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【交通事故】飲酒運転車両の同乗者も損害賠償責任を負うのか?

【事例】
 YがAの運転する自動車に同乗して飲食店へ行き、4時間にわたって二人で飲酒をしました。Yは、酩酊したAが運転する自動車に同乗し、飲食店から帰宅しようとしました。帰宅途中、Aが運転する自動車は、歩行者Xを轢いてけがをさせてしまいました。
 XのAに対する損害賠償請求が認められることは当然ですが、Yに対する損害賠償請求はどうでしょうか。

1 原則:賠償責任を負うのは運転者のみ

 交通事故を起こしてしまった場合、損害賠償請求の根拠としてまず挙げられるのは、一般不法行為責任について定められた民法709条です。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 通常、この規定により被害者に対して損害賠償責任を負担するのは運転者本人だけです。
 今回の事案を離れて考えると、同乗している車が事故を起こして事故の相手を怪我させてしまった場合、単なる同乗者は事故の相手に対して損害賠償責任を負いません。

2 例外:共同不法行為責任

 法律には、例外的に、運転者以外の者に対して損害賠償責任を負担させる根拠となる規定がいくつか定められています。
 今回ご紹介するのは、共同不法行為責任について定めた民法719条です。

 ⑴ 民法719条1項

 まずは、民法719条1項です。

(共同不法行為者の責任)
第七百十九条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

 事故に至るまでの過程において、飲酒運転車両の同乗者に何らかの義務違反が認められ、同乗者の不法行為が認められるということであれば、同乗者は運転者と連帯して、被害者に対して損害賠償責任を負うことになります。

 具体的には、例えば、道路交通法65条3項では次のように定められています。

(酒気帯び運転等の禁止)
第六十五条
3 何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。

 例えば、同乗者Yが、Aが自動車を運転して帰宅することを知りつつ飲酒を勧め、道路交通法65条3項に定める注意義務に違反し、その結果、事故が発生した、という事情が認められるのであれば、YはXに対して損害賠償責任を負うことになるでしょう。

 ⑵ 民法719条2項

 次に、民法719条2項です。

(共同不法行為者の責任)
第七百十九条 
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

 今回の事案で問題になるのは、「幇助」です。
 「幇助」とは、例えば、ある人が他人に対して暴行を加える際に見張りをしたり、凶器を供与したりするなど、直接の違法行為の実行を補助し容易ならしめる行為のことを言います。
 直接の不法行為者を幇助した者は、その不法行為者と連帯して損害賠償責任を負うことになります。

 例えば、長時間の飲酒により、Aが正常な運転ができないことをYは認識していたのに、Aの提案のままにAに運転させ、運転開始後も特に制止をしなかった結果、交通事故が起きてしまった、という事情があれば、YはAの危険運転を幇助したとして、民法719条2項に基づき、Xに対して損害賠償責任を負うでしょう。

3 結論

 裁判例上、飲酒運転車両に同乗すれば必ず損害賠償責任を負う、ということではないようです。
 しかし、事案によっては、民法719条1項や2項に基づき、同乗者も損害賠償責任を負うことになります。
 冒頭で例に挙げた事案では、Yは、4時間もの長時間にわたってAと二人で飲酒し、酩酊していることを知りつつAが運転する自動車に同乗しています。
 事案の内容によって民法719条1項を根拠にしたり、2項を根拠にしたりできるのだと思いますが、結論としてはXのYに対する損害賠償請求は、認められる可能性が高いのではないでしょうか。

 記事をご覧いただきありがとうございました。
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