【後編】国際教育協力業界に進むための大学院の選び方 ~アカデミア・国際機関・NGOそれぞれの視点から~

国際教育協力を仕事にしているサルタック理事陣の荒木・畠山・山田の3人にインタビューし、国際教育協力業界に進むための大学院の選び方について、アカデミア・国際機関・NGOそれぞれの視点から伺いました。

この記事は【後編】の記事です。【前編】はこちら

<専門性は必要か>

ー分野として、ジェネラルな開発学を専攻するべきか、専門性の高い学問を専攻するべきかで迷っています。どのように決めるのが良いでしょうか?

荒木)サルタックまわりでは、ジェネラルな開発学を勉強するよりも、特定分野の専門性を持っている人が多いです。キャリア構築の観点からも、アカデミアにしても国際機関にしても、1つ専門性があった方がいいと思います。その際、私が専門とする社会学はアカデミアではカバーできるポストが多い一方、国際機関では社会学に直結するポストの公募は経済学などに比べると多くない印象です。

<専門分野を決めるには>

ーキャリア選択する上で、教育経済学と教育社会学のどちらを専門にするべきでしょうか?

畠山)日本の教育社会学者に影響力があるのはなぜなんだろう?
荒木)教育社会学が政策に対してどの程度影響力を持っているかは定かではないですが、少なくとも定量的なアプローチも踏まえて教育を語れる人が日本の中では教育社会学分野に相対的に多かったというのはあるかもしれません。アカデミアの中でいわゆる「主流派教育学」は、教育史学や教育哲学のような領域でしたから。
ただ、例えば東大教育学部の中で教育経済学は比較教育社会学の中で扱われてきていますが、畠山が指摘するように実際に教えられている内容は国際的なスタンダードの教育経済学からは程遠く、むしろ教育行政学に位置づけられそうな内容です。他方、最近では米国で教育経済学を修めた研究者などが精緻な因果推論の重要性などをメディアなどで発信し注目を浴びることも増えてきました。今後、このような教育経済学的アプローチで「科学的」に議論をするのに加え、そうした「科学的」アプローチだけでは動かしづらい教育政策や学校現場の実情にも目を配った知見を提示できる人材が必要になってくると思います。

畠山)教育経済学(希少なリソースをどう配分するか)の欠点は、定性的手法の使用が許されないことですね。
教育政策の大学院は日本にはないですが、教育政策は(政策は経路依存性があり、歴史を紐解く必要があるので)教育史・教育政治学・教育経済学といった他の学問的バックグラウンドを持つ人とコラボする力が必要とされます。国際機関で働く上でも必要になる力です。

<博士課程までの道のり>

ー博士課程までストレートが進学した方がいいのか、原動力を得るための現場に出た方がいいのかといった視点ではいかがでしょうか?
畠山)国際機関への就職がゴールの場合、博士にストレートに行った方がいいと考えています。その理由は主に3つです。
1.一旦就職をした場合、博士で論文を書く価値が下がっていることもあるから。
2.修士卒と博士卒では任せられる仕事は変わってくるため、博士卒の方が大きな仕事を任してもらえるから。
3.働いていれば得られたはずの所得を放棄していることになるので、家族のことを考えると早めに博士課程を修了しておいた方がいいから。

<日本で準備すべきこと>

ー最後に、大学院への進学やキャリア形成において日本で準備しておくべきことや、読んでおくべき本やジャーナル、論文等があれば教えていただきたいです。

山田)まずはサルタックブログを読んでください(笑)。国際教育協力、国際教育分野の最新の研究に加えて、キャリア・進学・奨学金などの実践的な情報が盛りだくさんです。

大学院進学にあたっては、お金の問題にはぶつかると思うので、奨学金の準備をやっておいて良かったと思います。またフルブライト奨学金の応募書類は、しっかり準備すれば大学院の研究計画書や志望動機書のドラフトになり得るものを作成できるので是非チャレンジしてみてください。
現場で何が起きているかの想像力が豊かでキャリア・研究計画が明らかな人は職務経験を挟まなくても学部から博士までストレートで進学するのもありかもしれません。一方で途上国での職務経験を通じてキャリアや研究計画が明確になる人もいると思います。現在は新型コロナウイルスで途上国に赴くこともなかなか叶わないので、現在は今出来ることを最大限準備しておくことですね。
例えば、元サルタック・インターンで、国連ボランティアとして活動している北村さんの場合、コロナの影響でネパールに渡航できないのですが、渡航したときのコミュニケーションのために現在ネパール語を勉強しているそうです。

畠山)北村くんの場合、大学院(コロンビア大学のティーチャーズ・カレッジ)にユニセフの人が授業に来ていて、そこでコネをつくったと言っていたので、大学院にいる人は人的ネットワークをつくることを意識した方がいいと思います。
あと、読んでおくべきものとしては、下記ジャーナル最新号のアブストラクトだけでも目を通して、どういう国とトピックが扱われているかを見た方がいいと思います。

・International Journal of Educational Development
・Comparative Education Review
・Comparative Education
・Compare

あと、自分が専門にしたい分野のランキングの高い(インパクトファクターが大きい)ジャーナルに掲載されている論文や引用数が多い文献には目を通しておくべきです。
そのあたりのことは、そのあたりのことは、リテラチャーレビューの書き方というサルタック・ブログに書いてあります。

”国際機関が出しているFlagship Report (世界銀行の世界開発報告書、ユニセフの世界子供白書、ユネスコのGlobal Education Monitoring Reportなど) は、国際(教育)協力のホットトピックを、まさにその分野の研究者が時間をかけて作成しているので、そこで引用されている研究論文はその分野で非常に重要なものである可能性が高い”

日本語で読むのであれば、Global Education Monitoring Reportの翻訳版もあるので、どんなデータ・テーマが扱われているかを把握できます。

また、JICAへの就職を考えているのであれば、広島大学の国際教育協力論集のアブストラクトを読んで、日本の国際協力の流れをつかむことも大事かもしれませんね。
始めの一歩として、国際教育協力の入門書を選ぶのであれば、下記の先生方の著書を読むと良いと思います。

・工藤和宏
「多文化社会の偏見・差別――形成のメカニズムと低減のための教育」(共編著、明石書店、2012年)
・横関 祐見子
「国際教育開発論―理論と実践 (日本語) 単行本」(共編・黒田一雄、2005年)
・小松太郎
『途上国世界の教育と開発―公正な世界を求めて (日本語) 単行本』(ぎょうせい、2016年、)
・北村友人
「国際教育開発の再検討―途上国の基礎教育普及に向けて (日本語) 単行本」(小川 啓一 (著),西村 幹子 (著)、2008年)

途上国の教育政策を見る時はアングロサクソン系の政策がおりてくることを考えると、アメリカとイギリスに関する日本語の文献を読んどいた方がいいと思います。
荒木)例えば博士課程の研究計画を考える際、一次データを自分で収集することを想定している人が多い印象がありますが、二次データの活用も是非検討して欲しいと思います。調べてみると、使い勝手の良い二次データは世の中にたくさん存在していて、それらを活用できると研究の効率が上がります。また昨今見られるように、感染症などの影響で現地調査へ行けなくなることもあるため、二次データの活用はリスクヘッジにもなります。その意味で、畠山からアドバイスがあったように主要学術ジャーナルの論文を読む上では、一次データだけでなく、二次データを使った論文(具体的なデータソースや分析方法等)もチェックすることをお勧めします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーサルタック・シクシャとは、ネパール語で「有意義な教育」という意味です。 私たちは、世界中の全ての子どもたちが、人種や信条、性別、出身家庭等にかかわらず等しく「サルタック・シクシャ」を受けられる社会の構築を目指しています。

現在サルタックは新型コロナによる学校閉鎖が続いているネパールで緊急学習支援を実施しています。行政、学校、親などのステークホルダーと協力して学校閉鎖中、学校再開後の子供たちの学習支援を実施していきます。子供たちの学びの喪失を少しでも軽減し、学びを継続できるためにどうかお力添えをよろしくお願いいたします→緊急学習支援について知る・寄付をする

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