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ミキシングについて(あと新作"DOT"の紹介)

音楽を日々作っていて、最後の仕上げにミックス作業というのが欠かせない。

ミキシングすることそのものは結構好きなので苦痛に感じることはあまりないが、作品をどんどん仕上げていきたいという面から考えるとミックスを誰かにやってほしいと思う部分は少なくはないが、これも予算的な面で実現性は低い。

また、自分の仕上がりのイメージを試行錯誤して実際に音にしていく作業は結構繰り返しの修練が必要で、結局そのイメージを持っているのは自分しかいないのだから、自分でやるというのが最高の方法なのかもしれない。だけど、2チャンネルの録音物を作る時に、原則は極めてシンプルだから、レコーディングされた音源がある時点である程度ミキシングは誰が手掛けても方向性としては一つの方向に向かって行くものでもあるかもしれない。(創作的ミキシングはここでは考えない)

ミキシングで仕上がる音を入れ物に例えると、入れ物の大きさというのはほとんどの場合かならず一定だ。必要以上に詰め込んでも聴こえない、聴きとることができない、音同士が打ち消しあったり、聴きにくくなったりする。ミキシング段階でどうしても相いれない2つの音(トラック)があった場合はどちらか一つをオミットすることすらある。

突き詰めていくと極めてシンプルな原理をふまえつつその入れ物に一つ一つ音を梱包していく作業がミキシングなのだろう。

と、ここで直近2新作を紹介。ミニマル寄りのテクノトラックを収めたEP。本作を作る直前までやっていたトラックがアルバム一枚分あるのだが、もう少し時間かかりそうなのでいったん手を休めて"DOT EP"をリリースすることにした。

アルバムの制作というのは結構時間がかかる。曲数も多いし、通しで聴いてチェックするのにもしっかり聴くと1時間を要したりもする。3曲マスタリングするのと10曲マスタリングするのでは要する集中力と時間もおのずと変わってくる。ミキシングが終わったと思っていても、マスタリング段階でどうしても気になる箇所が複数出てきて、ミックスに戻ってまたマスタリングをやり直すということも多々ある。EPは作業が進んでいるのを感じやすいが、アルバムは曲数が多いので、全然進んでおらず、一体いつになったら完成するのかと思わせられるものだ。

とはいえ、実は音楽的にやりたいことはアルバム単位でやりたいのだ。

頭の中にあるサウンドのイメージは無数にあるけれども、それをとらえることができれば曲ができる。一つのアルバムに収録するためには何か一つ統一されたテクスチュアを持っていないといけないと思うのだが、アルバムのセッションでその一つのとあるテクスチュアをイメージしながら曲を作っていくのがとても好きだ(自分の曲はサウンド指向性が強いので当然そうか)。これは人によっては制作時は全く意識せずに、ミックスやマスタリングで初めて統一感を意識するという人もいるだろう。

次のアルバム作品のイメージとしてはミニマルでありつつも同時に混沌とした、ユニークなサウンド。静と動が同時に存在するような不思議な音。色合いとしては若干モノトーンに近い感じがしている。仕上げながらイメージが変わってくる可能性はありますが、何とか2月中にできればいいなと考えて日々制作している。

ここでふたたびミキシングの話に戻ります。ミキシングのツールであるプラグインなどをよく見聴きして、たまには買ったりする。最近購入したプラグインがNx Ocean Way Nashvilleというもの。Wavesが以前からリリースしていたスタジオ音場を再現したもので、今回はNashvilleのスタジオを再現したという。前作はAbbey Road Studioを再現したものだった。

何となくお遊びツール的なイメージがあったのでさほどに期待して買ったわけではないのだが、実際使ってみてとても良いと感じている。ミキシング時に環境的に必然ヘッドホンでやることが多いのだが、そうすると、例えば完全に右にパンを振り切った音などはヘッドホンでは右からしか聴こえてこない。しかし、スピーカーでは右から出ている音は左耳でも聴くことになる。クロストークが発生するのだが、このプラグインはそれを(当然ながら)再現してくれている。

リスニング環境においてヘッドホンというのはかなり特殊な環境であると言うことができる。もちろんヘッドホンやイヤホンで聴かれるケースもある(現代ではそちらの方が多いか?)のだから、その双方を想定したミキシングになっていなければならない。

このプラグインのもう一ついい部分がスタジオのモニターのニア・ミッド・ファーの3種を切り替えてモニターできる部分だ。ニアはヘッドホンで聴いている音に近く、ファーは指向性の少ない低周波数の音がより大きく、指向性のある高周波数成分は減衰して聴こえる。また、モニターから自分のポジションに届く音の立ち上がりも遅くなっており、なるほど大きなスピーカーで少し距離を置いて聞いたらこんな感じになるだろうというのが素晴らしくシミュレートしてある。

そしてこれは、再現性の良さを楽しんでいるわけではなくて、実際リスニング環境が変わることによって、ヘッドホンでは十分聴こえていた音も、全く聴こえなくなる、というケースが多々あるので、異なる環境がシミュレート上とはいえ複数確認できるというのは本当に助かるのだ。最終的に自分はDAW内部で仕上げた音を外部へ持ち出し、複数の異なる環境で聴いて最終的にOKとするようにしている。

このように、たかが音、とは言っても結構手間暇かかるものなのだ。他にも、聴覚上の音圧を上げるのか、ダイナミクスを重視するのか、こう聴いてほしいと願いつつ考えることはとても多い。自分は作っている音楽(Techno)にしては音楽的なダイナミクスを重視する音作りをしていると思います。ビート音楽なんて本来バキバキでいいんでしょうけど。なのでSappow作品を聴かれる方はいつもよりも少しボリューム大きめで再生してください(笑)

アウトプットされた音は自分なりにこだわって作られたものだというのを知って頂けたら嬉しいと思って本稿を書いてみました。

Sappow

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