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【小説】スノードームと灰色猫の冒険(4)

🐈 第4話 頼もしいドアーフ 🐈


西の海岸から少し北の方にある岬へ向かっていた女王達は異変に気づいた。

「なにかしら?鳥達が騒がしい。何かあったのでは」
「じゃが、今はドラゴンもおらんし、気にはなるが確認しようがないな」
「メアリが心配だわ、、あの子、何も知らないんでしょ?」
「うむ、ジェーン。前に取り決めたとおり、お前さんは死んだことになっとる。すまんの」
「いいえ、メアリを守る為に私が決めた事ですもの」

女王は立ち止まると振り返り城の方角の空を真剣な目で見つめながら言った。

「じゃがなぁ、メアリは何か気づいてるようなんじゃよな」
「私もそう感じたわ。関係ない振りをするのも辛いわね」
「おい、猫。お前さんはどうなんじゃ?」
「、、ジェーン、、私が守り切れなかったばかりに、本当にすまない」
「いやだ!ヒュー!あなたが守ってくれたおかげで私は今ここにいられるのよ。それよりあなたの方こそ、、ごめんなさいね。ありがとう」

その時、灰色猫の耳がピクッと動いた。

「メアリに何かあったようだ、、!」
「なんじゃと!まさか、、!」
「ヒュー、どういう事?」
「こちらへ来た時、メアリに身代わりの魔法をかけたんだ。あの子に何かあった時、私が痛みを受けるように」
「ヒュー、あなた、、」
「いや、大した事はない。だが何かがあったのはたしかだと思う」

灰色猫は右前足を上げ肉球の様子を見ながら言った。女王は灰色猫の全身をなでながら異常がないかチェックした。

「城なら安全だと思ってあの子を帰したけれど何があったのかしら。早く戻らなくては」
「そういや、メアリにしかできない事というのはなんじゃ?」
「あぁ、とっさにそう言ったけれど特にはなにも。だけどリチャードが何か見繕ってくれるはずよ。彼、ほんとによくやってくれるのよ」
「そうね!そうよ、リチャードがいれば大丈夫だわ。行きましょう」

女王は気持ちを切り替えて颯爽と歩き出した。おじいさんと灰色猫は顔を見合わせると苦笑いして女王の後をついていった。


「岬はまだかの?ちいと腹が減ってきたわい。そうじゃジェーン!今日はロビンの弁当があるぞ!メアリのリュックに入っとる」
「ロビンの!?あぁーー、懐かしい!食べたいわーー!ロビンの料理はほんと最高よね!何年振りかしら?ええと、7年?いえ8年?」
「んーむ。たしか前回わしが来たのがメアリの2歳の誕生日前じゃったかの。そういやメアリの誕生日はもうすぐじゃないか」
「あの子も10歳になるのね。こちらの世界を知るにはちょうど良かったのかもしれないわね」



岬では西の海岸で最初にクジラを発見した魔法師のライラが、浜辺に横たわる10頭近いクジラ達に回復魔法をかけて回っていた。

「はぁはぁ、、、ちょっと、、女王まだ~? 私死んじゃう、、」
「あぁ、、キラキラがなくなるよぉ、、、早くぅ、、」

息も絶え絶えにクジラ達の間を行ったり来たりしては回復魔法をかけ、疲れ果てていたライラは今にも倒れそうだった。

「ライラ!あなたもう休みなさい。顔色が悪いわ」
「女王~~、遅い~~、もう、、無、、理、、」

よろけながら女王の声に振り返ったライラは、安堵すると女王にもたれかかるように倒れた。女王とおじいさんはライラをクジラから離れた場所まで運び、草むらの上に寝かせると女王は回復魔法をかけた。

「あぁ~~、生き返るぅ~~~。やっぱり女王の回復は至福ですねぇ」
「ふふっ、何を言ってるの。さあさあクジラ達を回復しますよ」
「えぇ~~、女王酷くないですか?もう少し寝かせて、、」
「このお嬢さんは少し休ませた方がいいんじゃないか?」
「お嬢さん!あぁ~、そんな事言ってくれるのはビクターさんくらいですよ~。あっ、ビクターさんお久しぶりですね」

おじいさんはライラの顔をまじまじと見つめると首をひねった。

「はて?どこかでお会いしましたかな」
「あ~、私ラルフです、でした。今はライラですけどね」
「なんとラルフじゃと!女王の後ろをチョロチョロしては魔法を失敗して城を破壊しておったあの坊やか!」
「ちょっと~、やだなぁ~ビクターさん~~、そんな昔の事忘れて!今の私は魔法隊回復メンバーのエースなんですから!」
「エースはオリバーじゃろ。オリバーは昔からイナセじゃったなー」
「オリバーさんは隊長です。エースは、わ、た、し!」

女王がパンパンと手を叩き、

「はいはい、思い出話はそこまで。クジラ達が死んでしまいますよ」
「あっ、はい、、」
「ライラ?よろしくね」

女王はキラキラの結晶を取り出すとにっこりしながらライラに渡し、クジラ達の回復を再開した。

「とは言ったものの、これでは埒が明かないわね」
「リチャードはどうしたんですか?」
「ちょっと予定外な事があってね、彼は城に残ってるのよ」
「予定外。リチャードを外すほどの事って何ですか?」
「可愛いお客様がいらしたの」
「可愛い!私よりもですか?」
「そうね、ライラなんて足元にも及ばないわ」
「女王~~、いじめないで~~」

ライラは泣く振りをしながらも嬉しそうに女王の後をついてまわり、クジラ達に回復魔法をかけていく。そこへ岬に着く少し前に海岸沿いの森の方へ駆けて行った灰色猫が戻ってきた。灰色猫の後ろには、つるはしやスコップを持ったドアーフ達がガヤガヤと賑やかに岬の方へと向かっていた。

「ジェーン女王!このドアーフの長、バボールが馳せ参じましたぞ!」
「まぁ!バボール!なんてありがたいの」
「バボール!久しぶりじゃのー、相変わらず逞しいお姿じゃ」
「これはこれはビクター殿!お久しぶりにございます」

女王はバボールに歩みよるとうやうやしくお辞儀をし、バボールもそれを受けてひざまづき深々と頭を下げると女王と固く握手を交わした。ドアーフの民達もバボールに続き女王にひざまづくと頭を下げた。女王は集まったドアーフ達に向き直ると全員に聞こえるように良く通る声をさらに張り上げて言った。

「勇敢なるドアーフの民よ!よく来てくれました!あなた方がいればもう心配はいりません!スノードームの国の女王ジェーン、心より感謝します!」

ドアーフ達はつるはしやスコップを掲げて歓声を上げた。その様子をクジラを回復しながら見ていたライラはうっとりと、

「女王かっこいい~~、ライラはどこまでもついて行きます!」


ドアーフ達はそれぞれ道具を手入れしたり、服を動きやすくしたりして準備を始めた。お腹がすいたのかパンをかじっている者もいる。女王、バボール、おじいさん、灰色猫は集まって計画を相談中だ。

「ヒュー殿の話によれば、クジラは海に戻してもまた打ち上げられると聞きましてな。これは砂浜にプールを作るのがいいと、我らが呼ばれました」
「ほう、それはいい考えね。バボール、指揮をお願いできるかしら」
「もちろんですともジェーン殿。ではプールは我々にお任せくだされ」

「では私はクジラ達にシールド魔法をかけます。その後ビクターが灰の除去を始めますから吸い込まれないように気を付けてください」
「おぉ!ビクター殿、例のあれですな!」
「はっはっは!やっとわしの出番じゃな。まぁ見ておれ」
「バボールったらほんとうに嬉しそうね。でもあれは見ものよね」

バボールと女王は笑いながらそれぞれの持ち場へと向かった。バボールはドアーフ達をクジラごとにそれぞれ班分けすると砂浜に穴を掘り始めた。数人のドアーフはオリバーのいる西の海岸へと向かった。女王はクジラごとにシールド魔法をかけていく。

おじいさんは小さなスノードームを一つ取り出すと砂浜に設置して、カッチコッチと小気味良い音を奏でるからくり仕立てのスノードームの中から家(*1)を出した。それから中に入り暖炉の奥に設置してあった蛇腹のホースを外へ引っ張り出すと、クジラの周りに積もっている灰を吸い込み始めた。

すると家の煙突からキラキラが勢いよく飛び出し、岬周辺にキラキラと輝きながら降り注いだ。ドアーフ達は歓声をあげて喜んでいる。ライラは両手を広げてくるくる回りながら降り注ぐキラキラを受け止めようとして砂に足元をすくわれ転びながらも笑っている。

「ビクター殿は粋な魔法を使われますな!これは実に楽しい!」
「こんな沢山のキラキラなかなかないですよ~~。ほんと綺麗~~」
「メアリが見たら喜んだでしょうね」

皆が上を見上げていると真っ白なドラゴンが上空に現れた。

「女王、お待たせしました。メアリ様は無事にお城へお連れしました」
「リアナありがとう。それで城で何かあったようだけれどわかるかしら」
「私がこちらへ向かっている途中、城から大きな音がしました。戻ろうか悩んだのですが、城には大勢いますので指示通りこちらへ向かいました」
「大きな音、、何かがあったのは確かのようね。灰の除去が終わったらすぐ戻りましょう」

女王がリアナの鼻先をなでてやるとリアナは嬉しそうに目を細めた。

「女王、メアリ様は女王と同じ香りがしますね」
「あらそう?不思議な偶然もあるものね」
「メアリ様はほんとうに可愛らしいお方ですね」
「そうね、とても可愛いわね」

そう返事をした女王は、突然胸の奥がザワザワして涙がこぼれそうになった。苦しくて切ないような、今まで感じた事のない想いがあふれてきて思わず両手で顔を覆った。深呼吸するとキラキラの舞う空を見上げ、「ジェーン、私は女王。涙は見せてはいけない」と心の中でつぶやいた。

ドアーフ達の仕事っぷりは見事で、小一時間ほどでできたプールの中でクジラ達はゆったりとしはじめていた。砂が波にさらわれないように小高い壁まで作ってある。岬周辺の灰の除去もほぼ終わり、ライラはクジラと交信しては何やら楽しそうに笑っている。

「さあーて!プールはこれで一応完成ですな!」
「バボール、ご苦労でした。本当にあなた方には頭があがりません」
「ジェーン殿、今、この地で異変が起こっているのは知っております。我らに出来る事はいつでも、惜しみなく協力いたしますとも」
「ありがとうバボール。そしてドアーフの民達。ありがとう、、」

女王は再び涙が溢れそうになりこれ以上話す事ができなくなった。それに気づいたのか灰色猫がさりげなく女王の前に出ると、

「バボール。私の頼みを聞いていただいて本当に感謝しています。おかげでクジラ達は元気を取り戻し始めています。ありがとうございます」
「ヒュー殿、我らは当然の事をしたまでです」

灰色猫は深々と頭を下げ、また顔を上げバボールの肩に飛び乗ると、

「ドアーフの皆さん!クジラ達を救ってくれてありがとうございます!この御恩は決して忘れる事はないでしょう!女王に代わり、心より感謝申し上げます!本当にありがとう」

ドアーフ達は雄たけびにも似た大歓声を上げ、お互いを称えあった。

「あはは、ドアーフさん達は元気いっぱいですね~~、あれ?女王?」
「さーて!灰はとりあえず大丈夫じゃ!城へ戻って弁当じゃー!」
「え?あ、ビクターさーん!それ私の帽子~~~!待って~~」

うつむいたままの女王の顔を覗き込んだライラをおじいさんはそれとなく引き離した。灰色猫が女王の足元へ行き、

「ジェーン?大丈夫か?」
「ええ、私は女王ですもの」
「急いで戻ろう。城に戻れば一人になれる場所がある」
「私は女王。私は女王!、、よし!」

顔を上げるといつもの涼しげな女王の顔に戻っていた。

「バボール、私達は城へ戻ります」
「ジェーン殿、プールの状態を見るために何人か残していきますんで、異変があればすぐ駆け付けますぞ」
「それは助かるわ。ありがとう。この礼はいずれしますね。ではまた」

3人と1匹を乗せた真っ白なドラゴンはふわりと飛び立った。ドアーフ達が手を振って見送っている。3人と1匹も手と尻尾を振って応えた。



「女王、さっきクジラさんと話したんですけど~、最近、深海に黒い影のようなものが見えるんですって。揺らいでて形がよくわからないけど、漆黒の御仁かもしれないって」
「黒い影の事は西の海岸のクジラからも聞いたわ。やはりこの灰の多さは漆黒の御仁が動いてるせいなのかしらね。だとしたら、、」
「おい!ちょっと待て!オリバー忘れてないか」
「あぁ!オリバー!忘れてた!リアナ!西の海岸へ向かって!」
「はーい」

真っ白なドラゴンはゆっくりと旋回して西の海岸へと飛んだ。


「魔法師の兄さん、俺たちは一旦岬へ戻りますが、どうなさいます?」
「あー、私はもう少しここで女王を待ってみます」
「了解っす!兄さんが回復してくれたおかげで仕事がはかどりましたよ!ありがとうございました!」「「ありがとうございます!」」
「いえいえ、こちらこそ、来てくれてありがとう」
「じゃー、お疲れ様でしたー!」「「お疲れ様っしたー!」」
「お疲れ様ーー!またねー」

ドアーフ達はオリバーに手を振って戻っていった。ぽつんと一人残されたオリバーはプールの中で嬉しそうに浮かぶクジラをながめながら、

「お腹すいたな、、」


◇◇◇ 第5話へ続く


(*1)スノードームの中から家:詳細は第1話にあります。未読の方は読んでいただけると嬉しいです。

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