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結婚式日記「引出物を作ろうと思う」編

「引出物なんだけどさ、自分で作ろうと思うんだよね」
そういうと夫はちょっとたじろいで、「う、うん」と言った。

陶芸アトリエで働いていたとき、その当時は自分が結婚する未来なんて並行宇宙の話だと思っていたけど、なぜか引出物に関しては「自分が結婚式をするなら引出物は自分で作りたいな」と、「明日も晴れるといいな」くらいの温度感でずっと密かに考えていた。

それから数年後、自分が結婚する未来は並行宇宙のできごとではなく、こちらの宇宙で起こることになった。
結婚式の準備は大変、というのはいろんなところで耳にしてきたけれど、なにごとも、実際自分で体験してみないと本当の大変さっていうものはわからない。実際体験してみて思ったこととしては、やっぱり大変だね、という当たり前の感想。でも決して全部が辛かったわけじゃなくて、私の場合、結婚式当日をゴールとするならば、そこに至るまでに様々なイベントをクリアしなければならなかったので、振り返ると「大変だった」という言葉でまとまってしまうのだ。

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家探し、引越し、入籍、ドキュメンタリー番組の撮影、図書館司書資格取得、当然ながら自分たちの仕事。
図書館司書資格取得以外は、夫も同じくすべての物事に同時進行で一緒に取り組んでいた。この中に「結婚式の準備」という「大変なこと」として定評のある事柄を組み込まなければならなくなったので、あっぷあっぷもいいところだった(「ドキュメンタリー番組の撮影」というパワーワード、こちらについてはまたいつか)。私は途中で何度も小爆発を起こしたが、そのたび夫が「よしよしぽんぽん」(頭を撫で背中をぽんぽんとして私をなだめる夫だけが使える魔法)をしてくれたおかげで、なんとか全てのクリアすべきイベントを乗り越えることができた。

結婚式準備をはじめる前からすでにあっぷあっぷしていた私が、「引出物を作りたい」と言い出したもんだから、夫はさぞかし驚いたことだろうと思う。
だけど私はなんとしてもやりたかった。
ご時世的にいろんなことが制限され、夫の仕事や立場、その他本当にいろんなことを考えて、結婚式については頭を悩ませた。そうした中で、いかに「自分たちらしい結婚式」を作れるかはとても大切なテーマだった。自分の力ではどうすることもできないことに振り回され続ける中で、自分が頑張ればできることだけは諦めたくなかったのだ。

制作の時間がしっかりと確保できるのは、司書資格取得後の3月以降。式が5月だったので、かなり短期間でアロマポットとオイルの制作、梱包作業、配送作業をする必要があった(私たちは式場持ち込みではなく各ご自宅へお送りする形をとったので、配送作業も自分たちでしなくてはならなかったのです)。
お世話になったアトリエAt Home Worksの彩さんに連絡をして、アトリエをお借りし、アロマポットの制作に取り掛かった。
数にしてざっと50数個。
土に触るのはとても久しぶりだったけど、もう少し苦労するかと思っていた菊練りも、足の開き具合や腰の入れ方、リズムや力加減、すべて身体がなんとなく覚えていた。

菊練りした土の形を整え、4ミリ幅でスライスしていく。ロウソク窓や灯り用の穴を開けた板状の土を石膏の型に沿わせて成形する。タタラ作りという方法だ。オイルを乗せるお皿も同様にタタラで作る。クッキーの型抜きのようにくり抜いてはカーブした型に沿わせて成形する。
そうしてできた本体50個とお皿50枚。それらを乾燥させて素焼きしたのち、手触りが滑らかになるようヤスリをかける。余計なところに釉薬が付かないよう底面等に撥水剤を施してから全てに釉薬をかけ、そして本焼き、となる。焼きあがった作品は再度ヤスリをかけて滑らかにして、ようやく完成という運びだ。
陶芸をやったことがないとあまりわからないかもしれないけれど、1個の作品が出来上がるのにこれだけの手数があり時間もかかる。手数があり、時間がかかる分、出来上がったモノを愛おしく思う。ただひたすらに「喜んでくれるといいな」と、渡す相手を思いながら作った。
もし全部にヒビとかが入ってしまったらシャレにならない。時間もないし縁起でもない。めちゃくちゃビビったけどなんとかロスもほぼ無し、予定通りの数が仕上がった。彩さんに「のんちゃんやっぱり陶芸向いてるよ」と言われて調子に乗りかけたけど、自分でもよくできたなとちょっと褒めたい。

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こうしてなんとかアロマポットが完成した。
次はアロマオイルのブレンドだ。香りは本当に人それぞれ好みが違うから、正直、老若男女全員が好む香りを作ることは難しい。でも「この人はこういう香りが好きそうだな」と当てにいって外れたときの悲しさといったらないので、今回はオーソドックスなブレンドにすることにした。
オレンジ、ラベンダー、ユーカリの3種類ブレンド。オレンジはだいたい馴染みがある香りなので嗜好性は低く、ラベンダーも少量であればくどさはない上ほのかな華やかさが出る。ユーカリは全体の透明感を上げてくれるので、この3種類にすることにした。
オイルの種類が決まったはいいが、肝心なのはその割合だ。割合によって香りの印象はかなり変わる。
仕事から帰ってきた夫を捕まえて、「これどう?」「この方がいい?」といくつか嗅ぎ比べてもらった。混ぜてすぐのオイルと、ポットで焚いたときの香りも比べてもらった結果、夫が「こっちがいいかな」と言ったオイルは、はじめに自分でこれにしようと思っていた割合のものとは違う方だった。
夫の感覚に全幅の信頼を置いている私は、夫が指さした方の割合で作ったオイルの大量生産に取り掛かった。

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これでオイルも無事に完成。
残すは梱包作業と配送作業。実はこれが一番大変だったかもしれない。もしあなたの近くに引出物を自作して郵送しようと考えている花嫁さんや花婿さんがいたら、何か甘いものでも渡してそっと優しく抱きしめてあげてほしい。
私たちの場合は陶器、割れ物というかなりリスキーなものだったので、十分な梱包が必要だった。だけどあくまでも引出物なので、なんでもいいから頑丈に包んでぽーんと送ればいいというわけではなく、見た目も少し可愛らしく、受け取った人が「わぁ!」と思ってくれるような形でお届けしたいと思っていた。
「引出物 梱包 割れ物 かわいい」でググりまくって試行錯誤した結果、カラーのペーパーパッキンやお家型のかわいいダンボールを使って、なんとなくそれらしくまとめることができた。
ダンボールを組み立ててはパッキンを詰め、作品を包んで詰めては蓋を閉じて揺すりガタガタ言わないか確認、ダンボールを組み立ててはパッキン・・・を50個分繰り返した。パジャマ姿で、最後の方は二人とも無言でただ黙々と組み立てては詰めをしていたけれど、「これが本当の共同作業だな」と思ったりもしていた。

式前日に車で近くの黒猫さんに持ち込み、無事発送完了。
お家型のダンボールで埋まっていたリビングのスペースががらんとしたとき、かなり大きな達成感と充実感と夫へのリスペクトで胸がいっぱいになった。
挙式後、引出物を受け取った友人たちから「二人らしい」「世界で一つの引出物だね」等、使ってくれている写真とともに嬉しいメッセージがたくさん届いた。自分たちらしい結婚式の形を、あきらめないで良かったと心から思った。

休みの度、結婚式に関するあれこれを調べたり作ったり手配したりしていたので、何もしない休日が久しぶりすぎて何をしたらいいんだろうとポケーっとしていたのだけど、結婚式に関するいろんなことを記録として残しておこうと思い、こうして書き始めた。第一弾、引出物編でした。
次回はプチギフト編「じゃあ俺コーヒー焙煎するわ」でも書こうかな。
読んでくださってありがとうございました。

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