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良い人だけどやらかす人の話

こんにちは。
実家が全焼したサノと申します。

僕は小学生のころ、
野球チームに所属していました。

チームメイトは僕含め
4人しかいなかったので、
僕は必死に6人の部員を集め、
チームはなんとか試合に
出場できることになりました。

しかし試合当日、僕は補欠を言い渡され、
それ以降もずっと補欠でした。

切ない野球部生活でしたが、
僕は楽しく過ごしていました。

部員がある程度増えて、
後輩もできはじめた頃、
監督は僕たち選手を集め、こう言いました。

「俺だけじゃ手も回らんから、
新しいコーチに来てもらいました。
ドリュウさんです。」

あらわれたのは、
ガリガリのおじさんでした。

「どうも、ドリュウです・・・。」

頬は痩せこけ、
目はバキバキのドリュウさんは、
終始挙動不審で、真顔でした。

ドリュウさんのプロフィールを聞いたところ、
37歳独身男性、無職、
車内生活とのことでした。

たまたまこのあたりで寝ていたら、
監督からスカウトされたそうです。

確かに監督は猫の手も借りたいと
言っていましたが、
もはや本当に猫の手の借りるほうが
マシじゃないかと
僕たちは思いましたが、
監督の言うことは絶対なので、
従うことにしました。

ドリュウさんは、
監督の補佐という位置づけで、
意外にも熱心に指導してくれました。

「寝ていたらスカウトされた人」
とは思えないくらい、
僕たちチームのことを大事にしてくれました。

ドリュウさんと過ごす時間が増すにつれ、
子供思いの優しい人だと気付きました。
しかし、ドリュウさんは
やはり変わっているところがありました。

ある真冬の早朝、
グラウンドで僕たち選手が
寒さに震えていると、
ドリュウさんは

「お前らかわいそうやから暖房作ったるわ!」

と言い、どこかへ行きました。

どういうことだろう?と思いつつ、
僕たちはその場で待っていると、
ドリュウさんはドラム缶に
枯れ木を入れて戻ってきました。

そして、そこに車の中に入っていたであろう、
ガソリンを注ぎ始めました。

なんとなく嫌な予感はしていましたが、
ドリュウさんはそこに火をつけました。

すると、ドラム缶の中から、
見たことのない火柱があらわれました。

選手たちも、ドリュウさんさえも、

「ああ、終わったな」

という顔をしていました。

その場でドリュウさんは
野球部をクビになりました。

世の中にはドリュウさんのように
いい人だけど、やらかしてしまう人が
結構いると思います。

そんなドリュウさんのような人が、
活躍できる場がちゃんと
世の中に用意されているといいなと、
子供ながらに思いました。

ドリュウさんがクビになった数か月後、
僕たちの地元に、オウム真理教の
信者の方々が大量に移動してきました。

地下鉄サリン事件の後だったので、
もちろん地域住民は反発していましたが、
万が一報復されると怖いので、
誰も強くは言えませんでした。

そんな中、マスコミが
僕らの地元にやってきました。

そしてオウム真理教について
テレビのニュースでも
取り上げられました。

住民たちが

「出て行ってくださーい」

と小規模でデモをしている様子が
テレビで流れていたのですが、
そんな中1人だけ

「でていけぇぇぇぇ!!!!!」

と全力でデモに参加している人が
映っていました。

ドリュウさんでした。

ドリュウさんはデモの
リーダーのようでした。

そういえば、
ドリュウさんは与えられた役割を
一生懸命にやる人だったなと、
思い出しました。

ドリュウさんが活躍できる場は
そこだったのかと、
僕は驚きましたが、
何はともあれドリュウさんの
居場所があって良かったです。


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