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あの頃に戻りたい 山田詠美「僕は勉強ができない」

僕は女にモテる

山田詠美さんの「僕は勉強ができない」
主人公、時田秀美は「勉強はできない」が女にモテる高校生だ。

誰からも好かれるクラスの人気者。サッカー部に所属しているけれどバーに入り浸り、従業員の桃子さんと交際している。決して「健全な」高校生ではない。

嫌味な言葉を投げかけてきた学年トップの秀才に意地悪ないたずらを仕掛けるなど「やられたらやりかえす」反骨心も持っている。

愉快な母子家庭

そんな秀美の家庭は、祖父と母と3人ぐらし。文芸編集者をしている母親の散財のため「貧乏」をしているが、「不幸」は、かけらも感じられない。
美人で恋愛に貪欲な母親と、女性好きで飄々としている祖父との会話は掛け合い漫才のようなおかしみがある。

偏見への反発が痛快

高校生らしからぬふてぶてしさがある秀美だが、母子家庭を憐れむようなステレオタイプの見方には一貫して反感を持っている。

「良いことをすれば、父親がいないのにすごいと言い、悪いことをすれば、やはり父親がいないからだということになる。すべては、そのことから始まるが、それは、事実であって定義ではないのだ。」

物語では、そうした偏見を持つ大人に、秀美が反論する場面が何度もある。そのやり取りは、相手の浅はかさをあぶり出し、痛快さを感じる。

高校時代に戻りたい

秀美の周りのキャラクターも魅力的だ。秀美を子供扱いしながらも惹かれている恋人の桃子さん。ときには秀美と一緒に桃子さんのバー行き、対等に会話しているようで相談に乗ってくれている担任の桜井先生。決して恋愛関係にはならないけれど親しい女友達の真理。言いたいことをはっきりという学級副委員長の礼子。

山田詠美さんの小説を読むのは高校生以来だったけれど、大人になってから読んだほうが楽しめると感じた。
素敵な青春小説に出会えて、高校時代に戻りたくなった。

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