日本の労働生産性を下げている敗因「過剰なグレーゾーン業務」 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.833
特集1 日本の労働生産性を下げている敗因「過剰なグレーゾーン業務」〜〜〜「AIが仕事を奪う」論をもう一度じっくり考えよう(7)
18世紀のイギリスで始まった産業革命は、紡績などの仕事を機械化して労働者の仕事を奪い、これがラッダイト(機械打ち壊し)運動を引き起こしました。経済成長は好調なのに賃金が上がらない「エンゲルスの休止」という現象が半世紀近くも続き、労働者は苦境にあえいだのです。
しかし19世紀末から20世紀にかけてアメリカで起きた第2の産業革命では、エンゲルスの休止もラッダイト運動もありませんでした。これは機械が大型化し、自動車による輸送などが広まったことで、スキルの高い労働者を必要とする仕事が大量に生まれたからでした。
イギリスの産業革命は「労働置換型技術」だったのに対し、アメリカの産業革命は「労働補完型技術」でした。この大いなる違いが、労働者の命運を分けたのです。では現在のAI革命は、果たしてどうなるのか。AIは「労働置換型」なのか「労働補完型」なのか。これは現代のテクノロジーを考える上で、最大の問題となりつつあるように感じます。
この問題を考えるうえで一本の補助線を引きます。労働生産性という補助線です。
本メルマガの読者の皆さんならご存じのように、日本は労働生産性がとても低く、OECD加盟38か国のなかでも23位とかなり下の方です。生産性はわかりやすく言えば、働いている人の数や労働時間、設備投資などのインプットに対して、付加価値や売上などどれだけのアウトプットを出せたのかという、その比率を計算したものです。単純に言えば、日本は人手をたくさんかけているのにも関わらず、それが付加価値や売上につながっていないということになります。
なぜか。これもさんざん指摘されていることですが、無意味な仕事が多すぎるということがあります。上司や役員会に提出するためだけの、美しく仕立て上げられた資料。やたらと情報を入れまくって、逆に読みにくくなってしまっているプレゼン投影データ。無限に増えていく会議と、それらすべてに求められる完璧な議事録。会議をとどこおりなく進めるための事前の根回し。読者の皆さんのまわりでも、こういう仕事が山ほどあふれかえっているのではないでしょうか。
わたしはフリーランスで、スタッフも雇わずひとりで仕事をしているため、自分の仕事場においてはこういう無意味は生じません。しかし外部の人と仕事をすると、無意味が異様なほどに多いことにいつも驚かされます。
ここから先は
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?