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A地点からB地点へ - そのプレゼン、誰をどこに連れていきますか?

なんてことのないコツなので紹介するのが憚られたのですが、振り返ってみると、自分はしょっちゅうこのフレームワークを使って考えていますし、使い続けて10年が経っています。なんてことのない話かもしれませんが、使い慣れた道具なので、熱く自分の言葉で伝えることができるフレームワークでもあります。なのでとりあげることにしました。

A地点からB地点へ

いつだったか、チームメンバーにこんな問いかけをしたことがあります。

「いまの発表を聞いて、どれくらいの人に伝わったと思いますか?」

その人は確か「50%くらい」と答えたと思いますが、「A地点からB地点へ」というフレームワークで鍵となるのは、その割合の考え方です。

パターン1: 参加者全員が、50%くらい理解した
パターン2: 完全に理解した人が、参加者のうち50%いた

パターン1は、聴衆の記憶に何も残らないプレゼンです。なんとなく理解したつもりになって、数日経ったらすべて忘れてしまうような内容です。
一方、パターン2は、完全に理解した半分の人にとって、そのプレゼンの以前と以後で考え方や行動がまったく変わってしまうことを意味し、しかもその状態が継続するような内容です。そしていうまでもなく、プレゼンで大事なのは、後者の考え方に基づいて、完全に理解した人をいかに多く生み出せるかにあります。

このように説明して再び「いまの発表を聞いて、どれくらいの人に伝わったと思いますか?」と訊くと、「完全に理解した人は、誰もいなかったと思います」という答えに変わりました。それがなぜだった対話を重ねると、以下のようなことがわかってきました。

伝えたいことが、いくつもあった: A地点からB地点、A地点からC地点、A地点からD地点。方向が分散していたり、そもそも目的地がわからなくなっていた。いわば、行き先がわからない電車には誰も乗らない、という話。

話を聞くのがどんな人か、わかっていなかった: そもそものスタート地点だと思っていたところに、誰も集合していなかった。いわば、バス停にいない人をバスに乗せることはできない、という話。

ではどうだったらよかったかというと、この逆です。
ひとつのプレゼンで期待する変化はひとつだけ。A地点からB地点へ。そしてそれを成功させるために、A地点がどこなのかしっかり把握し、プレゼンターがそこまで迎えにいく、そして、聴衆をそこに集める。そういう考え方をします。

自分がたまにやる「Dang Dang気になる市販のカレーの正しい作り方」というプレゼンでいうと、市販のカレールーを箱に書いてある通りの分量と手順で作ったことのない人をA地点とし、家に帰ったらすぐにやってみたくなる気持ちにさせることをB地点とします。
経験上、8割から9割の人がカレールーの基本を無視して魔改造に走るのでこれは鉄板のA地点といえるのですが、その人たちをちゃんとB地点行きの乗り物に乗せるためには、ちゃんと整列してもらう必要があります。B地点がつまらなそうだなと思ったら話に乗ってきてくれないので、話の本題に入る前に、A地点への集合と整列に時間をかけます。
そのあとは、スライドを何枚も費やしつつも、ひたすらB地点に向かっていきます。人気のカレーレストランの話もしないし、即席麺の正しい作り方の話もしません。繰り返し繰り返し同じメッセージを出します。そして最後、家に帰ったらやってみたくなるようにカレールーをその場で何名かの人にプレゼントしたりします。これらすべて、A地点からB地点で連れていくための工夫です。

もしプレゼンをする機会があったら、あるいは聞く機会があったら、こんな風にA地点とB地点を確認してみることをおすすめします。いろんな発見があると思います。うまくいっているもの、そうでないもの。うまくいっているものであればその工夫や理由。いろんなことが見えてくると思います。

最後に、この「A地点からB地点へ(A to B)」というフレームワークは、ジェリー・ワイズマンさんという方が書いた『パワー・プレゼンテーション』という本に書かれてあったものですが、上のような説明はほとんどされていません。代わりに、別の言葉で説明されています。参考としておすすめします。


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