俺がプロデュースした店がわずか二ヶ月で跡形もなくなった

 こんにちは、不謹慎マンです。普段は北海道の大学で農業について勉強しながら、意味不明なバーを開店したりユーチューバーになったりして、ウケたりウケなかったりしています。今は計4店舗の飲食店を経営しています。12月にもう1店開業予定です。よろしくお願いします。

 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、弊グループメイン事業のカレーパンドラ、そのFC第一号店がオープン二ヶ月にて突然閉店しました。病歴を隠していた店長が躁転時にビールを目一杯仕入れ、資金繰りが危うくなり、鬱病が再発、告知もせず臨時休業が続いた後、断りなく閉店ツイート。いやまいった。さすがにまいった。商売をやっていると色々なことがある。もっと詳しい経緯や背景は、出資者兼ファウンダーのJackさんのNoteにまとめられています。⇨ https://note.mu/ryumasuzuki/n/n91878addf9e6

 Jackさんの文章からどのような教訓を読み取るのか? それは個々人に委ねられております。一方、私は騒動に最も近い位置にいた人間として、今回の失敗の構造を分解して、公開しておきます。恥に恥を重ねるようなものです。それでも、訓示として、自戒として、贖罪として、公開します。皆様に役立てて頂けば幸いです。
 
 
デューディリジェンスの欠如
 Due diligenceとは元来は投資用語で、「ある行為者の行為結果責任をその行為者が法的に負うべきか負うべきでないかを決定する際に、その行為者がその行為に先んじて払ってしかるべき正当な注意義務及び努力」を指す。リスクを洗い出すためには勤勉であれ、ということ。ホワイトカラーの皆様の仕事はほとんどこれと言っても良い。官僚制もファイナンスも法制度も、僕らが煩わしいと思うものの全ては、不確実性という化け物と戦うために人類が生み出した強力な武器だったわけだ。

 テナントの立地条件、市場調査、商品の選定(うちのカレーは美味い)など、ハード面についてのチェックは不謹慎マンの責任の下履行しており、竜馬さんもそれを喜んでくれたわけだが、ソフト面についての追求が甘かったことが今回最大の敗因である。ここには、僕らが店長の病歴にスポットを当てなかったことだけではなく、店長自身が自身の適性を正しく認識できていなかったことも含まれている。僕は「不謹慎マン」の看板を、竜馬さんはキャッシュを、店長は自分の人生を、それぞれが大切なものを賭けてこの事業は構成されているのであり、縦横の意識共有の場をもっと持てば、それらを通して気づきや洗練があったはずだ。そういったものを甘く見ていた。

 僕はといえば、直営のパンドラ本店・クリオネ・カサブランカについてはその経営判断の全てを各店長に一任しており、ほとんど口出しをすることがないし、そもそも助言を求められることも少ない。「判断は現場、責任は上」そんな金言にどこまで近づけているのか、わからないが、仮に本当に困ったり行き詰まった場合も、「相談する」というコマンドを自身の意思で判断できるならば、それは立派な商売人だ。裁量100%の仕事を営む過程で、生存と挑戦の弁証法的止揚を期待しており、この方程式の正当性は僕個人の経験としても、経営者同士の会合の中でも、痛感していた。鉄火場に裸一貫放り出された緊張感と危機感が人間を育てるに違いないと本気で信じていたし、新規開拓と試行錯誤と学習、その意思を忘れてしまうようでは、どんな事業も成り立たせることはできないと、今でも思う。
 一方で、そうしたマッチョイズムは誰にとっても素晴らしいもので、全ての人間に当てはまるものだと考えた結果が、パンドラ麻生だ。体力のない人間をサバンナに放り投げると死ぬ。今回の教訓だ。その単純さに反して、失ったものは大きい。


ガバナンスの欠陥
 Twitterでも折に触れていることだが、パンドラFCグループから僕は一円ももらっていない。系列店舗のフランチャイズフィーは全て本店店長のもりしーさんに行く。僕は本店開業のための出資こそしたものの、パンドラの看板自体は彼のものであり、自身の責任の下、雨の日も休まずカレーをお客様に提供し続け、荒野から事業を成長させたのは彼だ。FC加盟店はその姿を見て「俺/私もやってみたい」と声を上げてくれるわけで、その青い果実を横から掠め取るような真似はできなかった。

 パンドラの事業展開については、Yahoo!ニュースにも取り上げて頂いた。そもそもが、ガソリンスタンドとコールセンターしかない、手取りで20万円あれば奇跡のこの植民地北海道において、民間レベルのセーフティネットを拡充する一助になればいいと思って始めたことだ。フランチャイズフィーを直接徴収するのではなく、グループ店長が集まってきたとき、彼らの職能や地域ネットワークを活かす絵を描くことができればインターネット芸人冥利に尽きると考えていた。

 良かれと思って設計したこのファイナンスがパンドラ麻生閉店の一因でもある。「不謹慎マン」はパンドラ麻生のステークホルダーとしては弱かった。インターネット上におけるパンドラグループの扱いと、実際の金銭の流れには大きな乖離があり、店長の経営判断に強権を発動する立場になかった。いや、実はあったのかもしれないが、どうしてもその勇気が出なかった。
 商売をやっている人にはわかってもらえると思うが、経営者の判断とはとても尊いものだ。そもそも、何が利益を生むのか、なんてことは世界中の誰一人としてわかっていない。それを判断するのは、市場だ。すなわち神の意思だ。我々にできることは、神の御考えを汲もうと試み、そのために一歩一歩漸近するための努力だけだ。マーケティング理論も金融工学もデザイン基礎も新古典派経済学も、天国を地上に引き摺り下ろそうという途方も無い一大プロジェクトの一環に過ぎない。そんな資本主義という世界で、起業家本人が「イケる」と下した判断に反対し、説得する権利を持つ人間は実はそう多くない。事業の責任を担い、支払いの義務を負い、生活を担保にしているのは起業家だ。プレイヤーと出資者(一般企業であれば株主のこと)以外に、経営判断にとやかく言う資格はない(つい最近、勘違いしたニートが生意気な口を聞いてきたので珍しく声を荒げてしまった)。そんな原理主義に囚われ、店長と竜馬さんの調整機能やセーフティガードとしての役割を果たせなかったし、またそういう風にシステムを構築したのは他でもない僕で、今後は改変していく必要がある。
 
 加筆するなら、「うちのカレーを卸してくれたらあとは自由にやってくれていい」というパッケージにも問題があったように思う。完全な自由に耐えられる人間は実はそう多くない。奴隷が解放令を受け入れず、遣いや元領主を殺してしまった反乱の事例は歴史にいくらでもある。
 カレーのノウハウに限らす、サブ商品やポップを細かく指導し、キャッシュフローのマニュアルを作成し、定款で縛るべきだったのか? しかし、パンドラの看板や「しょぼい起業で生きていく」の理念を悪用して、ガチガチの集金システムが作りたいわけではないし、そんなただのカレー専業店では現代社会に疲れた人の希望にはなれないだろうという気がする。
 僕らが四苦八苦する一方で、大きく展開しているラーメン屋なんかは本当にすごいところもあって、イキの良いアルバイトがいれば開業を勧めて全力で絞りにいく。独立資金を有利子連帯保証人付きで貸し付け、仕入先を指定し(もちろんキックバックを本部は受け取る)、フランチャイズフィーも加盟料と月額費の二重取りだ。僕だったら自殺してしまうような労働環境を成立させる要素は、オーナーの人柄と司法書士の誠実な仕事と法治国家が持つ暴力機構だ。先人から学ぶことは多い。


聖典の不在
 制度の欠陥は、失敗が露呈し始めてから表出する。戦後のアメリカや高度経済成長期の日本、不動産バブルが弾けるまでの中国を見ればわかる。調子が良いときに政治は問題にならない。ということで、制度の失敗は実は撤退の直接の原因ではない。
 
 ガバナンスとファイナンスについての分析の終着点が、抽象論に帰着するのはなんとも情けない話だが、この後に及んで個人的な結論を隠しておくのも卑怯な気がする。結論はこうだ、「個人の圧倒的な熱量なしに事業は絶対に成功しない」。残酷なようだが、これ以外の答えは出なかった。誤解のないように明記すると、熱量とは「頑張る」や「いっぱい働く」なんていう、曖昧でナイーブな感傷とは真逆に位置する。自分の保有する限られたリソースを、如何に効率的に運用し、利益を最大化するか、無限に問い続ける体力のことだ。
 
 この共産主義大国日本で事業を興そう、なんて生き物はどこまでいってもマイノリティで落伍者に違いなく、そんな落ちこぼれが自分の食い扶持についても真摯たれないなら、一体どうやって周囲に価値を提供できるというのか。特に創業期はありとあらゆるリソースが足りない、地べたを這いずりまわってでも資産を活かし切る知恵。残飯でも食う、他人の靴でも舐めるという覚悟。ゆくゆくは経済基盤を確立し、余暇を充実させ、妻を娶り子を養っていこうとする気概。
 自らを歴史と社会の視座の中に置いて、その責務を果たしていこうとする意思だけが、俺たちの精神を保ってくれているのかもしれない。パンドラ麻生の店長にはスキルもノウハウも経験も、全てがあった。ただ、意志だけがなかった。それに気づいたのは、彼が店を閉めたいと言い出した日のことだった。


 
 以上が今回の事の顛末で、どのようなメッセージを受け取るかはみなさんの自由です。苦い思い出になった。

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青年実業家twitter @sarasaretaro
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