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高校一人一台端末、最後の大チャンス?

あけましておめでとうございます。
 
昨年2021年は、GIGA元年ということで小・中学校では一人一台端末での様々な教育実践が生まれた一年でした。各地でのトライ&エラーはその短期的な成否に関わらず、中長期的には日本の教育のアップデートに大きく寄与したと思います。関係者の皆様、本当におつかれさまでした。
(2021年振り返り&2022年大予想については、こちらのウェビナーで昨年12/27でお話させていただきました。このへんの話はまた別の回にでも)

年末に出た文科省異例の通知

さて、タイトルに関して、年末にすごいニュースが入ってきました。
2021年12月27日付で、高校一人一台端末整備(俗称:高校GIGA)に関連して、文科省から「GIGA スクール構想における高等学校の学習者用コンピュータ端末 の整備の促進について」という題した通知が出されました。

https://www.mext.go.jp/content/20211228-mxt_shuukyo01-000011648_001.pdf

これまで高校での一人一台端末の整備については、各都道府県に任せるスタンスをとってきた文科省。その路線を変更するかのような、かなり強い意思を感じる通知でした。一部を抜粋すると、

令和3年 12 月 24 日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点 計画」では、「高等学校段階の1人1台端末については、新型コロナウイルス 感染症対応地方創生臨時交付金の活用も含め、各都道府県における整備状況を 国としてフォローアップし、必要な取組を促す」とされたところです。
また、高等学校については、令和4年度入学生から、新学習指導要領が年次 進行で実施されます。新学習指導要領においては、情報活用能力を学習の基盤 となる資質・能力の一つとして位置付けるとともに、情報科における共通必履 修科目「情報Ⅰ」においても、全ての生徒がプログラミング、情報セキュリテ ィを含むネットワーク、データベースの基礎等について学習を開始することとなっております。
これらを踏まえても、高等学校段階においても1人1台の学習者用コンピュ ータ端末(以下単に「端末」という。)環境を早急に整備することが必要です。

3文科初第 1747 号
令和3年 12 月 27 日
GIGA スクール構想における高等学校の学習者用コンピュータ端末の整備の促進について(通知)

ということで、テキストコーディングを伴うプログラミングや統計・データサイエンスについての学習が必須になる「情報Ⅰ」についても触れつつ、高校一人一台端末の整備は早急かつ必須であるというメッセージになっています。また、他の箇所では「義務教育段階で学んだ児童 生徒が高等学校に進学しても切れ目なく同様の環境で学ぶことができる」ことも強調されています。さらに、注目すべき点として、

このほか、文部科学省では、各都道府県等における公立高等学校の端末の整 備方針や令和4年度当初の整備見込み等について調査を実施しているところであり、その調査結果については、今後公表する予定であることを御承知おき願います。

3文科初第 1747 号
令和3年 12 月 27 日
GIGA スクール構想における高等学校の学習者用コンピュータ端末の整備の促進について(通知)

ということで、各都道府県の整備状況については、調査し公表することを明示しています。都道府県間の格差が明示されてしまうということですから、各都道府県の責任者・担当者にとっては冷や汗ものの通知です(なお引用部分の太字箇所は、通知でも下線で強調されています)。

「今回の臨時交付金を使って高校一人一台端末を必ず実現してほしい」という文科省の強い意思を感じる通知です。

高校GIGAをめぐる不都合な事実

さて、上記の通知の背景にある「高校GIGAをめぐる不都合な事実」についてもまとめておきます。

①都道府県間の大きな整備格差

さて、この高校GIGAなんで急に論点になったかというと、一番大きな変化は、2020年から小・中学校が「GIGAスクール構想」でパソコンが一人一台整備され、学校内のネット状況も一気に改善されたことです。冒頭にも書きましたが、2021年は小・中学校でのパソコン利活用は大躍進を遂げています。
一方、高校は各都道府県で大きな格差があるのが実情です。
文科省が昨年8月時点の調査結果を示している以下のグラフをご覧ください。令和3年度末までに生徒数に対し100%端末(PC・タブレット)を公費で整備する見込みの都道府県が18(既に90%近い岩手県も含む)ある一方で、それ以外の都道府県の多くは20〜60%程度の整備に留まっています。
これは小・中のような一人一台端末にはせず、これまで通りパソコンルームの利用、あるいは学校貸与の端末は生徒数に対して1/3程度しか準備しないという方針の表れです。
なお、一部の都道府県はBYOD(保護者負担でPC持参を必須とする)で一人一台を実現するとしたところもあります。

文科省 学校教育情報化推進専門家会議 (第1回)令和3年9月9日 資料2 より

②BYOD方針の都道府県の中には「スマホOK」が混ざっている

んで、一番注意しなきゃいけない点はここです。
「整備遅れている都道府県もBYODの方針なら大丈夫なんじゃない?」
と考えていた時が私にもありました。
しかし、MM総研さんの2021年3月時点での調査では、6都道府県が一人一台端末として「私物スマホの利用を検討」(=パソコンの整備や持ち込みを必須としない)と回答しています。

MM総研 「高校版GIGAスクール構想における端末配備状況と活用意向」(2021年3月末時点)

これ、本当に大問題です。小・中学校で一人一台PCで学びを深めてきた子どもたちが、高校ではスマホ利用を強制されるってことですから、唖然です。
実際に、パソコンルームを利用できない時間帯には、スマホでICT活用をしなければならない事態が常態化するわけです。
AIドリルで学ぶことも、wordやDocsに文章まとめることも、パワポやGoogle Slideにプレゼンまとめることも、エクセルやSpreadsheetで数値分析することも、果てはプログラミングまで、全部スマホでするって、すごいことを生徒に強いているなと驚嘆します。少なくとも適切なICT環境でないことだけは明らかです。

③「情報Ⅰ」の大学入試への採択で「進路可能性格差」の危険が

最後に、文科省の通知にもあった、新学習指導要領でスタートする情報科における共通必履修科目「情報Ⅰ」に関するお話。ここだけでブログ数回書ける話題なので、今回はすごく端的にまとめると、

  • 高校で2022年度(令和4年度)より必修化される「情報Ⅰ」では、プログラミングやデータサイエンスが必修となり、内容が一気に高度化。

  • 2024年度から「情報Ⅰ」は共通テストに入り、大学入試で必須に。国立大学も文系学部含めて必須とする可能性が非常に高まっている。

  • 大学進学にあたっての「進路可能性格差」が生まれる可能性が高い。

  • 大学進学のためには「情報Ⅰ」を全員が学べる環境保障が必須に。

  • スマホでは、プログラミングやデータサイエンスは十分学べない。

  • 端末整備と同時に「情報Ⅰ」実施にあたっては、ソフト(教材や人)の準備も必須。

要は「高校でPCが使えなくて「情報Ⅰ」をまともに学べないと、大学を受けられなくなる時代が3年後には来る」という話です。
これを私は「2025年 情報入試問題」と呼んでいるのですが、その問題に対応する新しい情報の授業の開始はなんと今年2022年の4月からです。
31の都道府県はまだ一人一台整備されてなく、6都道府県はスマホで押し切ろうとしている中でですよ。まじでやばいですよね・・・。

【参考ニュース】

ラストチャンスは1/31?

この危うい状況をふまえ、文科省がモード変え、先の通知を出しました。
最後の判断は地方分権の鉄則の中で都道府県側にあるものの、高校一人一台端末整備は徹底して推し進めなければならないという姿勢を明示。
今回の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を活用してほしいことも明示されています。実際、オミクロン株の世界的な流行、今後の新型株の再流行の可能性なども考えれば、高校生でも一人一台端末を所持し、自宅学習もできる状態を作る意味は十分あります。

ただ、この交付金申請の〆切、1月31日なんですよね。ここに乗り遅れるとろ色々と大問題となるので、年明け急ピッチで各都道府県では意思決定と交付金申請をする必要があります。年明けから大変だとは思うのですが、各都道府県の責任者・担当者の皆さんは踏ん張りどころということで、がんばってもらいところです。

参考:各種情報まとめ

■文科省からの通知 

まず、文科省の通知のソースはこちらです。通知内容を公開していることもGoodですよね。

(掲載ページ)
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm

(通知PDF)
https://www.mext.go.jp/content/20211228-mxt_shuukyo01-000011648_001.pdf

■内閣府からの通知

今回、該当する交付金はこちらの「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」。内閣府・内閣官房が管轄しています。

(掲載ページ)
https://www.chisou.go.jp/tiiki/rinjikoufukin/index.html

(通知PDF)
https://www.chisou.go.jp/tiiki/rinjikoufukin/pdf/211227_jimurenraku.pdf

(活用可能な事業例)
https://www.chisou.go.jp/tiiki/rinjikoufukin/pdf/20211227_jigyou.pdf

この活用可能な事業例の中の「新たな時代に相応しい教育の実現」に端末配備は該当します。また、端末だけでなく、ネット整備やEdTechにも活用できることも書いてあります。本当は端末整備だけでなく、その先の有効な活用の準備もこの機会にセットで考えてもらえたら嬉しいですね。
ちなみに、交付金の活用推奨は今回初めて出た話ではないので、すでに整備済の都道府県にとっては、新しい話ではないという見方もあります。

新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の活用が可能な事業(例)より

実務担当の方向けのまとめ

最後に実務関係者の方向けの簡単なまとめです。

  • 臨時交付金で高校一人一台端末の整備をするよう文科省が昨年12/27付で各都道府県宛に通知を送った。

  • 令和3年補正の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」が該当する。

  • 活用可能例によると、端末以外にネット整備やEdTechにも活用可能。

  • 臨時交付金の申請〆切は1/31(内閣府通知のP.13)。

  • これが高校GIGAのラストチャンスかもしれず、ここを逃すと「情報Ⅰ」の入試対応などで、他都道府県に大きくビハインドしてしまう。

最後に、なぜ高校一人一台端末は必要なのか。今回は子どもたちの学習面や進路面から必要性を書きましたが、子どもたちのICT環境がPC・タブレットで統一されることで、広くクラウドサービスを利用できるようになり、結果として、先生の教務・校務の負担が軽減されることも大きなインパクトです。ICT環境の整備なしに、働き方改革は実現できません。子どもたちの端末整備と同時に、教職員のICT環境もこの機会にアップデートされることも忘れてはならない観点です。

今回の文科省の通知・内閣府の臨時交付金が、日本の教育をアップデートする上で良い効力を発揮することを祈っていますm(_ _)m



おまけ:最後に少し会社紹介をm(_ _)m

私が勤めるライフイズテックでは高校「情報Ⅰ」の支援のために全国の学校・教委の皆さん向けに「ライフイズテックレッスン」というサービスを提供しています。端末整備はできたけど、教材や先生のサポートが課題だという時は、ぜひ気軽にお声がけください。
また、教育のこの大きな変革期に関わりたいという方の採用も本気で推進しています。学校・教委任せではなく、しっかり先生や子どもたちを支えていく仕事にご興味ある方もぜひ!


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