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【第7章】 ソールドアウト 〜前編〜

第1章『 夢現神社 〜前編〜 』
前話 『 八つ当たり 〜後編〜 』

 失敗ととらえて夢をあきらめてしまうか、それとも夢を叶えるための『養分』とするかを決める、重要な分岐点に立っていることを『夢現神社』の神主さんに教えてもらってから、一週間後の日曜日──。

 私はひとつの目標を立てて、再び歩き出すことを決心した。

「一人でも多くのお客さんに、エディブルフラワーの魅力を知ってもらう」

 一週間前に木札ちゃんから教えてもらったアドバイス

『うまくいったことだけに集中!!』

 を、頭の中でずっと考えているうちに、この目標にたどり着いた。

 よくよく考えてみれば、今まで惰性で生きてきた私にとって、エディブルフラワーのフェアー企画が実現したこと自体、すごいことだった。

 そのエディブルフラワーのフェアー企画が実現できたきっかけは、店長である優子の目の前で、きれいな花冠を麦茶に浮かべ、華やかに変化させたところから始まっている。

 そして、エディブルフラワーが食べられる花だと知って、優子は目を輝かせながら食べたことで、たちまちエディブルフラワーの魅力に惹き込まれ、今回のフェアー企画を私に提案してくれたのだ。

「ん? ちょっと待って……」

 エディブルフェアーに至るまでの過程を思い返していた私の中で、なにか大きなものを見落としているような感覚が生じ、第六感(?)がざわめき出す。

 突然、壁にぶら下げていた木札ちゃんが、カタカタカタと私を呼んでいるように振動し始めた。

 でも、エディブルフラワーの魅力をお客さんたちへ伝えるための大切ななにかが見つかりそうな今、思考の邪魔をされたくなくて無視した。

 頭の中に次々と、コンビニ弁当や飲み物、デザートなどにエディブルフラワーを載せて、華やかな見た目を楽しみながら、美味しそうに食べている私の姿が浮かび上がってくる。

「そうかあ!!」

 フェアー企画で見落としていた大きなものの正体を見つけた。

「『体験』だ……」

 私も優子も、エディブルフラワーに惹かれた最大の魅力は、花冠を載せた華やかな飲み物や料理を実際に見て、食べた『体験』をしたからだ。

 それなのに、この間のフェアー企画では、エディブルフラワーが入ったプラスティック容器を店頭に綺麗に並べ、ポップで説明することしかしなかった。

 これでは、悔しいけれど、統括部長から言われたお花屋さんと同じで、エディブルフラワーの魅力がお客さんに伝わらないのは当たり前だ……。

 じゃあ、どうすれば良かったのか……。

 ガタガタガタガタ。

 木札ちゃんが私を呼ぶ振動の音が大きくなっていくけど、今は無視。

「そうよ! 私や優子が体験したように、お客さんたちにもエディブルフラワーの料理を実際に見てもらって、食べてもらえばいいのよ!」

 ゴツン!!

「痛った~~~い!!」

 後頭部に硬いものがぶつかった衝撃が走り、振り返ると、さっきまで壁にぶら下がりガタガタとうるさかった木札ちゃんが、床の上に落ちていた。

 私が無視したことに怒って、ベッドが置いてある部屋の壁から、私の後頭部へ目掛けて一直線にぶっ飛んで来たに違いない。

「飛べるんかい……」
 唖然とする私に、木札ちゃんは床の上でもガタガタガタと、無視されたことに抗議し続けている。

「そんなに怒らないでよ」
 木札ちゃんを床から拾い上げ、
「フェアー企画のことに集中したかったから、相手にできなかったのよ、ゴメンね」
 テーブルの上に置いてあげた。

 するといきなり、木札ちゃんがボフッと、いつもの3Dホログラム文字を勢いよく、私の目と鼻の先へ向けて放出した。

「ちょ……ちょっと! こんなに近かったら、文字が読めないでしょ!!」
 文句を言いながら椅子から立ち上がり、文字が読める場所まで離れる。

『自分がして欲しいことを、他人にも!!』

「はは~ん、なんで木札ちゃんが怒っているかわかったぞ~~」
 テーブルの上にいる木札ちゃんへ近づき、
「木札ちゃんがアドバイスをする前に、私が自力で解決法を見つけちゃったから怒ってるんでしょ~~?」
 からかうように、人差し指でツンツンと突つく。

 バスッ!!

 大きな破裂音と共に、3D文字が爆発して消えた。

 そして、テーブルの上から木札ちゃんがブワッと浮上するや、もの凄い速さでグワングワンと嫌がらせのように部屋中を旋回した後、ぶら下がっていた壁にビタッと戻った。

 現代科学では解明できない、超古代文明の英知テクノロジーを集約したという木札ちゃんの怪奇現象にビビりながら、
「ね、ねえ、木札ちゃん……まだ怒ってる? でもさ、木札ちゃんのアドバイスと同じことを、私も自分で少しは考えられるようになったんだから許してもらえないかな? ね、お願い、この通り!」
 壁に掛かっている木札ちゃんへ手を合わせて謝った。

 木札ちゃんはまだご機嫌斜めのようで無視されたけれど、私の心は晴れやかだった。

「木札ちゃんのアドバイスも、お客さんたちにエディブルフラワーを試食してもらう方向で同じだったけど、どんな料理がいいんだろう……」

 エディブルフラワーの本をしばらく眺めていたものの、考えがうまくまとまらず、
「極意『困った時は専門家に頼るべし!!』……なんちゃって」
 スマホを手に取り、平川あざみさんに、エディブルフラワーの魅力が効果的に伝わるような一口サイズの料理を教えてもらうことにした。

 電話に出てくれた平川さんは、私がまだエディブルフラワーの仕事をあきらめていないことを喜んでくれて、快く相談に乗ってくれた。

「エディブルフラワーを簡単にアレンジしたもので、お客さんにアピールできる一口料理なら、クラッカーのお菓子やゼリー、手鞠寿司とかが良いと思いますよ。今度、一緒に作ってみませんか?」
「本当ですか!! ぜひお願いします!!」

 平川さんとの楽しい電話を終えた私を、壁にぶら下がっていた木札ちゃんがカタカタカタ……と呼んだ。

「木札ちゃん、機嫌を直してくれたの?」
 ルンルン気分で木札ちゃんへ近づき、
「今度、平川さんから試食用のエディブル料理を教えてもらうから、これでバッチリだよ!」Vサインする。

 木札ちゃんの木面がグルグルと渦巻き出し、いつものゆらゆら3D文字が宙に浮かび上がる。

『もっと、おまけ!!』

「ええ~? それって、平川さんに教えてもらった試食用のエディブル料理だけじゃ物足りないってこと? まさかとは思うけど……」
 疑いの眼差しを木札ちゃんへ向け、
「さっき無視された嫌がらせじゃないわよねえ?」

 3D文字が霧散して消え、木札ちゃんはそれ以上、なにも答えてくれなかった。

「おまけを付けろ……って言われても、なにをおまけすればいいの? ていうか、そもそも、おまけってなんだっけ?」

 とその時、木札ちゃんに操られた私のスマホAIが勝手に起動し、
『おまけとは、購入した商品にサービスとして、喜ぶようなものを付けること』
 わかりやすく説明してくれた。

「わかりやすく説明はしてくれたけど……」
 エディブルフラワーのパックに付ける、具体的なおまけは教えてくれない。

 グ~~~~。

 お腹も鳴ったし、近くのコンビニへ気分転換にお弁当を買いに出よう。

 コンビニの店内に入ってすぐ、
「あ、そうだ……」
 せっかくなので、おまけ付きお菓子を見ていくことにした。

「へえ~~ウルトラマンのソフビ人形がおまけのくせに目立ってて、主役のお菓子が小さなガム1個とか、立場が逆転しちゃってるじゃん……」

 他にも、付録の人気ブランド製エコバッグが主役になっている、薄っぺらいファッション雑誌などを見ながら、
「エディブルフラワーも『おまけ』として考えたら、何の商品と組み合わせたらいいんだろ?」

 お菓子や雑誌みたいに、それ自体で需要のあるものに、エディブルフラワーを『おまけ』するとしたら……。

 ボワ~~ッと、普段から見慣れているものが、頭の中に浮かび上がってくる。

「お弁当!!」

 お弁当にエディブルフラワーを1つ『おまけ』して付けてあげれば、お客さんに楽しんでもらえるし、魅力が伝わるに違いない。

「書かなきゃ……」

 お弁当を買わずに、コンビニから駆け出した。

『おまけ』のアイディアが消えないうちに、企画書を書かなきゃ!!

第7章『 ソールドアウト 〜後編〜 』へ続く。。。

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