいる人も、田舎暮らしで感じる豊かさを実感しているように思えた。豊かさを稼ぐような」。

「豊かさを稼ぐ」毎日。これは、僕が派手さのない日常で感じていた充足感に近い。この言葉は、僕にとってコロナが仮に終わっても忘れてはいけない、大事なことの錨となった。

2.コロナによってもたらされた様々なリセット

ダボス会議のシュワブ会長は、2021年のテーマを、「グレートリセット」と掲げたという。資本主義の仕組み自体を見直そうという流れもあるが、そんな大きな話をする前に、僕らの生活自体にも様々なリセットは起こっている。最初に、コロナによってもたらされた僕たちの生活におけるリセットされたことを挙げてみよう。

働き方のリセットがあった。今まで日本の多くの企業の「働き方改革」は、スローガンばかりがネットの記事タイトルで拡散されるだけのものだった。しかし、緊急事態宣言下で、「働き方改革」が一気に実現し、ピーク時には4割近い会社が在宅勤務を実行したという。働き方や仕事をする時間、場所がある程度自由になったと言える。緊急事態宣言の解除後も、大企業では在宅勤務に出勤の上限を設定し推奨している企業が多い。

学び方のリセットも起こった。学校や幼稚園、保育園が閉鎖された結果、教育現場や親御さんを巻き込んで、前例のない形で学びとは何かを考えさせられた。あらゆる学校でオンライン授業が始まり、家が学校になった。また、世界の一流大学の多くがオンライン授業を始め、英語さえわかれば世界の最先端コンテンツでも無料でアクセスできるようになった。僕はこの期間中に、全国の先生や創造性教育を志向する仲間と一緒に、Zoomを使って全国200-300組の親子を繋げ、「夢をカタチにする授業」というVISION DRIVENな創造的学びのプロジェクトを始めた。

人付き合いの関するリセットも無意識に行われた。会社や学校などで毎日顔をわせていた人と会う頻度が減った一方、オンラインによって遠方の人とも「会える」ようになった。唯一リアルで会うとしたらご近所さんだ。ご近所の友達家族と、散歩しながらじっくり時間を過ごすことが楽しみになりつつある。

娯楽のリセットもあった。僕もそうだが、SNSを見ると多くの周囲のビジネスマン(男性)が料理をしていた。近くのスーパーに出かけ、買ったことない食材で新たなレシピを試してみるのは毎日の唯一の楽しい時間だったとも言える。外出できない中で子供を楽しませるためにパンを作った、初めて料理にチャレンジしたという人も多かったのではないだろうか。今までは、ありえなかった有名料理人のレシピが出回ったり、zoomによる料理教室も行われた。人類学者のレヴィ=ストロース曰く、「料理こそが人間を人間たらしめている」というらしいが、忙しい生活をしているとどうしても効率に負けがちだった料理の文化としての価値が再確認されたように思う。作る楽しみは、料理だけではない。外出できないからと、日頃はしない工作をしてみたという話も聞く。前述のVUILDの井上さんは、家のDIYを始めたり、野菜作りを始めたという。彼曰く、田舎においては作ったり、育てるなどの「生み出す」活動こそが、最大の楽しみだという。

住まいに関する価値観のリセットもあった。仕事と子育ての場がすべて限られた家のスペースに集中し、様々なモードの切り替えが難しいと感じた人も多いはずだ。僕は、今まで自分の住む家には(妻と比べると笑)、強い要望を持っていなかったけど、この生活が続くなら、少し郊外に書斎兼アトリエがほしいと思い始めた。

しかし、数多くあるリセットの中でももっとも大きなものが、住む場所に対する価値観へのリセットではないだろうか。次に住むとしたらどこか、という会話はうちでは、何度となく家で繰り広げられた。Zoom会議が当たり前になったBIOTOPEの20代のメンバーたちは、田舎暮らしと家庭菜園や農業への憧れを口々に口にする。そもそも通勤しないのであれば、都会に近い場所に高い家賃を払って住む必要はなくなる。もっと自然環境の良い、広い場所に住みたいというのは自然だ。東京よりも厳しく都市封鎖が行われていたパリでは、すでに人口流出が始まっているという。

3.理性から感性へ、物質から精神へ

こうやって並べてみると、僕たちの生活のあらゆる場面でリセットが起こったことがわかる。そして、その中で、日常が戻ったとしても変わらない変化があるように思う。その根底にあるものは何だろうか?

僕が思うに、長いSTAY HOME生活の中で、僕らは心にこびりついていた「人の目から自由になる」体験をしたということではないか。

僕らは、常に勉強をしたり、働いたりすることで、社会の役に立っているという自分の存在価値を感じてている。日本社会は、特に世間の目が正邪を決める神の役割を果たしていた社会なので、世間様の目を無視するのは難しい。そんな社会に、SNSがビルトインされたことで、日常も、プライベートですらも、そうやって他人の目を気にして、僕らは他人モードで生きてきた。その当然の帰結として、じぶんの声を聞く余白を無くしてきた。

しかし、外出を自粛した結果、得られたのは長い内省の時間、つまりじぶんと向き合う時間だ。日本の社会で初めて、等身大の自分でやりたいことに正直に毎日を生きること、じぶんモードで過ごすことが、社会の常識として当たり前になった瞬間だったのではないか。BIOTOPEのメンバーの一人も、「今までいかに、人の目を気にしてものを買っていたのかに気づいた」と話してくれた。周囲や世間様の価値観という他人モードから解放され、自分の感性や価値観を素で大事にするようになったのだ。

これは、役に立って生きる外から内(Outside-in)へのベクトルでの生き方が、自分を表現して生きる内から外(Inside-out)へというベクトルに180度逆転するコペルニクス的な転換だと言えると思う。

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そういう生活においては「豊かさ」の意味も変わる。今まで多くの場面で語られていた「豊かさ」は、すごいということ。役に立って生きる世界における(Outside-in型)世界の中で貨幣で換算できて、他の人と比較できる富の多寡という理性的なものさしによるものだった。それに対して、コロナ禍で気づいた新たな豊かさは「いい」。つまり、自分を真ん中に置く(Inside-out型)世界で、自分の感性や価値観などの深い内面に根ざす、比較ができない精神的なことに変わっていく。これは、デンマークで言われるヒュッケや、Wellbeingなどの言葉で語られる幸せで、比較ができないじぶんの物差しで豊かさで生きると言う概念だ。これはずっと大事だと言われ続けてきたが、今までは僕たちの心の中にある外からの比較の目の強さが、自分の内面による価値を解き放つ阻害要因になっていた。

しかし、この変化は不可逆的だ。一度解き放たれた自分の内面への意識は、なかったことにはできない。仮に社会が外形的に元どおりになっても、その感覚で生きていきたいという欲望は変わらないだろう。企業でも、経営者や管理職以外の人は、元の生活に戻りたくないと言っているらしい。With コロナ、Afterコロナでは、僕らの生きる世界は、次第に、着実に、確実にInside-out型にシフトしていくだろう。

この変化は、僕らの生き方にどういう変化をもたらすのか?この最終生活者である僕らの意識の変化は、ライフスタイルはもちろん、建築や、経済、都市のあり方などにも少しずつ影響を及ぼしていくはずだ。次回は、これからの豊かさを作る経済の形についてついて考えてみようと思う。

第一回を終える前に。この連載は、BIOTOPEの佐宗、VUILDの秋吉が発起人となって、次の時代の住まい方を構想し、作ることを通じて、次の時代の経済、社会の形を哲学していく、終わりのない実践の取り組みにしたいと思っている。共感してくれる読者の方と一緒に考えて、実行していくコミュニティを作っていきたいと思っている。

これからの世界の新たな仕組みは、僕らの内面のライフスタイルの変化が、拡大されて生まれてくる。これを読んでいるあなたじぶんのじぶんの感覚を感じることは未来の住まいづくりの第一歩だと思う。もし時間があれば、以下の問いについて、Facebookや、Twitter等で、#ポスト資本主義の住まいを作る  で呟いていただけたら新たな住まいづくりを一緒に考える第一歩だ。

問い:コロナ後、あなたの生活に起こった不可逆な変化があるとしたらそれは何だろうか?

#ポスト資本主義の住まいを作る


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Kunitake Saso
米デザインスクールの留学記ブログD school留学記〜デザインとビジネスの交差点」著者。 P&Gマーケティング部入社。 現在は大手メーカーにて、デザイン思考を活用しトレンドリサーチと新規事業のインキュベーションを行う。イリノイ工科大学Institute of design修士