
実績がまだないとき、自分の価値をどう伝えるのか
かつて私自身もそうだったわけですが、デザイン実績がまだないとき、どのように自分の実力を示し、仕事を獲得するのか。
クリエイター向けのセミナーなどに登壇させてもらったときに、よく受ける質問のひとつです。
「こうすればいい」というズバリの回答はおそらくないでしょうし、そこをなんとか乗り越えて、デザイナーとしての仕事を軌道に乗せていくことが、ある意味ではプロとして、独立系デザイナーとしての第一歩なのかもしれません。
この記事では、私自身の考えとともに、かつての自分のキャリアを思い出しながら、「実績がまだないときの、デザイナーとしての営業活動」について、書いてみたいと思います。
デザイナーの実績とは何なのか?
一般的に、「デザイナーの実績」というと、ポートフォリオをイメージすると思います。自社のウェブサイトに「Works」などのメニュー名で、過去の仕事を作品集としてアーカイブしているデザイナーは多いと思います。
もちろん、私もそうしています。
その意味でいえば、この記事のタイトルの「実績がまだないとき」というのは、「まだ掲載できるような実例がない」ということになるかと思います。
しかし、私の経験というか体感的に、この「Works」に掲載しているポートフォリオが、直接的に自分の価値を伝えてくれて、新規の仕事の相談につながったという感覚はあまりありません。
もちろん、強い作家性を持っているデザイナーや、有名な作品を有しているようなデザイナーであれば、作品が次の仕事を連れてくるということもあるのでしょう。
私の場合はそうではないので、いわゆるポートフォリオ=自分の実績、というわけではなさそうです。しかし、何かしらの私の情報をキャッチしてくれて、新規の仕事の相談がポロポロと舞い込んできたりもします。
クライアントにとってのデザイナーの価値とは?
私は、「中小企業のコーポレートブランディング」や「新規事業や新商品のブランディング」がデザイナーとしての主戦場です。
私にオーダーしてくださるクライアントは、経営者または事業家であり、100%ビジネスオーナーです。
多くのクライアントが、デザイナーに仕事を依頼することに不慣れであり、はじめてデザインを発注する方も珍しくありません。
そのような立場の方が、数多くのデザイナーの中から、なぜ私に依頼をしてくださるのか、そこに着目してみると、どうも「クライアントにとってのデザイナーの価値」は、「デザイナーが思う自分の価値」と少し違っているようにも思えてきます。
デザインプロセスをポートフォリオ化する
私が、会社を辞めて、フリーランスのデザイナーになったばかりの頃、掲載できるような実績は当然なかったのですが、自社のサイトを作成しました。
もうかれこれ20年ほど前になるので、記憶があいまいではありますが、おそらく、ポートフォリオの代わりに、自分はどのような考えでデザインをするのか、どのような取り組み方で提案するかなど、「デザインのプロセス」のようなものを、文章や図で示したようなページをアップしていたと思います。
会社員時代に担当したデザイン案件を掲載したかったのですが、コンプライアンス上それはできないため、ある意味では仕方なく、「デザインの結果」ではなく、「デザインの構想」を掲載したのだと思います。
しかし、不思議なもので、それが新規の問い合わせを生んでくれました。
「考え方にとても共感できました」
「デザインのことはよくわからないけど、相談に乗ってほしい」
「このような人と一緒に仕事をしてみたい」
など身に余る言葉を、何人かのビジネスオーナー様からいただき、実際に仕事につながったりしました。
今見たら、きっと熱量ばかり高くて、少々恥ずかしい感じのページだと思いますが、そのような体験から、クライアントがデザイナーに求めていることに対する解像度がぐんと上がったように思います。
他のデザイナーとの違いはなにか?
どんな職業でも同じだと思いますが、我々デザイン屋も、「他と何が違うのか」について、明確に相手に伝わっているかどうかが、営業観点では大切なのかもしれません。
まだまだ自分自身も紆余曲折していますが、ひとつだけ明確にしていることがあります。
それは、「ビジネスの立場、ビジネスの言語で、デザインする」ということです。デザイナーとしての主張より、まずはオーダーしていただくビジネスオーナーの考えや課題について、誰よりも深く思考し、それに対してデザインのできることを考える。
「ビジネスの業界に、デザイナーが顔を出している」という感覚を持っていることが、私自身の差別化ポイントであり、クライアントにとってのデザイナーの価値になっている気がしています。