【前編】国際教育協力業界に進むための大学院の選び方 ~アカデミア・国際機関・NGOそれぞれの視点から~

国際教育協力を仕事にしているサルタック理事陣の荒木・畠山・山田の3人にインタビューし、国際教育協力業界に進むための大学院の選び方について、アカデミア・国際機関・NGOそれぞれの視点から伺いました。

<プロフィール>


1人目は、研究者としてアカデミアの視点から話すサルタック代表理事の荒木啓史

略歴:
オックスフォード大学 社会学博士
三菱総合研究所研究員、世界銀行/GPEコンサルタント、社会情報大学院大学准教授等を経て、香港嶺南大学助教授

2人目は、国際機関で働いた経験から話すサルタック理事の畠山勝太

略歴:
ミシガン州立大学教育大学院 教育政策・教育経済学コースの博士課程
過去、世界銀行・ユニセフで教育統計・データ分野の業務に従事

3人目は、複数のNGO職員を経験した立場から話すサルタック理事の山田哲也
略歴:
サセックス大学国際教育と開発学科修士課程修了
3月までNGO職員としてケニアで住民参加型学校運営のプロジェクトに従事

<大学院は日本か海外か>


一般的に大学院への進学は関心のある「研究テーマ・手法」に合わせて決めるべきだが、実際は・・・

ー国内の大学院に進学すべきか、海外の大学院に進学すべきかで言うと、どうでしょうか?
畠山)国際機関で働くことを目的にするのであれば、大学の名前は直接は関係ないです。国際機関側も客観的な指標をもとに点数を付けて合否判断をしないと訴訟リスクがあるためです。主に、次の項目ごとに履歴書に点数をつけているので、少なくとも書類通過するか否かには大学名は関係ないと思います。
・博士号を持っているかどうか。
・募集しているポストと専攻が関連しているかどうか

また、(どこの国の大学院に進学すべきかで言えば、)どの国際機関で働きたいかどうかでイギリスかアメリカかが決まってくると思います。大学院在学中にインターンやコンサルタントとして働けるかが重要なので、地理的に近いと有利になります。
ユネスコ(パリ)やOECDに行きたいのであれば、イギリスにある大学。ユニセフと世銀はアメリカ東海岸にある大学(スタンフォード大学くらい有名ならOK)といった感じです。
国際機関にピンポイントで人脈がある教授がいる場合は、教授頼りで大学院を選ぶのもありだと思います。

荒木)就活時に学歴フィルターがあるかという点については、海外におけるアカデミック・ポストの場合、必ずしもないとは言えないと思います。一つのポストに対して、ものすごい量のアプリケーションが届くので、選抜する大学側はリサーチステイトメントやティーチングステイトメントなどを読み込む必要が出てきます。そうすると、まずはじめに学歴フィルターをかけて選抜対象を絞り込むという対応が行われている可能性は否定できません。

山田)畠山が話している通り、海外発の援助機関での就職に関しては、行く大学の先生の繋がりを見てみるのも一つです。
例えば、英国のNGOのActionAidはサセックスの先生が関与していました。その関係でリサーチインターンの話が舞い込んできました(実際にはオファーを受け取らず)。UNESCOパリのEFA(Education For All)モニタリングレポートに関わる専門家はサセックスとケンブリッジの先生が多かったです。

ーイギリス以外のヨーロッパの大学院や、途上国の大学院には進学すべきではないでしょうか?
畠山)英語ができるのは大前提(英語で報告書を書ける)ですが、Alain Mingat教授のいるフランスの大学院には行けるのであれば行った方がいいです。教育経済系のチームを形成していて、国際機関でも絶大な影響力を持っています。
あとは、シンガポールもありです。すごい勢いでお金が集まっているので、人材も集まってきています。そして、調査地(ネパール)に近いというのもあります。
・地理的
・資金的
・人的ネットワーク
の3つを意識して地域・大学院を選ぶのがポイントだと思います。

一方、イギリスやアメリカの国際教育協力のメインストリームから遠くなってしまうので、これから人的ネットワークを形成しようとしている学生にとってはアジアの大学院に進む価値は下がってしまうかもしれません。社会人で大学院に進む場合のように、すでにコネがある場合は問題ないと思いますが。

荒木)英語に加えてフランス語ができると非常に強いです。とある国際機関の最終面接では、フランス語でもインタビューが実施されます。その際、フランス語の能力は最終合否に直接関係ないという説明がなされますが、実際には一定の選抜フィルターになっているようです。
また、シンガポールや香港の大学は非常に資金力があり、教員の待遇がよく研究費も豊富なので、著名な研究者が集まりやすい環境にあります。しかし、畠山が言及したように、国際的なヘゲモニーを握っている英米などに物理的にアクセスしにくい部分はディスアドバンテージだと思います。
ただ、コロナの影響でオンラインも増えてきたので、地政学的な変化もあり得ると思いますが。

畠山)バンコクの高等教育に関してはどうですか?中所得国で修士、博士をとるのはどうでしょう。

荒木)修了後も現地の大学等に就職することを目指すのであれば良いかもしれませんが、あくまで研究対象としてそうした中所得国を扱うということであれば、やはり国際的に知名度・影響力が大きい大学に所属して研究しつつ、共同研究等で現地の大学と一緒にやる方がキャリア開拓という観点からは良いかもしれません。

山田)私の周りには、興味関心を大事にして大学院を選ぶ知り合いが多いです。Shadow Education(塾や家庭教師のこと)を研究するために、その研究がご専門のマーク・ブレイ教授のいる香港大学のFaculty of Educationに進学した知り合いがいます。また仏語圏アフリカの農業開発をやるために、フランスの大学院で農業の研究をした友人もいます。一方で研究レベルや留学生の受け入れ態勢を考えると、現時点では途上国の大学院はお勧めできません。フィリピンの大学院に進学した知り合いからは、タガログ語を習得するまで研究が開始できなかったようで、卒業時期が大幅に遅れたそうです。

畠山)修士と博士それぞれの選ぶポイントは、

・修士の先生は推薦状を書いてくれる人。
・博士の先生は共著を書くくらい人生を共にできる人。

例えば、私の場合、教育経済学&南アジア(ネパールに近い)で影響力のある先生がいる博士課程という理由で現在の大学院を選びました。

荒木)私自身は、修士を修了した後は博士に行く必要はないと考えていましたが、シンクタンクで働く中で社会構造的に大学教員の影響力が大きいのを実感しました。なので、(自分が目指す教育政策の在り方を実現したいなら)自らが大学教員になることも一案で、少なくともその前提として博士号が必要だと考え、進学することにしました。せっかく博士課程に進学するのであれば、日本だけでなく世界中から叡智が集まる場所で研鑽したいとの思いがあったので、日本で博士号をとる選択肢はありませんでした。

<研究テーマの選び方>

ーサルタックブログには、書類作成のTipsのような記事は多いですが、研究テーマや大学院の選び方に関する記事は少ないので、どのように研究テーマや大学院を選んできたかを聞きたいです。


荒木)学部の時から、途上国の教育開発に関する研究をやりたいと考えていました。特に関心があったのが、学部生時代(2005~2006年頃)に盛り上がっていたミレニアム開発目標(MDGs)の1つ「普遍的初等教育の達成」というテーマでした。

当時、初等教育のアクセスは世界中で急拡大していましたが、南アジア、特にネパールでは初等教育の普及率が相対的に芳しくなかったこともあり、どのような社会経済的要因が教育普及に影響を与えているのか、また教育普及が社会的にどのようなインパクトを有しているのかを明らかにしたいと考えていました。この研究を通じて、アカデミアだけでなくネパール社会に還元できるような知見を得られれば、との思いもありました。
そのために、ネパール統計局が公表していた群別データを集めて多変量解析をしました。また、1か月くらいネパールにも行って、定性的な調査もしたことを覚えています。

畠山)やはり、ある程度研究テーマを決めておく必要があると思います。例えば、ノンフォーマル教育をテーマにしたくても、それを分かる先生が大学にいないと、先行研究との絡みを議論できないからです。
途上国の文脈とは関係ないですが、(私の場合)父親が教員だったのですが、管理職と馬が合わず退職したことがきっかけで、教員マネジメントをどうやるべきかという問題意識が芽生えました。
学部の時、教員のマネジメントについてアメリカ・イギリス・日本を比較する授業を受けたのですが、それが面白かったことを覚えています。
お金のような外発的動機づけだと持続的でなくなるので、内発的動機づけが大事だと感じる一方で、やりがいだけに頼っていると教員の人数を確保できません。内発的動機づけだけでなく、外発的動機づけをどう組み合わせるかということを考えていましたね。
教育予算を一定とすると、「先生の給与額と人数はトレードオフ」の関係にあるのだけど、そのバランスをとりたいという考えです。
ネパールとの出会いは、たまたま先輩に連れていってもらったことがきっかけです。現地で「教員マネジメントをどうすればいいか」という風に考えました。
ですので、研究テーマを選ぶ際には次の3つのテーマを意識するといいと思います。
・学部の授業で面白いと感じたテーマ
・個人的な原体験から関心を持てるテーマ
・現地でできるテーマ

山田)もともと教育はお金で測られるもの以外のものにも貢献すべきだという考えが根底にあったので、途上国の文脈で教育と平和、教育と民主主義というテーマに興味を持っていました。
アフリカでの草の根の経験を通じて、アフリカでは政治参加の性質が欧米とは異なることを理解しました。欧米では個人を単位として、政治参加を考える傾向ですが、アフリカのそれは集団を単位としていました。ケニアのマサイ地域では、自律的な個人が投票行動を決定しているというよりは、コミュニティ内の合議によりコンセンサスを取った上で、投票していました。以上の経験から、途上国の文脈を考慮した上で教育と政治参加の関係性を探っていきたいと思うようになりました。


<大学院の選び方>

ーそれは、キャリアを考慮した上での選択だったのですか?
山田)修士課程進学の際にはキャリアのことはそこまで頭にありませんでした。学部時代は一般教養、3年次には交換留学でアメリカに行きましたが、専攻に選んだ途上国の教育について学びきれなかったという思いがありました。もう少し途上国の教育について学んでみたいと思っていた時に当時の指導教官に相談すると、イギリスの大学院に行ってみたら?と勧められました。キャリアから逆算して大学院(サセックス大学)を選んだわけではなかったのですが、途上国の教育分野で働くという強い意志は持って修士課程に進学しました。
ところで、畠山さんは修士で神戸大学に進学されましたがが、東大の学部から修士に内部進学するという選択肢はなかったのですか?神戸大学が定量に強いという理由が決め手の1つでしょうか?

畠山)東大に非常勤の授業で来てくださっていた早稲田の黒田先生に世銀に行くといいよ。と勧められていました。そこで、世銀のコネクションが強い神戸大学の小川先生を紹介されたので、神戸大学に進学を決めました。
私の場合、黒田先生を大変尊敬していて、「黒田先生みたいに途上国の子供達に貢献できる人間になりたいのですが」と尋ねたら、「世銀→ユニセフに行くといいよ。」という返答をいただいたので、将来のキャリアを考慮して大学院を選んだ形になります。

しかし、私の場合、(研究計画書に書いたテーマと進学後に扱ったテーマで)一致する点がほぼ何もないです。
指導教員側も、研究テーマは2年間の中で絶対に変わると分かっているので、研究計画書では研究の形が作れるかどうかを見られていると思います。
ポイントとしては次の2つです。

1.タイムフレーム
→野心的すぎるものは減点対象で2年間でできるようなもの
2.ロジカル思考
→論理的に文章を構成出来るか

【後編】へ続く>>

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーサルタック・シクシャとは、ネパール語で「有意義な教育」という意味です。 私たちは、世界中の全ての子どもたちが、人種や信条、性別、出身家庭等にかかわらず等しく「サルタック・シクシャ」を受けられる社会の構築を目指しています。

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