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”引き算の美学”と”アップルの哲学”

 アップル大学に関する、こんな記事を読んで唸った。

 ”引き算の美学を教える「アップル大学」”

 http://gqjapan.jp/more/business/20140904/apple-university

 スティーブ・ジョブズが作らせたアップルの社内研修プログラムでは「不必要なことを徹底的に削ぎ落とす」ということを教えるらしい。

 「削る」という哲学、「引き算の美学」。なるほどアップル製品らしい考え方だと思う。

 その昔、ボクが大学生だったときには、windowsが3.1で登場したばかりで、同じ頃アップルのマッキントッシュは既にGUIを完成させていた。もっとも印象的だったのは、Windows機のマウスは2ボタンなのに、Macのマウスはボタンがたったひとつしかないことだった。

 「いったいこれで、どうやって操作するのだろう?」

と不思議に思ったが、Macのユーザーフェイスは、実際に画面をいじってみると全く1ボタンでも問題がなかったことを覚えている。

 まさに、「必要ないものを削ぎ落とす」というのはアップルの哲学だったように思う。

 残念ながら、コンピュータに関しては私は根っからのDOS育ちで、Macの中身をいじらせてくれないスタンスが性に合わなかったのでWindowsユーザになってしまったが、その後Palm(なつかしい!)を使ったり、現在もiphoneユーザでもあるように、アップルの理念に同意するところも数多くある。

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 左大文字流三線・三味線コード奏法というのは、アップルの哲学に似ている。

 ギターは6本弦でコードを押さえるが、コードの最低構成要素は3和音だから3本あればコードが弾けるはずだ、と考えたことに由来する。

 引き算の美学から言えば、ギターの6本弦は多すぎるほど多いし、ウクレレの4本弦もボクにとっては不要だった。

 そんなこんなで、左大文字流ではオーソドックスな3和音コードを中心にして三線や三味線をコードで演奏しているが、それで十分な気もしている。

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 あるとき、もっと恐ろしいことに気がついた。

 3和音から成るコードなのだけれど、もっと突き詰めて究極的に考えたら、2音しかいらないのではないか?と気付いた。

 弦が1本では、モノフォニックな音しか出ない。それはいつまでたっても単音で、ハーモニーではない。

 しかし、2本あれば、音の広がりが出る。和音の一部が創出できるはずだ、と考えた。
 そうしてできた楽器が、当初は子供用に開発した「どんぶらこ」である。

  おかげさまで「どんぶらこ」はすでに数十棹が世に出ており、製作・演奏体験イベントは3回も実施できた。うれしい限りである。

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 もっと何かを削ぎ落としたこともある。音が広がる、音が共鳴する、音が鳴るということそのものを削ぎ落とした楽器が「サイレント三線S3」だった。

 棹しかない楽器。音そのものを消し去った楽器(アンプにはつながるよ)。これも数十棹作り、日本中に旅立っている。プロのミュージシャンの方で愛用してくださっている方もいるという。いわく

「こいつはすごい!まったくハウリングを起こさないんだ!」

と感動してくださったらしい。そりゃそうだろう。ハウる部分が一切ないんだから(笑)

 

 とまあ、思い返せば変な楽器ばかり作っているのだが、「そうか、ボクがやっていたことは引き算の美学だったのか」と教えられて納得した。弦楽器だけに弾くのは得意なのだ(え?だじゃれ?)


 最新作、「PocketRock」も実は引き算の美学から出来ている。基本システムは「どんぶらこ」に似ているが、「どんぶらこ」から引いたものがある。

 それは、”胴の幅”だ。

 三線の場合、横幅は18センチ近くある。手作り三味線はその規格を尊重して横幅18センチで作る。

 「どんぶらこ」はやや小ぶりに仕上げるため、横幅を16センチ程度に収めている。

PocketRockは、もっとも広いところで横幅12センチである。

だから、胴は手のひらにおさまる小ささである。

 これでも「鳴る」。驚くほど良く「鳴って」くれる。

 逆に言えば、アコースティックで「鳴る」限界まで胴の容積を削り落としたのがPocketRockなのだ。

 もし、ウクレレの胴に水を入れたとすれば、ポケットロックにはその半分くらいしか水が入らないだろう。それくらい容積が小さいのである

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 うーん、なんだかボクの作品は、全部引きまくっている気がしてきた(笑)。もうそろそろ引くものがなくなってきたような気もする。

 でもまあ、オヤジギャグをもう一度使うけれど、それでもやっぱりボクは「弾きまくる」のだろうけどね!


 

  




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