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このアルバムには物語がある 過小評価されてる最高な邦楽アルバム10選 1/10

何時もの通りTwitterを徘徊していたらこの様なハッシュタグを発見した。

#過小評価されてると思う私的に最高な邦楽アルバム10選

なるほど、面白そうだ。音楽を愛する者としてもぜひやってみたい、ということで第一回である。

第一回に取り上げるのは私のnoteをご覧になっている方々にはお馴染みのロックバンド『エレファントカシマシ』のアルバムから選出した。そのアルバムは2010年11月17日にリリースされた20th『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』である。

傑作邦楽アルバムランキングには必ずといって良いほど入る3thの『浮世の夢』にはアルバムとしての確かなまとまりがあった。一人の浮世を儚む青年が諦念の境地まで達するという凡そ20前半の男が創ったとは思えないこの世の真理をついたアルバムである。私もよく聴くのである。

『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』は確かにオリコンチャート8位ではあるもののその価値を正当に評価されていないと私は感ずる訳である(事実、2020年10月11日現在3thの『浮世の夢』と20th『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』だけ廃盤である)。何故であろうか。私は甚だ悲しくなる。

さて前説はこの辺りにしておく。ようやく本題である。これを読んで私の好きなアルバム『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』があたなの宝物になってくれたら大変に嬉しい。

収録曲は以下の通り。

1.moonlight magic (4:03)
(作詞・作曲:宮本浩次 編曲:宮本浩次・蔦谷好位置)
2.脱コミュニケーション (3:26)
(作詞・作曲・編曲:宮本浩次)
3.明日への記憶 (6:17)
(作詞・作曲:宮本浩次 編曲:エレファントカシマシ・蔦谷好位置 弦編曲:蔦谷好位置)
4.九月の雨 (4:32)
(作詞・作曲・編曲:宮本浩次)
5.旅 (3:33)
(作詞・作曲:宮本浩次 編曲:エレファントカシマシ・蔦谷好位置)
6.彼女は買い物の帰り道 (4:14)
(作詞・作曲:宮本浩次 編曲:エレファントカシマシ・蔦谷好位置 弦編曲:蔦谷好位置・宮本浩次)
7.歩く男 (5:11)
(作詞・作曲・編曲:宮本浩次) シングル「明日への記憶」のカップリング曲。
8.いつか見た夢を (4:03)
(作詞・作曲:宮本浩次 編曲:エレファントカシマシ・蔦谷好位置)
9.赤き空よ! (5:04)
(作詞・作曲:宮本浩次 編曲:宮本浩次・蔦谷好位置) シングル「幸せよ、この指にとまれ」のカップリング曲。                     
10.夜の道 (3:45)
(作詞・作曲:宮本浩次)
11.幸せよ、この指にとまれ (4:38)
(作詞:宮本浩次 作曲・編曲:宮本浩次・蔦谷好位置)
12.朝 (0:39)
宮本、石森、エンジニアの中原正幸、蔦谷の4人によるインタールード。次曲と繋がっている。                                                                                                             
13.悪魔メフィスト (3:08)
(作詞・作曲・編曲:宮本浩次)

宮本浩次が生み出す楽曲はいずれも優れているがこのアルバムに関して言えば3th同様、確かなるまとまりと物語性がある。情景が豊かに浮かび心情がまるで己自身のことであるかの様にマッチする。私はそこを大いに評価して気に入っているのである。一冊の本を読み終えた様な、或いは一本の映画を観終えた様な感慨があるのだ。

アルバムのオープニングナンバーを飾るのは疾走感あふれる『moonlight magic』である。ポップでいながらも力強い、エレファントカシマシの世界に一気に引き摺り込まれる素晴らしいナンバーである。

雲の切れ間に 青い月の光 明日は晴れるだろう

この転調が特に素晴らしい。さり気なく豊かな風景描写である。この歌詞は歌詞はアルバム全体を覆う様なムードで満ちている様な気がする。空は曇るがいずれ月の光が差す。そして明日は多分晴れる。この”多分”という不確実さがまた人の生活のリアリティを醸し出している。

続いてゴリゴリのハードロックサウンド『脱コミュニケーション』である。メンバーの演奏も素晴らしい。これぞ正しくTHE ROCK BANDという感じである。歌詞も良い。

心に全てをあつめ 今が俺の始まり

『パワー・イン・ザ・ワールド』にして『はじまりは今』である。エレファントカシマシのどこまで行っても際限もなく戦いを追い求める姿勢に痺れるのである。

『明日への記憶』はこのアルバムの中で最も演奏時間が長い曲である。バンドサウンドだけではなくストリングスまで入っている豪華な楽曲である。宮本の力強い歌唱と何処かセンチメンタルな歌詞が涙を誘う。エレファントカシマシ過去との対峙、そして未来へ、である。

全てがココにあり それ以上でも以下でもないのさ 明日への記憶刻んでは 再び 行くのさ!

この楽曲にはMVが存在する。そちらも是非。

『九月の雨』は今までのエレファントカシマシにはないサウンドの楽曲である。演歌の様にも昭和初期の流行かの様にも聴こえる。"九月”という限定的な情報を我々に提示することによってこの曲およびこのアルバムが持つある種の季節感を感じることができるのである。

次いで『旅』。再び『九月の雨』とは真逆のサウンドである。曲の開始から凄まじいスタートダッシュである。

俺の心に火を灯す 熱い思い探す旅路さ 旅に出るのさ 俺の心を照らしてよ

歌詞、音と双方が力強い。ロックでありながら『脱コミュニケーション』とは違うもっとオルタナティブなサウンドである。

さて『彼女は買い物の帰り道』である。この曲は結論から言うと大名曲である。そして是非ともエレファントカシマシの代表曲として世間から認知されて欲しい楽曲でもある。従来のエレファントカシマシが持つ男らしさ、荒々しさを良い意味で裏切る楽曲である。女性目線で非常に優しい歌。心情描写と風景描写が巧みに編まれた詩は優しくも力強いサウンドと相まってすんなりと耳に入ってくる。何気なく歌っている様に聴こえるが実際に歌ってみるとその音域の高さに吃驚するのである。女性が見ている風景、そして思っている過去を鮮やかに思い浮かべることができる。この曲は宮本の歌唱力の凄まじさを体験することもできる。「愛してる」という言葉がこんなにすんなり耳に馴染む楽曲もそうはない。こちらもすばらしいMVがある。是非見て欲しい。

エレファンカシマシではお馴染みの男シリーズ。その名も『歩く男』。随分と直截的なタイトルであるがこれ以上にないほど歌の内容を表している。『歩く男』何も飾り気のないこの題名は等身大の宮本浩次が描かれているのである。

夕暮れってヤツは美しい 何とか歌にしたいもんだな

この歌に現れている宮本浩次はやはり何処となく孤独で哀愁を帯びている。しかしながら懸命に幸福を求め流離っている姿が見えるのだ。『定め』では随分と絶望感溢れていた男であるが『歩く男』で身の回りの美しさを改めて認めている。バックボーカルが泣ける。

『いつか見た夢を』はポップ全開の楽曲である。エレファントカシマシ流ポップソングとはかくの如きものだ!と突きつけている様な楽曲である。

風に聞け 空に聞け 行く先は自由

この部分の転調が最高に格好良い。そしてまた詩的である。

『赤き空よ!』開けた大地が思い浮かぶ。夕暮れの。宮本の力強く伸びやかな歌声を聴くには絶品の曲である。

行き交う車のヘッドライト ふと見上げれば空には星が古くて新しい明日を運んできたぜ

こちらもMVが存在する。

エレキギターでの弾き語り『夜の道』はエレカシお馴染みの散歩曲である。宮元の優しい歌声が泣ける。風景描写も巧みで街頭が灯る街をゆっくりと歩いている姿が心の目に映る。

このアルバムの最後を締めくくっていてもおかしくはないナンバー『幸せよ、この指に止まれ』はユニバーサル期のエレファントカシマシの要素を多分に含んだポップな曲である。

あの雨の交差点 信号が点滅してたなんて 嘘さ

この歌詞が素晴らしい。

こちらもMVがある。

さてこのアルバムは最後の最後でどんでん返しが待っている。『朝』では鳥の声が聞こえる。そして増殖し雷鳴轟く。そのまま本アルバムの目玉曲『悪魔メフィスト』につながる訳である。プログレッシブ!このアルバムで培ってきたある種のムードをちゃぶ台返しする様な激しいパンクロックナンバーである。その力強さは聴衆との決別を突き付けた『男は行く』やあらゆる人間を突き放した『待つ男』に匹敵する。日常にありふれたオブジェクトを羅列しているのことでリアリティを感じつつ凡そ現実離れした悪魔メフィストを求めるこの相反が我々にエレファントカシマシを聴いていることを意識されるのである。

こちらも格好良いMVがある。タバコを吸う宮本は今では貴重である。

さてここまで楽曲の聞きどころやらを紹介してきた。このアルバムが最も優れているところは最初にも書いたが統一感である。『浮世の夢』の様に一人の男を主人公にしてわけではないがこのアルバムではそれぞれの主人公がそれぞれの生活を送っていることがわかる。それぞれが住う街で煩悶しながらも現実と対峙するその生き様が描かれているのである。

このアルバムはエレカシの中で一体何に似ているか考えてみた。EPICソニー期最後のアルバム『東京の空』であると結論した。特に時間帯である。このアルバムには朝方を舞台にしている曲はないと思う。どちらかと言うと夕方から夜にかけての時間帯を舞台にした曲が多い。更に過去のエレファントカシマシとの見事なまでの融合も類似している点である。各楽曲にさりげなく風景や季節の情報を散りばめることがこのアルバムの統一感を高めている要素でもある。

アルバムを一枚通して聴くと言う点では『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』が最も優れていると私は思う。是非ともユニバーサルさんは再販を考えて欲しい。

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