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酒好きで甘党の「おやつマニア」ライターが嬉々として通う、飲めるケーキ屋さん

ライター 信藤舞子

【有料記事として配信予定でしたが、無料にて公開中です】
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お目当てはケーキとお酒のペアリング

まずは自己紹介を。3度の飯より甘いものが好き。月刊『散歩の達人』の巻末連載「おやつマニア」でライターをしている2人のうちの1人、信藤と申します。

早速ですが、私が「いい店知ってるね」と言われたお店は、足立区の北千住にある。昼はテイクアウト専門の『ノミヤ洋菓子店』、夜はケーキとお酒のペアリングを楽しめる『五席酒場ノミヤ』と時間帯を分けて2角顔を持つ。そう、ここは酒好きの甘党にとって楽園! 店主の川﨑雅代さんは、パティシエと女将の一人二役をこなす。

元を辿ると、私は川﨑さんが以前パティシエを務めていたカフェの常連だった。料理もよかったけれど、なかでもテンションが上がったのはケーキを食べる瞬間。お酒の種類も充実していたので、私はその日の気分で食べたいケーキを選び、「これに合うお酒をおまかせで」とオーダーしていた。

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そんな無茶振りに、毎度喜びのあまりハイタッチをしたくなるような回答をくれた彼女が、2018年、満を持して独立。付いていかないなんて選択肢は、ない。諸手を挙げて付いていった。

まずは、こんな組み合わせがおすすめ

ひと昔前、酒好きの甘党がやや肩身の狭い思いをした時代があった。近頃はスイーツとお酒のペアリングを売りにするところも増えましたが、当時は「締めのデザートならまだしも、一緒に注文するなんて、そんな飲み方は邪道だ」と叱られることも少なくなかった気が。

まあ確かに、砂糖の甘みを強調しすぎるとお酒の風味や香りを損ねるかも。でも、彼女の作るケーキは、砂糖に頼りすぎていないのがいい

甘さ控えめ、と言えなくもないけれど、薄味ケーキの物足りなさとは全く別。素材の味がすこぶる生かされているため、甘み、旨味など、むしろしっかりした味です

例えば、イチゴをスライスせずに、まるっとゴロッと使うショートケーキは、口の中で果汁がほとばしり、ジュワッと広がる酸味が白ワインと相性抜群! シュークリームなんて、ふわっと柔らかいクリームの、卵の素朴な風味や、サクッとしてほんのり香ばしい生地が、じゃがいも焼酎「北海道 清里」にぴったりなのです。

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お店の代名詞とも言えるカヌレには、奥深い甘みと複雑な香味が特長のダークラム「パンペロ・アニバサリオ」が合う。「香りも一緒に楽しんで下さい」と、ワイングラスに注いでくれます。

最初のひとくち目は、なかなかに強いパンチを喰らいますが、アルコールにカッとなった舌が、ガリッとカヌレを齧るとアラ不思議。次第にまろやかな甘みを帯びてくるじゃないですか。ああ! 甘みがもたらすエンドルフィンと、アルコールによる酔いで、食べ進めるうちに増幅する多幸感が半端じゃない。

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『ノミヤ洋菓子店』は、15時オープン。夕方17時になるとバータイムに切り替わり、22時まで『五席酒場ノミヤ』になります(土・日は15時〜バー利用可能。席のチャージ500円)。私はしょっぱい系のおつまみを挟みつつ、ケーキとお酒を品を変えつつおかわりし、複数のペアリングを堪能するので長尻になりがち。とはいえ、店名に偽りなく五席しかないので、混んできたら譲り合いの精神が大切です。

国産苺のショートケーキは550円。シュークリームは300円。カヌレはプレーン220円〜。お酒はだいたい500〜600円で、ものによってはボトルキープもできます。今はいろいろ試すのが楽しい私も、いつか特定のお気に入りができたら、一端の酒飲みのようにボトルキープしてみたいな。

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玄人の酒飲みが集う北千住のオアシス

さて、北千住といえば酒飲みの街。特に駅周辺は、線路の東側にも西側にも、リーズナブルでキャラの濃い飲み屋が軒を連ねている。東京の西側に住む私には、反対側の北東にあるこの街は決して近いとは言えず、大抵は『ノミヤ』目当てに千代田線で足を伸ばし、北千住駅から直行する。けれども、この街を根城にする玄人の酒飲みには、行きつけが何軒かあり、順繰り回遊するらしい。

その回遊ルートに『ノミヤ』を組み込む人も多く、お客同士が「さっき別の店で会ったね」なんて喋りだす場面も珍しくない。そんな人たちにとって、ここはホッとできる止り木のような役割も果たしているように見える。

「駅前に『ごっつり』という立ち飲み屋さんがあるんですけど。うちが開店したばかりの頃、そこの常連さんがふらっと寄ってくれたことがあります」と川﨑さん。
その人が別の日、『ごっつり』で会った人に「こんな店ができたよ」と教え、今度は教えられた人が来店し、また別の人に教える。そうやってお客がお客を呼び、「今では毎日来る人もいらっしゃいます」。

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ここを止り木にする酒飲みにとって、川﨑さんとのおしゃべりは癒やし。いつ来てもにこにこ笑顔で迎えてくれますが、「マナーが守れないほど悪酔いしている人は、入れません」ときっぱり。この、安心してくつろげる空間は、いい意味で“お店がお客を選ぶ北千住イズム”があってこそ守られるのね。

「野味屋」から「ノミヤ」へ

ちなみに、店名はここがかつて『千住 野味屋』という名の居酒屋だったことに由来する。

そこの娘さんが、川﨑さんの先輩だったそう。ある日、「両親がそろそろ引退を考えている。店を閉めることになったので、そこで何か始めてはどうだろう?」と提案を受けた。この場所を引き継ぐことを決めた川﨑さんは、「以前の常連さんが寂しい思いをしないように」と店名を残すことに。

だから、「ノミヤ」と声に出して読む時、アクセントは「ノ」ではなく「ミ」に付く。お酒も充実させ、甘いものが苦手な人も困らないようにおつまみを用意した。

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バータイムにもケーキのテイクアウトは可能で、家族がいる人なんかは、自分だけいい感じに酔っ払ったお詫びに手みやげを買っていくとか。

カヌレは、他のケーキより多少日持ちするし、翌日のおやつにするという手もある。私の場合、自宅には残念ながら「パンペロ・アニバサリオ」はないので、コーヒーやサイダーを合わせるのが好き。前日の記憶を反芻しながら、それとはまた違った味わいを堪能し、幸せに浸るひととき。“家に帰るまでが遠足”ならぬ、“翌日のカヌレを食べ終えるまでがノミヤ”なのだ。

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カヌレを購入すると、専用スタンプを押した箱に入れてもらえるのもうれしい。

ケーキ屋さんとして普段使いするのも、ケーキとお酒のペアリングにハマるのも、梯子酒の締めスイーツにもうってつけ。五席しかないこぢんまりしたお店なのに、その懐はとても深く、これまで結構いろんな人に推薦した。

「いい店あるよ」と言いふらしたい

好きすぎて、頼まれてもいないのに「いい店あるよ」と言いふらす私。

そして、そんな私に「いい店知っているね」と言った人たち。

冒頭に記した「おやつマニア」の編集者。このコーナーで私は和菓子担当なのだけれど、それでも黙っていられず「最高のお店、あります」と伝えた。すると、「行ってきました!」と連絡が。後日、同コーナーのシュークリームの回でも取り上げられ、私は自宅で記事を読みながら小躍りしたのでした。

あと、酒好きの隠れ甘党たち。

さらに、甘いものとお酒を一緒に楽しむ行為を邪道とみなす硬派な酒飲みたち。半信半疑の彼ら、彼女らには「騙されたと思って行ってみて」とプッシュした。控えめに(内心、猛烈に)。後日、「思っていたのと違った。よかった」との声も頂戴し、ほらね! と一人ほくそ笑んだのでした。

なんだか、原稿を書いているうち、舌にあの味が蘇ってきた。またすぐ再訪したいわ。

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撮影/オカダタカオ



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