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ブリコラージュとベストプラクティス - 知っていても真似するのが難しい奥義として

奥義というのは、「最も大事な事柄。最も肝心な点。極意」というような意味なのでちょっと大仰な感じがしますが、奥義っていうのはどこかに隠されていたり、複雑で難解だったりするわけじゃないと思うんですよね。フロスをすれば虫歯にならない、とか、運動を続ければ健康でいられる、みたいな誰にでもわかるような内容だと思うんです。ただし、それを忠実に実行するのは簡単じゃない、というような。そういう話をします。

ブリコラージュとベストプラクティスとは?

ブリコラージュは、簡単に言うと、「身の回りのものを寄せ集めて作る」というような意味です。詳しい説明はこんな感じです。

ブリコラージュ(Bricolage)は、「寄せ集めて自分で作る」「ものを自分で修繕する」こと。「器用仕事」とも訳される。元来はフランス語で、「繕う」「ごまかす」を意味するフランス語の動詞 "bricoler" に由来する。ブリコラージュは、理論や設計図に基づいて物を作る「設計」とは対照的なもので、その場で手に入るものを寄せ集め、それらを部品として何が作れるか試行錯誤しながら、最終的に新しい物を作ることである。(Wikipedia)

続いて、ベストプラクティスは、「もっとも良いやり方で作る」というような意味です。詳しい説明はこんな感じです。

ベストプラクティス(英: best practice)とは、ある結果を得るのに最も効率のよい技法、手法、プロセス、活動などのこと。最善慣行、最良慣行と訳されることもある。また、仕事を行うために最も効率のよい技法、手法などがあるという考え方をいう。すなわち、適切なプロセスを確立し、チェックと検証を行えば、問題の発生や予期しない複雑さを低減させて、望ましい結果が得られると考える。(Wikipedia)

このふたつの作り方を、「ひとりで」やるのか、「みんなで」やるのかに分けるというのが、私が紹介したいフレームワークです。まず表から見ていきましょう。そのあと、ひとつひとつ説明していきます。

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具体的な利用方法

ひとりでブリコラージュ
これは「あたりまえで、簡単」です。たとえば、キッチンで料理する場合には、台所にあるものを利用して、そのなかで良いものを作ろうとします。また、友人に手伝ってもらってお家のリフォームをするようなこともあると思いますが、そういう場合も身の回りのものをうまく利用とするのがあたりまえであり、簡単です。その結果がどうなるかというと、これは実に心地よく楽しいわけですね。みなさんご経験のことかと思います。

みんなでブリコラージュ
これは「普通じゃなく、簡単」です。どういうことか。みんなで何かをする場合というのは、基本的に、達成すべき目的があるはずです。逆に言えば、目的を達成するためにこそ、みんなが集まっているはずです。その場合の「あたりまえ」というのは、その目的の達成のために「もっとも良いやり方で作る」こと、つまりベストプラクティスを採用することです。ところが、ベストプラクティスをやりきるのはとても難しい。だから、ついつい楽で簡単なブリコラージュを採用してしまう。簡単にいうと、同好会化してしまうということ。それが企業にとっては「普通じゃなく、簡単」という意味です。その結果がどうなるかというと、目的を達成するためではなく、自分たちができることで作ったぬるいものができあがってしまいます。

ひとりでベストプラクティス
再び、ひとりでやる場合の話です。これは「普通じゃなく、難しい」です。どういうことか。自宅のキッチンで料理をするのに、食材から食器まで世界一のものをそろえたりは普通しませんよね。YouTubeにピアノ演奏の動画をアップロードしたいからといって、自宅に防音室を作るところから始めたりは普通しませんよね。そんなことをする人はいません。だからこそ、それをやりきると圧倒的な差となってあらわれます。実行するのはすごく苦しく難しいが、ライバルが少ないので、やりきれさえすれば結果がついてきやすいという特徴があります。
ちなみに、それを「やりこみ度が高い」とか「廃人度が高い」とか表現することがありますが、そのような個人的な体験をもっているのは強いアドバンテージになると思います。

みんなでベストプラクティス
いよいよ本題ですが、これは「あたりまえで、難しい」です。達成すべき目的をもって集まった以上、ベストプラクティスを採用するのはあたりまえですが、世の中には、同じことを考えている競争相手がたくさんいます。そのなかで、「もっとも良いやり方で作る」ことをやりきるのは半端なことではありません。やりきったところでいい結果が出るかどうかも、約束されているわけではありません。アイデアにしても、技術にしても、デザインにしても、採用や組織づくりにしても、誰もがベストを目指して競い、奪い合っているわけです。「二番目でいいや」とか「このくらいでいいや」と思えればどんなに楽で簡単かわかりません。でも、そうはしない。ベストというのは、文字通り最高という意味であり、それ意外の意味ではありません。これが「あたりまえで、難しい」という意味です。

具体例をあげたいと思います。現在のようなクラフトビールのブームが興る前、80年代後半のこと。起業したばかりでまだ共同創業者の2人しかいなかった時代のブルックリン・ブルワリーは、「I Love New York」のロゴで有名な世界的なデザイナーであるミルトン・グレイザーにコーポレート・アイデンティティとラベルをデザインを依頼し、なんと、それを引き受けてもらいました。当時まったく無名の企業であり、プロダクトもまた十分に準備できていなかったにも関わらずです。自分たちが達成したい目的をよく把握し、そのためにもっとも良いやり方を考え抜き、ベストから一歩も妥協しないという意思をもっていないとできないことです。同好会の会報を作るなら友人のデザイナーに声をかければいいですが、ビールで世界に革命を起こすには世界最高のデザイナーを仲間にするのがふさわしいと考える。これをやり抜くのがベストプラクティスです。その結果がどうなるかというと、簡単です。みなさんが知っているようなプロダクトや企業になります。

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これが奥義だと言われると、もしかしたら拍子抜けするかもしれません。フロスをすれば虫歯にならない、とか、運動を続ければ健康でいられる、そんなことはわかっているよという声が聞こえてきそうです。でもやっぱり、これなんです。達成すべき目的をもってみんなが集まった以上、ベストプラクティスを採用するのがあたりまえなんです。楽をしようと思えば、みんなでブリコラージュになります。ぬるいものができます。協働するのが面倒になってドロップすれば、ひとりでベストプラクティスになります。それによって早く行くことはできるかもしれませんが、遠くまで行くのはより難しくなります。

みんなでベストプラクティスするからこそ遠くまで行ける。そのあたりまえをやりぬくのがとても難しいので、こうやってたまにこのフレームワークを思い出して、再確認して、何度も何度も自分に言い聞かせて、叱咤激励しています。

関連資料

ひとつめ。

ふたつめ。採用サイトのインタビューでもベストプラクティスの話をしました。


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