
デザイン会社、デザイナーのビジネスモデルについて考察する
私はデザイナーとして独立し、法人化して会社組織になったあとから、ようやく経営というものを学びはじめたわけですが、どのような仕事を選び、どのような方法で仕事を獲得し、仕事をどのようにお金に変えていくのか、もっと前に考えておけばよかったと、今でも思うところがあります。
当たり前ですが、デザイナーも一人のビジネスマンです。
また、フリーランスのデザイナーは、実は自分自身を1人雇用している経営者と同じです。
さらに、スタッフを雇用して複数人で運営しているデザイン会社のトップであれば、もちろん完全なる経営者なわけです。
デザイナーという仕事は、そのほかの仕事と、財務管理上はまったく同じであり、売上から経費を引いた「利益」を生み出すことで、はじめて経営を継続することができます。
そして経営を長く続けていくためには、その利益を生むための仕組み、つまりビジネスモデルが必要です。
今回は、デザイン会社・デザイナーのビジネスモデルのパターンについて、私なりに整理しながら、考えてみたいと思います。
デザイナーの仕事の選び方
まず、デザイナーとしてどのような仕事をしたいのか、そのイメージをなるべく具体的に言語化しておくことは大切です。
大手企業の案件にかかわりたい、地元に関連する案件をやっていきたい、美容系のデザインに集中してやっていきたい、など様々な切り口があると思います。
マーケティング用語で、「ポジショニング」という言葉がありますが、デザイナーとしてあるいはデザイン会社の経営者として、特徴的なポジションを設定することがおすすめです。
デザイナーは基本的に、クライアントから依頼を請けることで成り立つ「受託事業」になりますが、来たものはなんでもやる、手当たり次第頑張るということだけでは、ビジネスモデルにならず、いいときはいいが、依頼がなくなったときに、経営の修復が難しくなります。
いきなり理想通りの仕事に恵まれるかは別として、これから1人のデザイナーとして、ビジネスマンとして、どのように経営を組み立てていくのか、まずは自社が理想とする「ポジション」を言語化します。
デザイナーの仕事の受注方法
次に、その理想とするポジションに合致する仕事を、どうすれば受注(獲得)できるのか、を考えます。
繰り返しになりますが、デザイナーはクライアントに見つけてもらい、依頼してもらうことで仕事が成立する受託事業ですので、すぐに理想の案件に巡り会えることはありません。
一般的に、デザイナーの仕事の獲得方法には、以下のパターンがあります。
クライアントから依頼が来て直接受注
過去の実績を見て依頼が舞い込んだり、過去のクライアントから紹介が発生するパターンです。
これは、デザイナーの仕事獲得方法として一番理想形に近いのではないでしょうか。独立直後や会社設立間もない段階では、いきなりこうはならないですが、目指したい形ではないかと思います。
そのためには、実績が必要です。その実績を積み重ねるために、いまある仕事のひとつひとつを丁寧に、クライアントとの信頼関係をつくることが大切になります。
活躍しているデザイナーは、例外なく、「また次の仕事もこの人にお願いしたい」を重ねていると思います。
一方で、クライアントとの直接取引は、デザインの仕事以外にも、負担が大きくなる面があります。
たとえば、契約書の締結、見積もりの調整、スケジュール管理、その他もろもろの責務を、代理店などに頼らずに、直接背負うことになりますので、そのための学びも必要になります。
代理店・制作会社から受注
広告代理店や制作会社から、二次請けで受注する形です。
前述の直接受注ではデザイン以外の業務も自分で背負う必要があると言いましたが、代理店から受注する場合、デザイナーは比較的デザインに集中できるため、このスタイルで活動している人も多くいると思います。
信頼できる代理店や制作会社との出会いがあり、自分の理想と合致している場合は、とてもよいと思います。
一方で、先に掲げている自分のデザイナーとしての理想通りの案件にたどり着けるかどうかは、「代理店次第」となります。
前回の仕事はよかったけど、今回の仕事はちょっとやりにくいななども起こり得ます。最終クライアントの顔が見えづらかったり、自分では選びたくない仕事でも、代理店との信頼関係も大切にする必要があるため、請ける必要性があったりもします。
営業して直接受注
自ら企業などへ売り込んで直接受注する方法です。「フォーム営業」という言葉もあるようですが、私の会社にも毎日のように売り込みメールが届いています。
その努力はとても素晴らしいことなのですが、まったく知らないデザイナーから、飛び込みでメールが届いたとしても、すでに多くのメールの中のひとつとなってしまうため、努力に見合う受注ができるかは難しい面もあるかもしれません。
クラウドソーシングで受注
一番即効性の高い受注スタイルです。
メリットはとにかく、すぐに仕事を探せる、営業努力が不要になることでしょう。
デザイナーの仕事の絶対量が増えたという面において、クラウドソーシングの功績は大きいと言えると思います。
しかし、私の個人的な意見になりますが、クラウドソーシングは、多くのデザイナーが品評会的に並ぶことになるので、どうしてもデザイナー同士の競争に巻き込まれますし、クライアントとの直接的な連絡も利用規約上で制限があるため、関係性を構築しにくい面があります。
そのため、そこで仕事を受注できたとしても、継続的な形になりにくく、デメリットも大きいと思います。
デザイナーの仕事の価格設定
デザイナーのビジネスの難しいところのもうひとつが「価格設定」です。
私もフリーランスのデザイナーとして出発したころ、一番どうしてよいかわからなかったのが、仕事をどのように値付けするべきかという点でした。
フリーランスの頃は、予算があらかじめ提示され、その範囲の中で仕事をするケースも多かったのですが、徐々に実績が積み重なり、法人化もしていくと、「見積もりから提案してほしい」というオーダーが増えていきました。
(これはまた、別のタイミングで、デザイン会社の見積もりの作り方をテーマに記事化したいと思っています、デザイナーのビジネスモデルにおいて、非常に重要なテーマなので)
デザイナーは、労働集約型(自分の時間を切り売りする仕事)のため、できる仕事のボリュームがあらかじめ決まっています。そのため、高価格の仕事を請けたい、と考えることが一般的です。
もちろん、ひとつの仕事の受注額を高くできれば、それだけ利益も出やすくなりますが、ここで考えたいことは、ビジネスモデルです。
偶然(幸運に恵まれて)高価格の案件を獲得できたということで利益が発生したとしても、それでは継続性がありません。
継続的に、意図的に、安定した仕事を受注できてこそ、ビジネスモデルと呼べるものになります。
たとえば、「100万円の案件を1件受注する」ことと「10万円の案件を10件受注する」のは、同じ100万円の売上です。
100万円の案件を納品・請求・入金までに3ヶ月かかった場合と、10万円の案件を10件を納品・請求・入金までに2ヶ月かかった場合ではどちらがよいでしょうか。
さらに、100万円の案件では守秘義務ガチガチで実績はサイトに掲載できず、10万円の案件で10人の経営者から信頼を得て、実績の掲載は快諾、二次発注もいただけたとするなら、どうでしょう。
上記は極端なたとえではありますが、あながち稀でもない、よくある話な気がします。
ビジネスモデルとして優秀なのはどちらか、単に高単価案件を目指すことが正しいことなのか、一度じっくり考えてみるのもよさそうです。
私自身の話で恐縮ですが、価格においては以下の考えで設定しています。
自分の仕事の単価表をあらかじめ作成しておく
見積もりは何をどのように対応し、成果物がなにかを詳細に記載する
クライアントのご予算がある場合は、それをきちんと尊重する
クライアントのご意向に沿って、対応内容やその順序を丁寧にプランニングする
価格交渉そのものはしない(プランニングで調整)
クライアントのビジネスや事業に非常に共感できる、自分にとっても魅力的な相談であれば、採算度外視でも請ける
デザイナーが長く仕事を続けるためには
デザイナーが理想的な仕事を受注できるようになることは、道のりが長いのは事実です。ただ、私は、今ある仕事を精一杯やること、クライアントからの信頼を積み重ねていくこと、クラウドソーシング等に頼らずに、なるべく直接クライアントと会話したり、直接連絡を取れるような仕事を増やすことが大切ではないかと考えています。
すでにデザイナーとして、あるいはデザイン会社の経営者として、活動している方で、過去のクライアントからの再オーダーがないという方は、一度、自分の仕事スタイルを見直してみることがおすすめです。
もちろん、すべてのクライアントに媚びるということではありません。
素敵なクライアントとの出会いがあれば、末永く、デザイナーとして伴走しクライアントのビジネスに貢献していくことが、自分自身の豊かで継続的なデザイン活動の源泉になると思うからです。