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『金色のカラス』 【第1章】 ピエロ 〜前編〜 /作・神楽坂ささら

【内容紹介】
毎日の生活に追われ、『夢』や『希望』が見つからない、叶えられない。でも、充実した、幸せな人生を手に入れたい人たちへ贈る、『幸せに生きるためのチカラ』が織り込まれたファンタジー小説です。

バスケ部顧問の先生から受けた理不尽な仕打ちに耐え切れず、レギュラーを目指して頑張ってきたバスケットボールをあきらめて退部してしまう、女子高生の美咲。追い打ちをかけるように、父親が会社をリストラされ、失踪してしまう・・・。すっかりやる気を失くし、『な~~んか、つまんな~~い病』に取り憑かれ、学校もサボるようになった美咲の前に、黒ジャージ姿の怪しいピエロが現れて、醜いカラスの姿に変化させられてしまった──。

【第1章・本文】

 つまんな~~い。
 つまんな~~い。
 つまんな~~い。

 あ~~~~~、
 な~~~~んか、
 も~~~~う、
 ぜ~~~~んぶ、

 つまんな~~~~~い!!

 最近のあたしはすっかり、『つまんな~~い病』に取り憑かれてしまっていた。

 理由はいろいろあるけれど、なんといっても、この世の中はすべて、理不尽で、不公平で、夢も希望も無い、つまんな~~い仕組みなことに気づいてしまったからなんだと思う。

 事件は、突然、やってきた。

 今年、バスケ部に入ってきたばかりの一年生五人が、いきなりレギュラー入りを果たしたのだ。

 この一年生たちは五人とも小学生のときからバスケをやっているエリートで、去年から全国的に巻き起こっている熱血少女バスケアニメの大ブームに乗じて、学校の知名度を上げるために他県からスカウトされてきた特待生だった。

 そのうえ、顧問の先生から、
「レギュラー入りした特待一年生のアシストに徹しろ」
 上級生であるあたしたち二年生が下働きするよう命令された。

 メラメラ、ギガギガ、悔しかった。

 レギュラーの座を奪われるどころか、下級生の雑用までさせられるなんて冗談じゃない。

 あたしたち二年生の補欠組はなんとか巻き返しをはかろうと、夏休みを返上。猛暑の中、「打倒、トクタイ!」を合言葉に、脱水症状寸前まで、毎日毎日、朝から晩まで練習に明け暮れた。

 そして、夏休み終盤、あたしたち二年生補欠組は、特待一年生五人との試合を、先生に直訴した。

「おまえらなあ~~」
 先生は冷ややかな目でにらみながら、
「無駄な努力なんかしてる暇があったら、レギュラー組のアシストに徹しろ!」
 あたしたちの申し出を一蹴し、立ち去った。
 
 いままで自分を信じて積み重ねてきた努力と希望がガラガラと音を立てて崩れ落ち、心の中が瓦礫の山と化した。

 しかも、悪いことは重なるもので、あたしの不幸が伝染してしまったのか、お父さんが会社をリストラされてしまった。

 お父さんは大手の食品会社で二十年以上も真面目に働いてきたのに、急激な業績悪化の責任を取らされてクビになったらしい。

 そして、なかなか再就職が決まらないことで、お母さんと大喧嘩をしたお父さんは家を出て行ってしまった。

 そのとき、あたしは、この世の中はすべて、理不尽で、不公平で、夢も希望も無い、つまんな~~い仕組みなことに気づいてしまったのだ。

 お父さんみたいに大きな会社で真面目に二十年以上働いてきても、会社の都合で「キミはもう必要ないから、クビだ!」って簡単に捨てられてしまうんだ。

 バスケをどんなに一生懸命練習して、努力を積み重ねても、学校の都合で「キミはもう必要ないから、一年生の下働きでもしてろ!」って言われてしまうんだ。

 真面目に、一生懸命、頑張ったって、その努力がむくわれることなんて限りなくゼロ。

 この世の中の理不尽で、不公平で、つまんな~~い仕組みを作っている、一握りの権力を持ったずる賢い人たちに、あたしたち平民は奴隷のようにこき使われて、人生を終えるしかないんだ。

 努力するだけ、
 時間も、
 努力も、
 熱意も、
 希望も、
 なんもかんも、
 ぜ~~~~~んぶ、

 無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄あああああああああああああ!!!

 なんだよ……。

 あ~~~~~、
 な~~~~んか、
 も~~~~う、
 ぜ~~~~んぶ、

 つまんな~~~~~い!!

 つまんな~~い。
 つまんな~~い。
 つまんな~~い。

 夏休みが終わってすぐに、あたしは退部届を提出した。

『な~~んか、つまんな~~い病』に取り憑かれてしまった、帰宅部のあたしは学校もちょいちょいさぼるようになった。

 時間をつぶす場所は、家から自転車で三十分ほどの小高い丘にある、小さな公園。

 そこは、あたしの住んでいる町が見渡せる絶好の場所で、学校をさぼるようになってから、あてもなくぶらぶらと自転車を走らせているときに、たまたま見つけた公園だった。

 いままで十数回、この公園を訪れて長い時間を過ごしているにもかかわらず、誰とも会うことがなかったので、『あたしの公園』と勝手に呼ぶことに決めた。

 今日もあたしは、居心地のいい『あたしの公園』で大きな木の下にあるベンチに座って、青空に浮かぶモコモコ雲を眺めたり、一つしかないブランコを漕ぎながら眼下に広がる街並みを楽しんだりして、だらだらと時間をつぶしていた。

 お腹がグウ~~と鳴ったので、コンビニで買っておいた焼きそばパンとアンパンを牛乳と一緒に美味しく食べて、そのままベンチでお昼寝しようとしたそのとき──。

 帽子を目深にかぶった男の人が『あたしの公園』へひとりでやってきた。

 黒いジャージーの上下を身につけたその人は、あたしの座っているベンチから離れた公園の隅にしゃがみ込むと、持っていた大きなカバンを開けて、なにやらやり始めた。

 あ~~あ~~『あたしの公園』だったのにい……。
 早く、どっかに行っちゃえ~~。

 心の中でブーイングしていると、黒ジャージーがすっくと立ち上がり、
「ウソでしょ……」
 あたしはギョッとした。

 真紅のカツラを頭に被った男の顔は真っ白で、鼻には真っ赤なボール、両眼には真っ黒な縁取り、口のまわりには真っ赤なメイクが施されていて、首回りには派手な紫と黄色のひだひだが巻かれている。

 うわ~~、あの人、ピエロなんだあ……。
 生ピエロ、初めてかも……。

 あたしは興味をそそられて、ピエロがなにを始めるのか期待した。

 ベンチに座ってじいっと見ているあたしに構うことなく、ピエロは手に持っていた三個のボールを順繰りに空中へ投げてはキャッチし始めた。

 クルクルときれいな弧を描きながら、テンポよくジャグリングされる三個のボール。

 ひさしぶりに少しだけ楽しい気分になってきた。

 ピエロが空中へ投げるボールは三個から四個、五個、と一個ずつ増えていき、ついには八個にまで増え、かなり高い所にまでボールが到達するまでになっていた。

 なんか、あの人すごいかも……。
 あたしはすっかりジャグリングに魅せられていた。

 けれども、あたしの楽しい気持ちを、いつもの「な~~んか、つまんな~~い病」が黒く塗りつぶしていく。

 でもさあ~、あの人、あんなに一生懸命練習してるけど、ぜんぜん儲からないんだろうなあ……。
 たいしたお金にもならないのに、なんであんな大変なことやってるんだろう?
 もしかして、「世界一のピエロ」を目指してるとか、『夢』を追いかけてんのかなあ……。

 でもさあ~、しょせん『夢』なんて叶いっこないし、理不尽な世の中に裏切られるんだから、努力したって無駄なのに……。

「馬鹿だなあ……」

 小さい声でつぶやいたそのとき──。

 八個のボールを空高く投げ上げながらジャグリングに集中していたピエロが、あたしのほうへ顔を向けてガン見してきた。

 ワチャ~~、こっち見てるよお~~。
 笑ってるよお~~。
 なんか怖いよお~~。

 えっ……!?
 なんで……!?
 こっちに来ないでよお~~!!

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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